親友は、ちゃんと言ってくれた


 時刻は午後7時半頃。

 電車にまたもや無賃乗車し、行きとは様変わりした店や看板の電飾だらけの夜道を歩いて、ユウの家へと到着した。


 着くなり玄関には向かわずに、二階辺りを見やる。

 確認できたのは、閉められたカーテンの奥から光が透けていて明るい窓が、間を空けて二つ。


ーー確か、右側の窓の向こう側がユウの部屋だった。部屋の電気が点いてるから、そこに今居るってことだよね。


 ふわりと宙に浮かび上がり、ふよふよと吸い込まれるようにして、オレから見て右側の窓へと身体を念じて動かす。

 窓をすり抜けた先には、予想通り、ユウが居た。


 無音無言で窓から侵入して来たオレにユウは全く気付いておらず、勉強机の椅子に座って勉強をしている。

 上下同じカラーリングと生地、デザインの服を着ていることと、黒髪が若干濡れていることから、その衣類はパジャマで、ユウが風呂から既に上がっていることが分かった。今は、就寝前の勉強と言ったところか。


ーー勉強に集中してるのは分かるけど………オレが帰ってきたことには3秒以内に気付いて欲しかったんだけど!


「ただいまっ!」


 自身が帰ってきたことを直ぐに気付いてもらえなかったことが思いの外寂しかった為、机に向かってボールペンを走らせているユウの背中に、少し煩いくらいに大きな声で帰宅を知らせた。


 ビクッ、と両肩を跳ねさせたユウが、オレの居る真後ろへと顔を上げて振り向く。その顔は、驚きのあまりに眼が大きく開かれていた。


 『気付いて』という思いが強すぎて声に反映されてしまっただけで他意はないのだが、捉えようによっては、勉強中のユウを邪魔する嫌がらせである。


 『やめろ』と怒られるかもしれないと思い咄嗟に身構えるが、そんな事は無く。

 ユウは驚いたカオをいつもの無表情に直してから、優しげな声音で言葉を紡いだ。


「太陽、お帰り」


 それは、欲しかった言葉そのもので。

 耳に届いたその瞬間、オレの心は喜びで満たされたのだった。

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