第30話 お嬢様と舞台の裏側で


「アンタ、セントワーグ領にこないしさぁ~」


 ジェラちゃんが頬を膨らませてつぶやく。


 ここは、ファルシア王国の王都

 そこにある王宮内、ジェラちゃんの部屋。


「王都着いたら、戦闘おわってるしさぁ~」


 視線がじっと、こっちを向いてて。

 すごく……怖いんですけど


「だから、色々あったんだってばぁー」

「色々って、これでしょ?」

 

 ジェラちゃんは映像クリスタルを取り出すとスイッチを押した。

 

 ドレス姿の少女の演説シーンがあって。

 最後は、ドラゴンの上でドレス姿の少女と騎士が抱き合ってる。


 先日の王都奪還で、セントワーグ家が大々的に放送した映像なんだけど……。


「……ジェ、ジェラちゃんが、なんでそれ持ってるの!?」

「なんでって。そこら中に広まってるわよ、この映像」


 えええええ!?



「まぁ、王家のイメージ戦略成功ってことだよね。出来れば、僕がその役やりたかったよ」


 部屋にいたガトーくんが私に顔を近づけてくる。

 そんなに、甘い笑顔で見つめないでよね。


 ……ホント、タラシなんだから。 


「お兄様、そんなことより」

「なんだよ、ジェラ?」


「本当は、私も一緒に映ってるはずだったのに! なんでこんな映像になってるのよ!」


 あー。

 そういえば、リリーちゃんが後から教えてくれたんだっけ。


 本当は。

 私たちはセントワーグ領に一回立ち寄って。

 そこで、王都から密かに脱出していた、ジェラちゃん、ガトーくんと合流。


 セントワーグ領で、王家のジェラちゃん、公爵家のリリーちゃん、あと私の三人で演説の映像を撮って。

 その映像でグラウニット伯を説得したって感じにして。

 それから、王都に突入予定だったんだって。


「まぁ、おかげでボクの勇姿が映ったんですけどね」


 嬉しそうに、映像を何度もみるキナコ。

 恥ずかしいから、流さないで欲しいんですけど。


 そういえば、キナコって、ドラゴンの姿と人化の姿、どっちが好きなんだろう?

 まぁ、人化の姿ってほとんど私だけど……。


「そうだ! リリアナに聞いたんだけど。このシーンの前にアンタとシュトレお兄様が……」

「ジェラちゃん、その話、ストップ!」


 慌てて、ジェラちゃんの口をふさぐ。


「ええ、なになに? あのシーンの前に何かあったの?」


 ガトーくんの顔がアップになる。

 なんだか。

 笑顔なのに、目が怖いんですけど?


 返事にこまっていると。

 部屋の扉をノックする音がした。


「ジェラ、クレナが来てるんだって?」


 って。シュトレ王子だ!


 あれから。

 恥ずかしすぎて、王子とは全然話せてない。


 なんでキスしてきたのかも。

 この後、どう王子と顔を合わせたらいいのかも。

 わからないよ……。


「ジェラちゃん、私はいないって言って」


 慌てて、部屋のカーテンの裏に隠れる。



「え……アンタ、それはさすがに無理でしょ」



********** 



<<いもうと目線>>

 


「そう、わかったわ。それじゃあ、国境付近の部隊は引きあげさせて」

「よろしいのですか、アリア様」

「こうなったら、どうせ攻めても勝てないわよ」


 私は、アイゼンラット帝国の宮廷で、ぼんやり外を眺めながら伝令の報告を聞いた。


 ふぅ。

 なーんだ。

 全然使えないじゃん、アランデール公爵家。


 ゲームでは、ちょっと強そうだったのに。


 最初の報告ではうまく行ってる感じだったのになぁ。



 それにしても。


 ……何でこの時期に、星乙女がもう登場してるのよ!


 私が、この時期に王国を攻めようとしたから、ゲーム補正かしら?

 主人公の国だしなぁ、向こうは。


「あら、不機嫌そうね」

「そりゃそうよ。向こうにもう星乙女がでてくるなんて。計画練り直しだわ」


 目の前にいるのは、魔人のサキ。

 紫色の長い髪に、赤い目。頭には羊みたいな角がついている。

 同性の私が、おもわずドキッとするくらい美人。


 サキは、前世の記憶をもっているので、とても話しやすい。

 いわゆる……転生者だ。


 こっちの世界でのお姉さん的立場で、とても頼りになる。


 私のホントのお姉ちゃんは……一人しかいないけど!


「せっかく、アリアの考えたネックレス売ってあげたのに、無駄だったわね~」

「あー、あれね。まだ未完成だったから仕方ないわ」


 サキが、サンプルのネックレスを指でくるくる回す。

 

「まぁ、でも。だいぶ儲かったわよ。さすが王国はお金もちよね」


 机に両肘をつきながら、ボソっとつぶやく。

 お得意先のアランデール公爵家があれじゃ、もう売れないだろうな。


 いい収入源だったけど。


「うふふ、自分の生命力と引き換えに願いをかなえるなんて、ワタシなら御免だわ」

「どの世界でも、目の前の欲に弱いのよ……。そんなもんでしょ」


 もっと強力なものが作れれば。

 人の生命力から、強力な影の魔物を作り出せる。

 操ることも、たぶん可能だ。


 その力を……私は神様からもらっている。


「もう一つご報告があります」


 ああ、まだ伝令の人がいたんだったわ。


「なぁに? 続けて?」

「アランデール公爵より、『例の物は王宮より持ち出せた』と」

「ふーん、そう。ご苦労様。下がっていいわよ」


 私は伝令が下がったのを見てから、思わず笑い出した。


 なんだ。

 少しは使えるじゃない。



「悪そうなこと考えてる顔ね」

「別に……」


「そういえば、アンタにそっくりな子を王国でみたわよ」

「へー?」


 私にそっくり?

 窓に映る自分の姿が目に入る。


 銀色の髪に、青い瞳。

 まだ子供っぽい、可愛らしい顔立ち。

 正直、髪や目の色をのぞいたら、前世の私に似てる気がする。


 似てるってことは。

 同じような転生者かしら?


 いや、でも……もしかして……。


「ねぇ、どんな子なの?」

「そうねー。キラキラした目をしてて、妖精みたいで可愛かったわ。いやー、さすが異世界よね」

「で、それがどうして私と似てるのよ?」


「んー?」


 少し首をかしげて、考える仕草をする。


「ああ、そうそう。魂や流れてる魔力が似てたわね!」


 まさか、まさか 

 心臓の鼓動が早くなるのがわかる。


「ねぇ、他には? どんな感じだったの?!」 

「そうねぇ、転生者だったわよ、彼女」


 転生者?

 もしかしたら……。

    

「あんまり可愛いから、おもわずキスしちゃったわ」


 嬉しそうに、頬に両手を当てて顔を赤らめてる。

 サキって……そういう趣味あるよね……。

 良い人だとは思うんだけど。

 

「ねぇ、サキ。王国にゲートをだして、その子をさらってこれない?」

「無理よ、あの子、強すぎるもの」

「魔人のサキよりも?」


「んー? そうねぇ。彼女、例の『星乙女』よ?」


 え……。


 今回の私の計画を潰した星乙女。


 それが、お姉ちゃん……なの?


 私、お姉ちゃんの為に頑張ってるのに!

 今度こそ、お姉ちゃんと一緒に幸せになるために!


 ……。


 ………。


 ……そうだ。


 そうだよ。

 きっと、お姉ちゃん、星乙女として王国に操られてるんだ。


 かわいそうなお姉ちゃん。


 待ってて。

 絶対私が、お姉ちゃんを助けるから!

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