不幸になりたい少女
ニョロニョロニョロ太
日常
最近、視界の端をクロアゲハが横切っていく。
確か、クロアゲハは、見たら不幸になるって噂があったような。
それならうれしい。待ち遠しい。
やっと不幸になれるのだろうか?
少女は不幸になりたかった。
人生に退屈してる訳でも、なにかの罪悪感から自分を罰したいという訳でも、幸福すぎて飽きたという訳でもない。
正直、そんな重い理由はない。
幸せの絶頂と言える時は少ないけど、なんやかんや普通の生活を送っている。
なんやかんや。
いろいろあって。
偶然にも。
結果的に何とかなっている。
例えば、テスト勉強を全くしなかったけど、
なんやかんやあって、なんとかなった。とか。
例えば、委員会の提出物ができなかったけど、
なんやかんやあってなんとかなった。とか。
例えば、国家や外国や宇宙人や妖怪から命を狙われたけど、なんやかんやあってなんとかなった。とか。
とにかくなんとかなってしまっているこの現状が、不満で不安だった。
このままじゃあ、あの時味方してくれた動物たちを敵にしたとしても、なんとかなってしまうんじゃないかと思ってしまう自分が不満で不安だった。
だからそんな甘ったれた考えの自分を変えたいと。
そのきっかけが欲しいと。
不幸になりたかった。
何かに大失敗して、友達からも家族からも学校からも国からも世界からも、信用されず、信頼されず、今後の人生が崩壊寸前になってしまえば。
寸前じゃだめだ。なんとかなってる。
そう、完全に崩壊してしまえば。
きっと私は真面目に生きていけるはず。
真面目に生きても取り返しがつかなくて、それでも取り
返そうとして真面目に生きていけるはず。
なんとかなる。に甘えなくなるはず!!
そのためには不幸にならなくちゃと。
少女はいろんなことをした。
自分の元に来た不幸の手紙を、全部自分のところで止めてみたり。(殺しに来る系は除く)
呪いのわら人形に自分の髪の毛をいれて、むしろ自分の髪の毛だけで呪いの人形を作ってみたり。
確実に出るといわれる心霊スポットに行って、悪霊をお持ち帰りしたり。
しかし。
自分の元に来た不幸の手紙は全部偽物だったり。
そもそも呪いの人形の使い方を知らなかったり。
同級生の何人かによって力ずくで除霊されたり。
例のごとく、なんやかんやあって、
少女は不幸になれなかった。
不幸には2種類あると思う。
1つはわかりやすい、絶望のどん底に落ちる不幸。
もう1つは、自分の思い通りにならない不幸。
そう考えると、少女はすでに、不幸なのではないか?
クロアゲハを見かけてから、待っても待っても、少女に不幸は訪れなかった。
結局、この噂は嘘だとか、迷信だとかというだけだったらしい。
またもや、なんやかんやあって、少女は不幸になれなかった。
少女はクロアゲハと戯れながら、
「ああ、また不幸になれなかった。」
そう不幸そうにつぶやいた。
おわり
不幸になりたい少女 ニョロニョロニョロ太 @nyorohossy
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます