オレは、インドア派
ユウに先導されて通されたリビングは広かった。
入り口から入って右側には、DVDディスクの並べられた棚の上にテレビ。その手前にローテーブル、ダイニングソファが配置されており、床には藤色のカーペットが敷かれている。左側にはキッチンが併設されていて、キッチン横のカウンターテーブルの端にはココアパウダーや苺ジャムの瓶、海苔玉のふりかけ等の食品が置かれていた。
床板に多少の傷はあれど、キッチンは清潔で隅まで清掃の行き届いており、ソファやカーペットにはシミ一つ見当たらない。オレの家のリビングみたいに、積み上げた漫画雑誌や誰が使うのか分からない鉄アレイなどの余計な物が一切無い為、まるで住宅見学用のモデルルームのようだった。
「ユウもユウのお父さんも部屋が綺麗だから、リビングも散らかる筈が無いよね。こんなに綺麗だと、散らかすのが申し訳ないレベル」
「太陽の家のリビングだって綺麗だっただろ」
「あれは、ユウが家に遊びに来るって聞いた母ちゃんが張り切って掃除したからだよ。張り切り過ぎて、自分の部屋の掃除以外に、父ちゃんと二人で庭の草むしりまでさせられてたんだから」
ユウの家の玄関までなら何度か漫画の貸し借りをした時に入ったが、玄関から先は一度も無い。オレがユウの家に上がったのはこれが初めてになるが、ユウはオレの家に何度も遊びに訪れている。
学校での友人が多かったオレだが、実は、高校生活の中で家に招いた友人はユウ一人だけだった。
ユウ以外の友人達と仲が悪かった訳でも、嫌っていた訳でもない。ただ単純に、友人達みんながアウトドア派だったのだ。
放課後や休日には、彼等から様々な場所へと遊びに誘われた。カラオケだったり、ボウリングだったり、ゲームセンターだったり、ショッピングだったり、少し離れた海へ釣りにも出掛けたこともある。それらは楽しかったのだが、どちらかと言えばインドア派のオレには、流石に毎週はキツかった。精神的に。
『実はオレ、インドアなんだよ』と告げれば彼等は、『じゃあ時々誘うからその時は来てくれよ』と誘う頻度を減らしてくれた。外出する回数を減らした分だけ、家に一日中居る日が増える。一学年の頃は家に一人でゲームをしていたが、二学年に上がってユウと友人になると、オレの家に二人でゲームをして遊ぶ休日を過ごすようになっていた。
ーー何でオレの家に集まって遊ぶようになったんだっけ?…ああ、オレの方からユウを誘ったんだった。
友人になったばかりの頃のユウは、毎日を勉強や読書、テレビを見て過ごすという、若者離れした青年だった。ゲームが好きだったオレは、そんなユウにゲームの面白さを教えたくて、自身の家に『テレビゲームをしに遊びに来ない?』と自分から誘ったのだ。
ーー初めてユウがうちに来たのは6月だったよなぁ。確か、時期的にめちゃくちゃ雑草が生えてた時。父ちゃんとひいひい言いながらひたすらやってたっけ…。
『父ちゃん』と心の中で声に出した時、不意に、両親のことが頭に浮かぶ。
ーー父ちゃん、母ちゃん…二人とも、オレと一緒にあの日死んじゃったんだろうな。
忘れもしない、あの日の夜を思い出す。
あの日オレは強盗犯に刺された後、固定電話の下へ這って移動していた時に、心臓辺りに血を滲ませた父と廊下で、喉を横に斬られていた母とリビングの入り口付近ですれ違っていた。
『と、とう…ちゃん。だ、い…じょ、ぶ?』
『……………』
『かぁ、ちゃ…ん。ま、てて…い、ま…きゅ…きゅう…よぶ、か…ら…』
『……………』
すれ違い様にそう声を掛けたが、返事は聞こえてこなかった。這うことに必死になっていた為よくは見ていなかったが、転がった身体の方はピクリとも動いていなかった気がする。
多分、この時にはもう、手遅れだったのだろう。オレが絶命したのも、その後直ぐだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます