第27話 お嬢様と演説

「聞こえるか、諸君。ハルセルト領軍は、決して反乱軍には屈しない!」


 お屋敷の上空。

 私たちは、いつもの飛空船ではなくて。


 ――軍艦の中にいる。


 この船は、ハルセルト伯が代々受け継いでいる一番大きな軍艦で。

 『シルフォニア』号っていう名前なんだって。

 こんな船があるなんて、全然知らなかった。


 周りには、領内から集まった沢山の軍艦が飛行している。


 お父様は船の甲板から、魔法の拡声器をつかって演説をおこなっている。


「アランデール公爵は、あろうことか帝国と手を組み、この王国を滅ぼそうとしている」


 お父様の横には、側近の護衛と、私と、キナコ。

 

 みんな、魔星鎧スターアーマー を着ている。 


「我々は、これより王の剣となって、王都を開放する!」 

 

「「「おおおおおお!」」」


 船が揺れるんじゃないかっておもうくらいの、とき の声が周囲に響きわたる。


 すごい。

 士気をあげるって、こういうことなんだ。


「さぁ、クレナ。自分の想いをみんなに伝えてごらん」


 お父様が優しくささやく。


 私の……想い。

 

「みなさん、ごめんなさい。本当はだれも傷ついて欲しくないんですけど」


 ――本当は。


 私たちの領軍は、一度セントワーグ領に向かって。

 公爵軍と一緒に首都を目指す予定だったんだけど。

 

 私がわがままをいって。

 この船だけ王都に向かって、先行してる奪還軍に入れてもらうことになった。


 ただしついてくるかどうかは、各船の判断で。

 そのほかの船は、お母様の船と一緒に、予定通りセントワーグ領にむかうことになる。 


「でも。王都が囲まれて、友達と連絡がとれないんです。お願いします。力を貸してください!」


 一瞬、周囲が静寂に包まれた。


 仕方ないよね、これ私のわがままだし。

 でも、これが本心だから。


 しばらく間があって。


「「「うぉぉぉぉ!!」」」


 船だけじゃなくて、大地がゆれるんじゃないかっていうくらい。

 大きな声が響き渡る。


「お任せください! 姫!」

「必ずやお救いしますよ!」

「竜姫の為なら、この命おしくないですぜ」


 拡声器魔法と通信機をとおして、次々にメッセージが伝わってくる。

 すごい。


 私のわがままなのに。

 涙で視界がゆがんで見える。


 声のボリュームも量もとにかくすごくて。

 熱量に、圧倒されそうになる。

 

「ありがとうございます……」


 色々。

 胸がいっぱいになって。お礼をいうのが精一杯だった。


 

「ああもう、うるさい。わかったから通信を切れ! 納得してついてくる船だけ先に進むぞ!」


 シルフォニア号が進みだすと、領軍の船が一斉に動き出した。

 

 しばらくして、通信機から再び声が聞こえてくる。

 お母様だ。


「ねぇ、リード」


「どうした、レディナ。なにかあったのか?」

「これ、軍を二つにわける意味ないわよ。みんなそっちについていったわ」



**********


 王都の奪還軍に合流するまでの間。


 お父様が、今までの状況を話してくれた。


 もともと。

 アランデール公爵家が、帝国とつながっているのは王家も気づいてたんだって。

 目的は、アランデール公爵家の復権。


 今の国王様は、もともとあまり身分にこだわらない人で。

 人柄とか能力で役職を与えてて。

 結果的に、セントワーグ公爵家の人を重用しちゃったんだって。

 

 言われてみたら。

 宰相も騎士団長も、貴族としては身分が高くないし、セントワーグ公爵家派だよね。



 国王様は、前から動きに気づいてて。

 息子の代になる前に、早めに膿をだしちゃおうって思ったみたいで。

 ますます、セントワーグ家を重用した。


 ……普通逆だよね。


 で。

   

 私たちが発見したネックレスから、アランデール公爵家のつながりを確信した王家は、さらに挑発して。

 ついに反乱がおきましたと。


 あれ?


 びみょーに王家が悪者にみえるんですけど?


「そうなんだ。あいつなりに国の未来を考えてたんだと思うんだが。正直迷惑だな!」

 

 お父様が、ちょっと困った表情でつぶやく。

 

 小さい頃から、それなりに国王様はみてきたから。

 ちょっとだけわかる。

 たしかに、そういう人だよね。

 

 自分がバカにされても、嫌われても。

 みんなが喜ぶ未来があるならって。


 

 ちなみに。

 会談のときに、お母様が魔法をかけたのは。

 心配だったのももちろんあるんだけど。


 シュトレ王子や、ジェラちゃん、ガトーくんと親しいから。

 もしかすると今回の話を少しでも聞いていて。

 なにかヒントになることをしゃべらないように、だって。


「クレナは素直だから、すぐ表情が顔にでちゃうと、レディナが言ってな」


 否定できないのが困るんですけど!



 やがて、私たちの船は。

 王都奪還軍の集結地点に到着した。



**********


 奪還軍の集結地は、空に浮かんでいるちょっと大きめの浮島。

 普段は王都近くで観光名所になってるんだけど。


 今は、すごい数の軍艦で埋め尽くされていた。 


「クレナちゃんー!」


 島に上陸すると。

 先に向かっていたリリーちゃんが抱きついてきた。


「久しぶりですな。大きくなられた」


 リリーちゃんのすぐ後ろで。

 ふくよかな紳士が笑顔でお出迎えしてくれた。


 リリアナちゃんのお父様、セントワーグ公爵だ。


「お久しぶりです、セントワーグ公爵」


「あはは、堅苦しい挨拶はいらないよ。……本当にキレイになられた」

「当り前ですわ、クレナちゃんは世界一可愛いのですから!」


 リリーちゃんが私に抱きついたまま、公爵にこたえる。



「あの、公爵様。王都は……どうなってますか?」


 来るときに、お父様からお話を聞いていて。

 一つ大きな疑問があった。


 今回のクーデターを事前に察知していたのに。

 なんで王都が大軍に包囲されてるんだろう。


 みんな、無事なの……かな。


 シュトレ王子……も……。


 待ってて。

 もう少しで、駆け付けるから!


「そうですなぁ、でしたら。作成会議は船の中でおこないましょうか」

「是非是非、わたくしの船にお越しくださいませ!」


 リリーちゃんが手をひっぱって、すごく大きな軍艦に案内する。

 これに乗っていいの?

 後ろを振り向くと、お父様が笑顔で手を振っている。


 ……行ってこいってことだよね。   


「さぁ、いきましょう! あとはクレナちゃんと前に進むだけで勝ちですので」


 頬を寄せて、満面の笑みのリリーちゃん。


 え?

 

 それって、どういうこと?

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