約束の日
ぶり大根
紫苑
「ただいま」
ガチャリと玄関を開け、仕事の疲れを感じさせる声で康二は玄関をくぐった
普段なら、もう少し帰りが遅くなるのだが今日は特別な日だった
同僚に仕事を任せ、先に帰らせて貰った
妻の朱里は俺を笑顔で迎えてくれる
「前に約束した物を買ってきたよ喜んでくれたら嬉しいけど」
そう言いながら朱里に鮮やかに色付いた紫苑の花束を渡した
自分自身、柄では無いことをしてるいる自負があり後頭部をさすりながら下を向いていた
朱里は大層喜んでくれているようだ
いつもより笑顔が眩しいように感じる
何て言ったって今日は朱里との結婚記念日なのだから
康二自身、花より団子というのはよく分かってる
今日はいつもより張り切ったものが食べたくもなる
「朱里はゆっくりしているといいから、今日は俺が普段なら見せない素晴らしい腕を奮ってやるから期待しとけよ」
台所へたち、今日の為に考えたレシピを頭で思い出しながら鍋に火をかける
お互い中華料理が好きだったから、今日は本格的な中華を朱里に振舞ってあげようと思っていたのだ
ー
ーー
ーーー
鍋を振るいながら、湯気と共に香ばしい匂いが康二の鼻をくすぐる
康二はぼんやりと、朱里と出会った時の事を思い出していた
気づけばあっという間に料理が完成していた
普段よりも量が多いのはご愛嬌っていうことで
それじゃあ食べようかな、そう言いながら康二は自分にはビールを朱里にはコーラを注いでやった
では乾杯だそう言い、グラスをカチンと合わせる
2人だけの部屋にグラスの音はよく響いた
「朱里、結婚記念おめでとう」
仏壇に置かれた写真は優しげに笑っていた
約束の日 ぶり大根 @buridaikon
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