第四話 優しい幽霊の子守唄
オレは、教育アニメに感動した
「さて、ユウの腹も満たせたことだし、洗濯物も外に干しに出したし、使った食器も洗ったことだし、次にすることと言えば当然…お昼寝だ!」
「なんでだよ」
食器を洗い乾燥機の中に入れ終わったユウが、手をキッチンに備えているタオルで拭いながら突っ込む。
「俺はあまり眠たくないんだけど…」
ユウはタオルを綺麗に畳んでキッチンに置き、ローテーブルとダイニングソファの間で胡座座りするオレに近付いて緩慢な動作でソファに腰掛けた。
テレビで2チャンネルの教育用アニメを見ていたオレは、自身の右斜め後ろに座るユウへと身体ごと振り返る。
「ユウは普通にしてるけど、目の下にクマが出来てるよ。今はマシにはなってるけど、目も赤く腫れたままだしね。保冷剤とかがあるならタオルで巻いて目に当てよう」
「…保冷剤とか、そこまでしなくていい」
ユウは腫れた目を右手で覆い隠す。
勝手に冷凍庫を開けてタオルに包んだ保冷剤を押し付けたいところだが、物に触れないオレは冷凍庫の扉はすり抜けられても保冷剤を掴むことは出来ない。
「じゃあ、寝よ?」
せめて、寝るだけでもさせたかった。
「でも、眠たくな「寝、よ、う」…分かったから、真顔を俺の顔に近付けないでくれ。地味に怖いから」
「誰の真顔がホラーだよ」
言うことを聞いてくれたのは嬉しいが、最後の一言が余計だ。地味に怖がられたオレは地味に傷つく。しかし、折角ユウが睡眠を取る気になったと言うのに、会話をだらだらと続けるのはよろしくない。オレは先程の発言を水に流すことにした。
「まぁいいか。ベットで寝る?」
「いや、ソファで寝る」
『身体痛くなるからベットの方がいいよ』と二階で休むことを勧めるが、ユウは『此処でいい』とソファに横たわった。身体の正面をテレビに向け、背凭れに背中をくっつけて肘置きを枕代わりに頭を安定させている。直ぐに寝る体勢は整ったようだ。
ユウに配慮をして『テレビは消してもいいし、音量を下げてもいいよ』と申し出ると、『そのままでいい』と返される。
「ありがとう。じゃあ、おやすみ」
声を掛ければ、ユウは『おやすみ』とだけ返してそっと目を閉じた。
就寝前の挨拶を終え、オレは再びテレビへ向き直る。幼少期に父と見ていた教育アニメだが、17歳まで歳を重ねた今見ても、なかなか面白い。画質と共に若干変化した作画と、声を聴いて判った声優の交代から10年以上経過している年月を感じるが、それ以外は概ね昔と変わりが無かったことに感動する。
ーー懐かしー。オレ、特にこのキャラが好きだったんだよ。
結局、飽きずにアニメがエンディングを迎えるまでの約三十分間を過ごした。次回予告を経て、テレビ画面にCMが流れ始める。ふと、背後で眠っているであろうユウの寝顔が気になった。
ーーそういえばオレ、ユウの寝顔を見たこと無いなぁ。
因みに、オレは何度もユウに寝顔を見られている。放課後に図書室で待ち合わせをした日のうち、ユウより先にオレが図書室に集まれた場合、オレは通学バックを枕に寝ながらユウを迎えていたのだ。図書室は、常に静々と眠りを誘う雰囲気を漂わせている。その上することが無く、話し相手も居なければ、オレは十分と待たずに眠ってしまう。その度に肩を軽く叩いてユウが起こしてくれていたのだ。
ユウからしてみればオレの寝顔は見慣れたものだろう。だが、オレは一度も寝ているユウを拝顔したことなど無い。
それは少し…ズルイと思うのだ。
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