第38話 お嬢様と魔力の実

 

 三人で甲板にあがって。

 満天の星空を見ながらいろんな話をした。


 ナナミちゃんがずっと腕にだきついてるのは……寂しいのかな。

 別の世界に来たんだもんね。

 そっと頭を撫でたら、嬉しそうに頬を近づけてきた。

 

 時々、流れ星の長い尾がキラキラ光る。

 すごく綺麗。

 うん。


 ――私、やっぱりこの世界が大好きだ。

 


 しばらくして。

 お父様とお母様が帰ってきた。


 普通ダンジョンって、六人くらいで潜るんだけど。

 こんなに早く攻略してくるなんて。


 ……ウチの両親って、本当にすごいんだなぁ。

 

 よく見ると、背中に大きな袋を背負っている。

 お母様なんて、真っ赤な鎧だし。

 なんだか。

 サンタクロースみたい。


「それが、魔力の実なの?」 

「いや、これはついでだよ」


 お父様が重そうな袋を下ろすと、中には大きな魔法石がたくさん入っていた。

 

「スゴイ量……しかもみんな大きい……」


 魔法石の大きさは魔物の強さに比例するから……。

 ちょっとこれ、すごいんじゃないかな!


 わかってたけど。


 お父様とお母様って。

 転生物のチート主人公くらい強い気がする。


 もうお父様とお母様だけでラスボス倒せたりしないのかなぁ。



「うふふ。お待ちかねの『魔力の実』はこれよ」 

 

 お母様が大事そうに取り出したのは、全体的にふっくらとした丸みを帯びた果物。

 全体的に紅く色づいている。

 

 どこかでみたことあるような?

 

 えーと。

 えーと。


 そうだ、桃だ。


 前世で好きだった果物、桃に似てるんだ。

 私、桃大好きだったんだよね。


「「美味しそうー」」


 おもわず口に出した言葉が、とナナミちゃんと被った。

 お互い顔を合わせて照れ笑いする。


 ふと、お父様とお母様を見ると。

 ちょっと困った顔をしてるんですけど。

 

 なんで?

  

 キナコなんて、すっごい嫌そうな顔をして顔をそむけている。

 食いしん坊ドラゴンなのに、なんでだろ?

 桃は嫌いとか?


「お母様?」

「……え、ええ。大丈夫よ。二人にはこれが美味しそうにみえるのね?」

「はい、とても。……もしかして美味しくないのですか?」


「それすっごく、ニガイからね!」


 キナコが顔をそむけたまま大きな声で叫んだ。

 お父様もお母様も、うなずいている。


 あのキナコが嫌がるくらいだから。

 きっとすごくニガイ……のかな?



 あらためて、お母様の持っている果物を見る。

 やっぱりすごく美味しそうな桃にみえるのに。


 うーん。


 やっぱり異世界って不思議。 



**********


 次の日の朝。


 ナナミちゃんの前には、桃……じゃなくて。

 例の果物『魔力の実』が並んでいた。


「苦味はとりのぞいて一晩砂糖漬けにしたから、そんなに苦くは……ないわよ」 


 顔は笑顔だけど、少し目がおよいでいる。


「ねぇ、お母様。これを魔力がある人が食べるとどうなるの?」

「別になにもおこらないわよ。ただ美味しくないってだけかしら?」


 お母様?

 今美味しくないっていいましたよね?


 果物の砂糖漬けって、キウイとかパイナップルとか。

 すっぱいフルーツを甘くしたりするけど。

 ニガイ果物ってどんな感じになるんだろ。


「……お母さん、これを食べたら魔法が使えるんですよね?」

「そうねぇ。適性が合えば使えるようになるわ」

「適性……ですか?」

「そうなの。適合するのは、だいたい十人に一人くらいかしら」


「それでも、お姉ちゃんの役に立てるなら!」


 ナナミちゃんは、ちらっと私を見た後。

 覚悟を決めたように、魔力の実に手を伸ばした。



 そっか。

 誰でも使えるようになるわけじゃないんだ。


 ……でもきっと。


 ナナミちゃんは使えるようになると思うな。


 だって。

 

 ――物語のヒロインだから。



「あれ? 美味しいです」


 一口食べたナナミちゃんは、ビックリした表情になった。

 

「桃みたいな味がします。……これ桃じゃないんですか?」


「私も食べていい?」

「もちろん! すごく美味しいですよ」


「ご主人様、それはやめた方が……」

 

 キナコが慌ててとめようとする。

 なんでだろ?

 ナナミちゃんが美味しいっていってるのに。


 魔力の実を口に含んだ瞬間。


 苦味と甘みと、よくわからない奇妙な味が舌に伝わった。

 なにこれ?

 

 食べれないことはないけど……美味しくない。

 少なくとも。

 私の知っている桃の味じゃない。


 ナナミちゃんは、きょとんとした表情で私の顔を見ている。


「うふふ、ナナミちゃんには適性があって、クレナちゃんにはなかったのね」


 え?

 どういうこと?



********** 

  

 みんなで訓練場に向かう最中に。

 お母様は、あらためて『魔力の実』の話をしてくれた。



 一つ目は、高レベルダンジョンに生えてること。


 二つ目は、普通だととてもまずいんだけど、適合者には美味しく感じること。


 三つ目は、正確には魔法が自由に使えるようになるわけじゃないこと。



 ……自由に使えないってどういうことなんだろ?

 

「それじゃあ、さっそく試してみましょう」


 お城の訓練場につくと。

 お母様は、私とナナミちゃんに横に並ぶように指示した。


「まず、二人で手を繋いでみて」


「手ですか?」

「ハイ、お母さん!」


 ナナミちゃんは、嬉しそうに手を握ってくる。


「次に、クレナちゃん。魔星鎧スターアーマー に魔力を流すように、つないだ手に魔力を流してみて」


 手が光り出して。

 魔力がナナミちゃんに流れる感覚がした。

 ちょっとだけ、くすぐったい。


「お母様、これで良いの?」


「クレナちゃんは、なんともない?」

「はい、とくになにも?」


 ちょっとだけ、くすぐったかったけど。

 それくらい? 

 

「さすが、クレナちゃんね! 普通の人ならしばらく倒れてるわ」


 ええええ?

 どういうこと?


 お母様はナナミちゃんに近づくと、初心者用の練習アクセサリを首にかけた。


「さぁ、これで準備が出来たわ! ナナミちゃん、魔法を試してみましょう」


 嬉しそうに、ポンと手を叩く。


「お母さん? これで魔法使えるようになったの?」

「お母様? 今のなんだったんですか?」


 私とナナミちゃんは、同じように頭にハテナが浮かんでいる。


 お母様は微笑みながら、あらためて魔力の実の説明をしてくれた。



「魔力の実ってね、適合者の体に魔力をためる箱をつくってくれるものなんだけど」

「箱?」

「そうよ。生まれつき魔力を持っている人は、みんな生まれた時から普通に箱をもっていて。星から流れる魔力を自然に蓄えることが出来るの」


 つまり、箱って。

 魔力を体に蓄えておく場所? かな?


「でも魔力の実はね、箱は作ってくれるんだけど、魔力を自然に蓄える能力は手に入らないから」

「それで、ナナミちゃんに魔力を送り込んだんですか?」


「ピンポーン! 正解よ!」

 

「しかも、送り手の魔力の十分の一しか補充できないから、すごく効率も悪いし。それで普通はあまり使われないのよ」


 なんだか難しい話だけど。

 とりあえず、ナナミちゃんが魔法を使えるようになったみたい。


「お姉ちゃんの魔力……。嬉しい! ありがとう!」


 ナナミちゃんは、すごく嬉しかったみたいで。

 私に抱きついてきた。


 逆境をはねのけちゃうなんて。

 さすがゲームのヒロイン!

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