第17話 お嬢様とそれぞれの恋愛事情
「大変だったみたいだね。その後ケガは大丈夫?」
「アンタさぁ、生徒会メンバーと危険なダンジョン攻略したって? 話題になってるわよ」
部屋のクリスタルから、ガトーくんとジェラちゃんと声が聞こえる。
私はベッドに横になりながら、声のする方に話しかけている。
「違うの! 行ったのは初心者ダンジョンだからね!」
「そのダンジョンで最深部なんてみつけて、帝国の兵士と戦うとか……アンタどうなってるのよ?」
ダンジョンから一週間が経っていた。
お母様の回復魔法で、やっぱり見た目はなんともないんだけど。
まだ動くと少しだけ全身に痛みがはしる。
「ダンジョンの奥にあったネックレスは、やっぱり、例のものと同一だったよ……」
ガトーくんの慎重な声が部屋に響く。
「それって……」
「うん、帝国がゲームの開始前に動き始めてるね……」
「だよね……」
あんなに危険なものをファルシア王国に配るなんて。
絶対なにか目的があると思うんだけど。
「かみたちゃんもね、このあと大変だから気を付けてって言ってたんだけど」
「神様がいってたんだったら……気を付けないとだよね。なんだろう? すごく嫌な予感がする」
「50%の予言が外れてるのかなぁ」
「……これは予想なんだけどさ。ゲームを知ってて、歴史を変えようとしてる人物がいる気がしない?」
私とガトーくんは黙り込んだ。
背筋が寒くなる気がした。
もしも、もしもだけど。
帝国側に、ゲームの内容を知ってる人がいたら。
……きっと歴史を変えたいと思うよね。
だって、帝国って。
――ゲームでは最後に負けて、滅んじゃうから。
「そんなことより!」
そこに、ジェラちゃんの叫び声が響き渡る。
「どうしたの、ジェラちゃん?!」
「そんな話は、お父様や大人の人が調べてるわ。ダンジョンには証拠もあったし、捕虜だっているんだから!」
「まぁそうなんだけどさぁ~」
「それより、ゲーム通りじゃない展開がもうひとつあるじゃない!」
「もうひとつ?」
「アンタ何も知らないの?」
「しらないって?」
なんだか。
ジェラちゃんの声のトーンがいつもより高い気がする。
「生徒会の赤ゴリラがさぁ」
「赤ゴリラって……まさか、ティル先輩じゃないよね?」
「そうよ。その赤ゴリラがさぁ」
「ジェラちゃん……さすがにちょっと……」
「なによ。私、あのキャラもともと興味ないから」
うわぁ。
騎士団長の息子のティル・レインハートって。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』で一番人気あったのに。
「で、その赤ゴリラが、アンタんとこのドラゴン娘が好きなんだって!」
「えええーーーーー……って。ああそういえば……」
「……アンタ、知ってたの?」
「なんか……ダンジョンでティル先輩がそんなこと言ってたような……」
「何考えてるのよ、あの赤ゴリラ! 星乙女ラブになってもらわないと困るのに」
だよね。
星乙女も攻略対象も、ラブラブになると強くなる。
特に攻略対象は、星乙女との親密度で戦力全然違ってたし。
これって、ゲームでは、なんだけど。
……あれ? でも。
「ねぇ、ジェラちゃんは何でその話知ってるの?」
「赤ゴリラがね、もう学校きてるのよ。んで、毎日アンタんとこのドラゴン待ってるわよ」
先輩もケガしてたのに、もう治ったんだ。
「キナコを待ってるって、なんで?」
「正式に告るんだって。もう学校中で話題になってるわよ」
「ホントに?!」
うわぁぁぁ。
キナコ、スゴイことになってるよ!
どうなるんだろ。
キナコなんて答えるんだろ?
ベッドをみると、ドラゴンの姿で丸まって寝ている。
「……ねぇ、ふたりとも。それって、帝国が暗躍してることよりも大事なこと?」
ガトーくんが、不思議そうな声で訪ねてくる。
「「当り前じゃない!!」」
**********
次の日。
私とキナコは、久しぶりの学校に向かう。
校門前には、ジェラちゃんの話通り、ティル先輩が立っていた。
うわぁ。
うわぁ。
うわぁぁぁぁ。
星乙女ちゃんと世界の為には……ていうのもあるんだけど。
あるんだけど。
もう、単純に。
キナコ、どうするんだろ。
ティル先輩どうするんだろ。
ほかの人 (片方ドラゴンだけど)の恋話なのに、すごくドキドキする。
「やぁ、クレナちゃん、キナコちゃん、おはよう!」
「おはようございます、ティル先輩」
「ティルくん、おはよー!」
「キナコちゃん、ちょっといいかな?」
きた、きたよ。
ジェラちゃんの情報通りだよ。
「キナコ、私は先に行くね。先輩とごゆっくり」
「えー? なんで?」
「クレナちゃん、ありがとう!」
「いいえー」
どうなるのかすっごい気になるけど。
おじゃましちゃ悪いよね。
でも、キナコって……ドラゴンなんだけどぁ。
この世界では異種族で付き合うのとかありなのかなぁ。
うーん。
いろいろ考えながら教室に向かっていると。
入り口の前にグラウス先輩の姿が見えた。
「よかった。元気そうですね」
「先輩はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、僕はすっかり平気ですよ」
美しい水色の髪が零れ落ちる。
やっぱり、先輩キレイだなぁ。
「クレナちゃん、今日の放課後に会えませんか?」
「放課後ですか? えーと、今日は生徒会室に行く予定なので……」
「いいえ、その前に……ダメですか?」
生徒会の前に?
なんだろう。
私は、ダンジョンでのことを思い出していた。
え? まさか。
……違うよね。
「えーと、それじゃあ、生徒会室の前でいかがですか?」
「そうではなくて。僕の推理によるとね、その時間、食堂前の裏にはとても静かなんですよ」
「あの場所、大きな木と花壇があって良いですよね~」
「それでは、放課後に、食堂裏でお会いしましょう!」
ちょっとまって!
だってあの場所って。
私が戸惑っている間に、グラウス先輩が嬉しそうに去っていった。
――気のせいじゃなかったら。
これ多分。だめなやつだ。
そう思っていると、突然後ろから誰かに抱きつかれた。
「ねぇ、これどういうことよ!」
おそるおそる振り向くと、ジェラちゃんの少し怒った顔があった。
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