第21話 さすらい 一


 コンスタンスは、パリの大通りを歩いていた。ビルが立ち並ぶこの辺りへ来たのは初めてだ。ここへ来るまでずっと緊張していた。

 道路を自動車が走っていく。だが馬車もまだまだ多く、すぐ目の前をファエトン型四輪馬車が走っていく。馬車内には身なりの上品そうな紳士のすがたが見える。自動車や馬車のたてる音や煙に咳が出そうになった。

「たしか……この辺りのはずだわ」

 昨日、図書館で見つけた雑誌に印刷されていた住所を頼りにここまで来たのだ。目当ての建物を必死にさがした。

「君、どこへ行きたいんだい?」

「え? あの、」

 コンスタンスがおどおどと周囲を見ている姿に、場所をさがしていることが知れたのだろう。声をかけてきた人物を見たコンスタンスは顔をあげた。

「お嬢さん、どちらへ行きたいのかな?」

 かさねて訊かれ、コンスタンスは息を飲んでいた。

「あの、あの……」

 そこにいたのは、二十代ぐらいの洒落しゃれた雰囲気の女性だったのだ。だが、

「僕が知っている場所なら案内してあげるよ」

「は、はあ」

 コンスタンスは再度、鳶色の目を見開いた。

 金髪に碧の瞳の相手は、ほっそりとした身体をグレーの薄手のジャケットにつつみ、ほっそりとした右手を腰にあてている。胸ポケットには白薔薇がかざられ、それがジャケットにえて、なんとも粋に見えた。かすかにふくらんだ胸、ひきしまった腰、すらりとした手足。ダンサーのようにしなやかな身体は、見る者の目をひきつける。

 だが、コンスタンスの気をひいたのは、ジャケットとおなじくグレーの帽子からこぼれる金髪……結い上げているのかと思ったが、ちがう。かなり短いのだ。最近では女学生でも髪をみじかくする生徒もいるが、だが、そんな、女の子がすこし冒険した程度の短さではない。学生なら規則違反者として教師から注意されるぐらいの長さしかないのだ。

 だが、髪もさることながら、コンスタンスが一番驚いたのは、ほっそりとしたその腰をつつんでいるのが、……スカートではなく、やはりグレーの……ズボンだということだ。

「あ、あの……」

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