第31話 お嬢様と演技

 アランデール公爵家によるクーデターから三か月が過ぎた。


 ゲームでは、セントワーグ公爵家のリリアナがクーデターをおこして。

 ハルセルト家もそれに加わって戦って。

 どちらの家も断罪されるのに。



 今王宮で、行わているのは全く逆の風景。

 国王様の前で、兵士に捕らえられて座らされているのは。

 アランデール元公爵。

 

 ふくよかだった身体はすっかりやせこけて、疲労の顔をうかべている。


 そして。

 彼を支持したアランデール派の元貴族たちも、同じように座らされている。


 断罪する国王側にいるのが、セントワーグ公爵家側の貴族たち。


 ――全く逆の立場になっている。


 

「さて、それでは裁定を下そう」


 ゆっくりとした声で、国王様が宣言する。


「アランデール公爵家は、爵位領地ともに没収の上断絶。反乱にかかわった親族はすべて死罪」


 静まり返った王宮の中。

 国王様の声だけが響き渡る。


「公爵家側に参加した貴族も同様だ。異論のある者はいるか?」


 国王様が、さりげなく……ううん、全然さりげなくない。

 完全にこっちを見ている。


 そう。

 ここでまた、私の出番なんですよね。


 事前に、台本までしっかり準備されてて。

 それはもう、必死に覚えましたよ。

 この日の為に!


 クーデターの時も思ったけど。

 これ完全に劇みたいなものだよね。


 大人って、汚い……。


「発言してもよろしいでしょうか?」

「うむ、クレナ嬢は今回の戦でもっとも功績をあげているからな。話を聞こう」


 功績って。

 お芝居で演説しただけですよね?


「これだけの人数を断罪してしまうと、後々大きな遺恨を残してしまいます」

「だが、彼らは、王国を乗っ取ろうとした逆賊たちだぞ? 許すわけにはいかないだろう?」


 わー。

 国王様が悪い人の顔してるよ。

 完全に演技にはいってるよね、これ。


「もちろん、今回の反逆は重罪です。ですので……」

「ですので?」


「辺境で労働をしていただくのはいかがでしょうか? その方が王国の為にもなります」


 はい、ここで笑顔!

 完全に演劇やってる気分なんですけど。

 前世では子供の頃にシンデレラをやったけど、それ以来かなぁ。

 

 あーでも、そっか。

 影竜事件のときもこんな感じだったよね。

 台本もあったし……。


「ほう、犯罪者を監視して働かせる。そんな酔狂な領地があると?」

「辺境はいつでも人手不足ですので。ハルセルト領では大歓迎です」

 

 ここで、国王様とアランデール元公爵に、にっこりスマイル。


 前回もだけど。

 国王様もお父様も、ウチの領地を避難所だと思ってるのかなぁ。


 お父様をちらっとみると。

 満足げにうなずいている。


 もう。私絶対これ以上、視察とかしませんからね!


「いいだろう。反逆者たちを、ハルセルト領に預ける。伯爵もそれでよいか?」

「はっ。必ずやご期待にこたえてみせます」


 最初から、この二人でやればいいじゃん、この芝居!

 何で巻き込むかなぁ。


 あらためて、アランデール元公爵を見る。


 お父様の話だと。


 うちに交渉にきた次の日。

 イザベラを迎えにはこなかったんだって。


 もしかしたら、人質にされるかもしれなかったのに。

 その可能性よりも。

 もし自分が勝っても負けても、ハルセルト領なら、娘は安全だと思ったんだろうって。

 

 きっと、優しい父親なんだろうな。


 ふと、元公爵と目があった。

 ここは微笑んでおかないと。

 うん、こういうときこそ笑顔が大事!

 

 彼は、感情がこらえ切れなくなくなった様子で、手をぎゅっと固く握りしめた。

 

「クレナ様に申し上げる!」

「だまれ、貴様の発言は許可していない!」


 国王の制止もきかず、元公爵は話を続ける。


「私は、帝国の甘言にのってしまい、クーデター中にさらに罪を重ねてしまいました」

「どういうことでしょうか?」


 衛兵が元公爵を押さえつけようとする。

 

 やっぱり、帝国はなにかしてたんだ。

 なんだろう。


 すごく……嫌な予感がする。

 

 私は話を聞くために、国王様に頭をさげる。


「国王様。アランデール元公爵より、お話を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「うむ、クレナ嬢の頼みであれば許可しよう。申してみよ」


 元公爵は、国王様をにらみつけた後、再び私に向かって話してきた。 


「私は、帝国から王家の秘宝を持ち出すよう指示されました」

「なんだと!」

「貴様、なんてことを!」


 会場にざわめきがおこる。


「それはどんなものだったんですか?」

「かつて星乙女を召喚した際の記録書でございます」



 ……え。


 それって、たしか。


 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』の中では。

 

 星が減り始めて、荒廃していく世界で。

 王家が、かつて初代星乙女を召喚した秘術を使って、主人公を転移させたはず。


 ――世界を救うための、最後の希望として。



「本来は、すぐに帝国に渡す予定だったのですが。帝国に利用されるならいっそ我々がと……」

「貴様、まさか!」


 国王様は立ち上がると、元公爵のもとに駆けより胸ぐらをつかんだ。  


「あれは、世界が本当に追い込まれた時以外、使用を禁じられていたのだぞ!」

「貴方が『星乙女』を利用して、反乱を鎮圧しようとしたから!」


 まさか。

 まさか。

 まさか!?


「……召喚したんですか? 星乙女を?」


 国王様と元公爵に近づくと、ゆっくり尋ねる。


「ええ。それが、なんの力もない黒髪の少女でして。やはり、『星乙女』はクレナ様なのだと皆思い知りました」


 召喚されたんだ。

 星乙女が、この世界に。

 

 ゲームの予言や、私たちの想定よりずっとはやく。

 

 

 物語が……動きだした気がした。

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