第33話 お嬢様ともう一人の星乙女

 

 あれから。

 私たちは、乙女ちゃんといろいろ話した。


 彼女の名前は、ナナミ。

 どんな漢字なのかも書いてくれたんだけど、私たちには理解できなかった。


 ナナミちゃんは、学校に向かう途中、突然周囲が光りはじめて。

 気がづいたら、知らない場所にいたんだって。

 

 ――その辺はゲームと全く同じ展開みたい。  

 

 乙女ゲーム「ファルシアの星乙女」の話をしたら。

 聞いたことはあるけど、遊んだことはないって。


 年齢をきいたら、私と同じ十三歳だった。


 

「王宮に連れてこられた時には、不審者として捕まるんだって思ってました」

「それで、暴れたの?」

「それはもう! 全力で逃げようとしたんですけど。勘違いだったんですね」


 楽しそうに、身振り手振りで会話をするナナミちゃん。

 すごく表情豊かでカワイイ子だなって思う。

 さすが、ゲームのヒロイン。

 

 ちなみに。

 私は……すごく忙しい!


 私の言葉は、ナナミちゃんに伝わるけど。

 彼女の言葉は、ジェラちゃんとガトーくんに伝わらないから。


「あはは、大変そうだなね、クレナちゃん」

「もう、ガトーくん。笑い事じゃないからね!」

「ごめんごめん、でも、クレナちゃんのカワイイ声で通訳してくれるのは嬉しいな」


「な?!」


「そういうの! 本気にされちゃうからやめた方がいいと思うよ!」

「えー、本気にしてくれていいのになぁ」


 なんでそういうことさらっと言うかな。

 私じゃなかったら、絶対危険だよ?


 もう。ホントに、わかってるのかなぁ。


「でもよかったじゃない。未来の彼女が早く会いに来てくれたんだから」


 ジェラちゃんが、ガトーくんをみてニヤリと笑う。


「いやー、僕はやっぱりクレナちゃんのほうが好きだな~」


「そういうとこだからね! ガトーくんの悪いところ!」


 もう。

 さっきから、通訳できる内容じゃなかったので。

 ナナミちゃんがぽかんとこっちを見ている。


 彼女は、私の声は聞こえてるけど、ガトーくんとジェラちゃんの言葉がわからないから。

 きっとなにかのコントみたいだよね。


「ごめんね、ナナミちゃん」

「いいえー、皆さん仲が良いんですね。楽しそうで羨ましいです」

「うん、なんか小さい頃からの幼馴染みたいな関係なの」


「まぁ、いわれてみればそうよね」


 ジェラちゃんが照れた表情でつぶやく。   


「ナナミも向こうの世界を知ってる仲間だから、仲良くしてあげるわよ!」

「素直じゃないな、ジェラは。これからよろしくね、ナナミちゃん」


「はい! すごく心強いです。よろしくお願いします!」


 ジェラちゃんとガトーくんの言葉を伝えたら。

 ナナミちゃんも嬉しそうに返事をする。

 彼女の大きな瞳から、また涙がこぼれた。


「ナナミちゃん?!」

「あれ? おかしいです。なんだか、ほっとして……」


 両手で顔を覆い、嗚咽おえつ を漏らしはじめた。


「ナナミちゃん……」


 おもわず、彼女を抱きしめる。


 知らない世界に、一人で来て。

 言葉も全然通じなくて。


 本当に、どれだけつらかっただろう。


「大丈夫。これからは、もうひとりじゃないよ」

 

 笑顔!

 こんな時こそ、笑顔だよね。

 出来るかぎり優しく微笑みかけた。


 ナナミちゃんは、びっくりした表情をして顔をあげると、真っ赤な顔でうなずいく。


「あの、ありがとうございます……」


 ふと部屋の奥をみると。

 キナコとジェラちゃんが、冷たい目でこっちを見ていた。


 もしかして、途中で手をはなしたらいけない魔法だったの?


 思わずやっちゃったんだけど。

 でも、ちゃんとナナミちゃんの声、聞こえてるよ?


「はぁ。いいかげん、アンタそれなおしたほうがいいと思うよ……」

「そういうとこだからね! ご主人様の悪いところ!」


 キナコが私のマネをしながら、指をさす。


 えー。

 なんでさ!


 

**********



 数日後。


 王都にあるお屋敷の前に、豪華な自動馬車が止まった。


 中から出てきたのは、セントワーグ公爵令嬢のリリーちゃん。


「クレナちゃん! お出迎えありがとうございます!」

 

 門の近くにいた私を見つけると、飛ぶように抱きついてきた。

 カワイイ。

 うん。今日もリリーちゃんは天使だよ。


 

 私の後ろには、お父様とお母様、キナコもいる。

 家族みんなで、門の前で待っていたのには理由があって。


 自動馬車に目をむけると、リリーちゃんが真剣な顔になった。


「国王様の命で、彼女をお連れしましたわ」


 ゆっくりと、自動馬車の後ろ扉を開ける。 


「彼女の存在は極秘ですので、今回は王家ではなくセントワーグ家が動きましたの」

「そうなの?」

「ええ。王家の自動馬車では目立ってしまいますわ」


 ……これ、極秘なんだよね?

 セントワーグ家の車も、十分目立つと思うんですけど。


 中からあらわれたのは、緊張した表情のナナミちゃん。

 私たちに気づくと、あわててお辞儀をした。 


「ようこそ、ナナミちゃん。えーと、私の両親です」


 私はナナミちゃんの手をとると、お父様とお母様の前に連れていく。


「うふふ、あなたがナナミちゃんね。初めまして」

「以前王宮であったことがあるかな。ようこそハルセルト家へ」


「ボクはキナコだよ!」

「キナコは前にあったでしょ!」


 私は、両親の会話をナナミちゃんに伝える。

 

 

 そう。

 ナナミちゃんの言葉がわかるのは私 (とキナコ)だけだったので。


 王家は、ナナミちゃんをハルセルト家に預けることにしたんだって。

 ジェラちゃんやガトーくんも、いろいろ動いてくれたみたい。


 二人ともホントにありがとう!

 さすが『転生者で世界を救おう会』!




 そういえば。

 この間思い出したんだけど。

 ゲーム開始時のデフォルトの名前って「ナナミ」だったはず。


 ……ゲームを作ったかみたちゃん、おそるべし。


 まぁ、それはともかく。


 これから、ナナミちゃんは、うちで言葉を学んで。

 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』の舞台に立つことになるのだ!


 なんだかゲームよりちょっと早い展開だけど。

 予言は50%っていってたもんね。

 大丈夫! むしろ早い方がよかったと思うし。

 あとは攻略対象とラブラブしてもらって、一緒にこの世界を救ってもらわないと!


 一瞬、シュトレ王子の笑顔が浮かぶ。

 ……ちょっとだけ胸が苦しくなるけど。


 でも、乙女ちゃんを応援するって、ずっと決めてたから。

 だから。


 ……大丈夫。


 

「早く言葉を覚えて、一緒に魔法学校いこうね」

「はい! 頑張ります!」


 両手をぎゅっとにぎって、気合をいれるナナミちゃん。 

  

「え? 彼女からまったく魔力を感じないから、無理だとおもうよ?」


 盛り上がる私たちをみて、キナコが不思議そうにつぶやいた。



 うそ?

 

 ……どういうこと?

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