第28話 お嬢様と王都奪還


 王都奪還に向けて。


 私たちを乗せた公爵家の軍艦はゆっくりと進んでいく。

 すぐ横には、ハルセルト家の軍艦「シルフォニア号」。


 私は、部屋の中で、渡された台本をなるべく見ないで話せるように暗記中。



 船に乗ってすぐに伝えられた作戦は。


 その一。

 『全軍で、王都に向けて出発』


 その二。

 『途中で包囲している相手が見えてくるので、ストップする』


 その三。

 『私が、拡声魔法と通信機で、書かれた原稿を読み上げる』


 ……これだけ。



 こんなことで王都が奪還出来るなんて思えないんだけど。

 リリーちゃんや、お父様のセントワーグ公爵様も、すごく自信満々で。

 何か別の作戦とかあるのかなぁ。


 実はこっちは囮でした、みたいな。


 うーん。

 考えても、仕方ないよね。

 

 とにかく、今はこの台本のセリフ覚えないと。


 練習中。

 ふと、横でころがっている、キナコが目に入った。


 ……そういえば。


「ねぇ、なんでキナコは、クーデターをやっぱりって思ったの?」


 キナコはもう完全にリラックスしていて。

 魔星鎧も脱いで、備え付けのベッドでごろごろしてる。

 

 ホントに、誰に似たのかなぁ?


「うーん。だってね。あんまりにもバランスがおかしかったでしょ?」

「バランスって、公爵家の話?」


「うん、普通はどちらの顔も立てるよね。バランスが崩れないように」


 キナコはベッドに転がったまま、天秤みたいなポーズをとる。


「キナコ、そんなこと考えてたの?」

「ご主人様、あんなに王宮行ってたのに……ホントに気づかなかったんですか?」


 ぐっ。

 キナコって、たまに頭良いわよね。

 普段は食いしん坊ドラゴンなのに。


 私だって、王宮って知り合いが多いなぁくらいは思ってたわよ!


 考えてみたら、私の知り合いって、基本的にセントワーグ公爵派閥なわけだし。


「あんなことしたら、いつか爆発するから。わざと狙ってるんだろうなぁって」

「そ、そうよね。うん、いつかこうなるって思ってたわ!」


「はぁ、気づいてなかったでしょ……」


 ……。 


 気づくわけないじゃん!

 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』メモにだって、書いてなかったんだし!



**********


「正面に、魔法による発光を多数確認。戦闘がはじまってます!」


 艦橋内に、先発した偵察船からの連絡が入る。


 船団は、相手の姿が見える距離まで前進していて。

 

 私が艦橋に呼ばれたときには。

 すでに戦闘がはじまっていた。


 王都を守備する部隊と、包囲軍が戦っているみたいで。

 沢山の魔法の光が見える。


 ……怖い。


 怖いけど。



 王子の笑顔が頭に浮かぶ。


 そうだよ。

 ずっと助けてもらってたんだ。


 今度は……私が助けるからね!



「ふむ、我々の前の相手はどこの領軍かな?」

「正面の敵は、グラウニット伯の旗を掲げています」


 セントワーグ公爵様は返答を聞くと、満足げに頷く。 


「ふむふむ、予定通りだな。では」


 公爵様の横に立っていたリリーちゃんが、私に向かって微笑みかける。


「クレナちゃん、お願いしますね!」


 リリーちゃんに案内されたのは。

 艦橋の一部に作られた高い台の上。

 そこには、たくさんの拡声器魔法の装置と、通信機が置かれている。


 なんか。

 小さなコンサートステージみたいなんですけど。


 しかも、私が着てるのは魔星鎧じゃなくて。

 水色のグラデーションに星が散りばめられた可愛いドレス。

 完全に場違いだと思う。


 ……これ本当に、作戦なんだよね!?


 

 悩んでも仕方ない。 

 今は自分にできることをやらなくちゃ。


「聞こえますか。私はクレナ・ハルセルト。ファルシア王国第一王子、シュトレ・グランドールの婚約者です」


 リリーちゃんが嬉しそうに、私に通信機と映像クリスタルを向ける。


「真実を知ってください。この戦いは、東の帝国によって計画された、王国を滅ぼすための陰謀です」


 これ。船の外に、魔法で大きな画面にして映すっていってたけど。

 大丈夫かな。

 なんか的になりそうな気がするんですけど!


「愛すべき王国の兵士たち。あなた方同士が戦う必要はないのです」


 船は止まらずに前進してるみたい。

 不思議なんだけど。

 もう相手の目の前くらいの距離なのに、全然撃ってこない。 

 

「私はみなさんの正義を信じます。どうか、戦うのをやめてください。その力はあなたの大事な人を、国を守る為のものです」


 ……。


 暗記してる時も思ってたんだけど。

 こんなので戦闘が止まるわけないって。


 でも。


 いつの間にか。

 魔法の戦闘音はなくなって。


 まるで、避けるように。

 相手の船団が一斉に左右に分かれて、王都への道をあけはじめた


 私たちの船団は、相手の船団の中央を突き進んでいく。



 ――まるで。

 なにかの魔法みたい。


 続きのセリフをしゃべろうとしたとき。


 艦橋の望遠機能が、こちらに向かってくる魔星鎧を映し出した。

 

 白に金色の装飾が入った騎士。

 

 ……。


 あの鎧知ってる……。


 知ってるよ……。


 シュトレ王子だ!


「クレナちゃん?」  


 リリーちゃんが、演説を止めた私を、心配そうな顔で見つめている。


 無事だった。王子無事だったんだ!


 会いたい。

 すごく会いたいよ。


「以上で演説終わりです! 大事な用事が出来たので失礼しますね!」


 私は演説を終わらせると、ステージを飛び降りた。 


「キナコついてきて!」

「もう。しょうがないな、ご主人様は」


「クレナちゃん?!」

「クレナさん、どこへ!」


 私は、艦橋を飛び出すと、とにかく上に続く階段を駆け上る。  

 やがて、船の甲板の上に到着した。



**********


「竜姫だ!」

「お戻りください!」

 

 甲板にいた兵士たちが、私たちにむかってくる。


「キナコ、お願い!」

「はぁ、もうボクしらないからね」


 キナコが人化魔法を解いて、ドラゴンの姿になる。

 

「テイミング!」


 私はキナコがドラゴンの姿になった瞬間に、呪文を唱えた。

 

 手から強い光が溢れて、キナコに向かってキラキラ流れ出す。

 あっというまに。

 キナコは巨大なドラゴンになった。


「行くよ! キナコ!」

「オッケー!」


 向かってきた兵士が驚いて立ち止まってる間に。

 私はキナコに飛び乗ると。


 王子のいる空に向かって飛び出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る