第7話 チャーシューウム
チャーシューラーメンの新田七屋
オレが働いているお店の屋号だ。
こだわりのチャーシューがウリで、
麺が見えないぐらい器の上面を覆っている
チャーシューラーメンを推した中華料理屋のお店。
正直、ウチの店の料理はまずい。
ラーメンにしたって、餃子にしたって、チャーハンにしたって、
とてもじゃないが、おいしいとは言えない。
店長が言うには、「この味はオレにしか出せない究極の味」だそうだが、
ご自慢のチャーシューですら、
……?
といった感じだ。
まぁ、そう誤解をさせているのが、
オレのせいだってところもあるのだが、
店長の味覚には本当に参ってしまう。
かと言って、
お客さんがぜんぜん来ないのかと言うと、
そういうわけでもなくって。
休日のみならず、平日にも列をなすぐらいのお客さんを獲得している。
なぜかって?
そこがオレのチカラの見せ所。
聞いたことがある人もいるかもしれないが、
例えばリンゴやミカンの香りを嗅ぎながら飲んだ水は、
なぜかリンゴジュースやオレンジジュースのように感じられるらしいんだ。
そこで、オレが考えたのが、
オレが使える幻覚のチカラを使って、
ウチの料理を食べてくださっているお客さんに、
食べている間、中国の景色を見せるってこと。
あからさまだとバレるというか、変に注目を集めちゃうから、
サブリミナルをオレなりにアレンジした手法で
見せるようにしているんだ。
ちなみに、
サブリミナルってのは映画やCMでは禁止されている、
一時話題になった手法で、
映像としては見えていないほどの一瞬の間に
例えばジュースの絵を差し込んでおくと、
目では見えていないのに、脳はしっかりそれを認識していて、
映像を見た本人は気がついていなくても、
映像を見終わった後にジュースが飲みたくなってしまう。
みたいなやつ。
一種の催眠みたいなものなんだが、
そしたら、どうよ。
あのまずいラーメンをみんな
おいしいおいしい。
本場の味だ!
っていいながら食べるわけ。
きっと、本場のラーメンなんて食べたことのないのにね。
噂が噂を呼び、
今では行列のできるラーメン店に仲間入り。
あまりの評判に2号店を出すような話があるらしいんだけど、
オレがいない店舗でこの味は、さすがに厳しいと思うんだよ。
だから、店長には2店目を出すのはもう少し考えましょうって
言っているんだけど。
店長、俄然やる気出しちゃってて。
最近の悩みはそれかな。
オレが自分の店をはじめられるぐらい
うまいラーメンつくれるようになるまでは
2号店の話は無い方向でってのが希望だな。
バチン!
机に箸を勢いよく、叩きつける音が聞こえたかと思うと、
男性2人組のお客さんがなにやら不機嫌そうに席を立ち、
お会計を済ませて早々に店を出て行ってしまった。
料理はほとんど残ったままだ。
でもね、本場(中国)の人には効かないのよ。
本場の人に中国の景色を見せても効き目がなくて、
ストレートな料理のまずさが伝わっちゃって、
ああして、怒って帰っちゃうんだ。
おしまい。
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