第4話 キラメキヒラメク

小さい頃から光るものを集めるのが好きだった。

太陽にかざすとフワフワした青や黄色の影を落とす色彩豊かなビー玉や

壁や地面に跳ね返ると中に入っている仕組みで発光するボール、

宝石を模したガラスのキラキラ。

ボクが好きなのはそういった子供ゴコロを刺激して満たすようなものではなくて、

ボクだけに見える光。

それは言い換えればある種のヒラメキに似た現象なのかもしれないのだが…。


例えば、街を歩いていて、見かけたショーウィンドウに

並べられたいくつものバッグがあるとする。

ボクにはその中のひとつが光って見える時があり、

光って見えた時は必ずその商品はその後、

メディアなどで話題となって爆発的な人気を集める。


例えば、テレビを見ていて番組の中で一人だけ体のまわりに

ホタルのようなやさしい光を放っている人がいる。

するとその人は、時の人となり一世風靡を巻きあげる。


ボクが集めているのは、そういった光るもの。

ボクだけに見える光もの。

光を見つけた時にその内容をすぐにノートに書き溜めているのだが、

それがボクの宝物なんだ。


それにしても今日は駅前がやけに賑わっているな。

何かイベントをやっているようだが…。

なるほど映画のプロモーションで、主演の俳優陣が来ているようだ。


ボクに光が見える力があるからと言って、

彼らが皆光って見えているわけではない。


やはりその中でも抜きに出た本物だけに光が見えるのだが、

あの俳優陣の中には光っている人はいないな。

この映画もそれほど流行らなさそうだ。


男はふとすぐ隣にあったカフェのメニューが並んだ

ガラスに映った自分の姿に目をやった。

「はぁ…」少し口元で笑みを作り、小さくため息をはく。

僕だって光っていない。


キラリ。

ガラスに映った男の肩越しに何かが光って見えた。

男はすぐに振り返ると光があったと思われる方向に目を凝らす。


キラリ。

光った!


男は光の方へ向かって歩き出した。

近づいてみるとそれは、

電車に乗る際にお金をチャージしておくことで

切符の代わりに使えるICカードの特設販売所だった。


限定販売で先ほどの映画の仕様のものが3種類売られているのだが、

映画の中で登場するらしいキャラクターのイラストが

あしらわれているカードが光を放っていた。


男は想像してみる。映画が思いの外大ヒット、

限定販売ということも手伝い、映画ファンの間でプレミアがつくカードになる。

いやいや待てよ。

3枚あるカードのうち、キャラクターがあしらわれたものだけが光っているということは、映画よりもキャラクターが一人歩きで人気を集めて…

いや、映画は大コケ、しかし10年後ぐらいにカルト的な人気がなぜか起こって…、

いやいや、いやいや。

光を放つものや人がなぜ光を放っているのかを想像することも

楽しみのひとつだった。


おっとノートに書いておかないと。

男は懐から小さなノートとペンを取り出し、

ペンのキャップを口でくわえて開けると、

ノートをペラペラと開いて最後の書き込みのある次のページに期間限定…と書き加え出した。

とその時、ドン、と背中に何かが当たる衝撃を感じたかと思うと、

「あっ、すいません。」という女性の声と、チャラチャラと小銭が床で跳ねる音。


口のキャップをペンに戻しながら男が振り向くと、

男に当たったかと思われる女性が落とした小銭を拾っている。


男も気を使ってか小銭を拾おうとかがんだのだが、

その際、ノートがハラリと書き込んだ面を上にして落ちた。

慌てて拾ったのだが、女性の目にノートの内容が映り込んだかもしれないなと脳裏をよぎる。


拾い集めた小銭を女性に渡そうとした時、

「あっ」男が小さく声を上げた。

女性はコンビニのバイトで一緒の

「幸田さん!」

だった。


名前を呼ばれて女性も顔を上げ、男の顔を見た。

「柊くん!あっごめんなさい、私ICカードを買おうと思って、

サイフを触ってたら、あの、当たっちゃって、あの、その…」。


アクシデントとハプニングの二重奏にやられて幸田さんが慌てているのが分かる。

あれ?ちょっと かわいいな。と思ったとき、

幸田さんがやさしい光を帯びだした。


おしまい。

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