第18話 お嬢様と告白の木

「ねぇ、アンタここがどういう所か、わかってるの!」


 お昼休み。

 私とキナコとは、ジェラちゃんと一緒に食堂の裏側にきている。


 裏といっても、窓側には面していなくて。

 建物の中からは見えないんだけど。

 

 取り囲むように置かれている花壇には、色とりどりの花が咲いている。

 一番奥に大きな木があって、その下には白いベンチ。

 ちょっとした庭園風の、すごく綺麗な空間になっている。


「知ってるけど……。でもいきなりは無くない?!」

「ゲームとは違うところが増えてるし、わからないじゃない!」


 そう。

 ここ、乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』で一番重要な場所。

 

 この学校でずっと伝わっている伝説。

 「この木の下で告白を成功させたカップルは結ばれる」


 主人公の星乙女と攻略対象達は、ここで告白したりされたり。

 ゲームの恋愛度が上がると強くなる。  


 ――確かにすごく綺麗な場所なんだけど。

 現実になってみると少しシュール。


 なんで食堂の裏なのさ!

 なにげ、人通りも多いし、大声で告白したら食堂にいる人に聞こえるんじゃないかな?


「そういえば、先にこっちも聞きたかったのよ。キナコちゃん、赤ゴリラとはどうなったの?」

「赤ゴリラ?」

「……ティル先輩のことね」


 ジェラちゃんの言葉をフォローする。

 そのあだ名で呼んでるの、ジェラちゃんだけだからね!

 だれもわからないから!


「あー、ティルくんね」


 朝、遅れて教室にきたキナコの態度が普通すぎて。

 もしかして、告白なんてなかったのかなぁって思ってるんだけど。


「あれから、どうなったの?」

「教えなさいよ!」

「んー?」


 少し考えるような仕草をするキナコ。

 ほとんど同じ顔なんだけど……可愛いな。


「告白されたんじゃないの?」


 ジェラちゃんが興奮気味にキナコに迫る。

 

「されたよー?」

「で! あんたはどう答えたのよ?」

「好きな人がいるから無理ですって」



「アンタ好きな人……いたの?」

「え? キナコ?」


 キナコって。

 好きな人、いたの?

 全然気づかなかった……。


「誰よそれ。って。あー……」


 ジェラちゃんは何かに気づいたみたいで。

 私をちらっと見たような気がする。


「やっぱりね。はぁ~、納得だわ」

「そうなの。納得でしょ?」

「え? なに? どういうこと?」


 全然納得じゃないんですけど。

 私、置いてけぼりな感じなんですけど。


「じゃあ、この話は解決ってことね」

「そうなの、解決だよ~!」

「あとは赤ゴリラが諦めて、星乙女とラブになればいいだけよね」

「だよね!」



「まって、全然解決してないじゃん! 話がわからないんですけど!」



**********


「じゃああとは、クレナの話よね」

「キナコ、ジェラちゃん! 私全然わかってないからね!」

「もう、赤ゴリラの話はいいのよ」


 好きな人がいて、ティル先輩の告白を断ったってことだよね。

 キナコと仲の良い人って……まさか。シュトレ王子?   


 もしそうなら。


 星乙女ちゃんとキナコ、どちらを応援したら……。

 これあれだよね。

 王子がカッコよすぎるのが悪いんだと思う。


「ご主人様、なにか勘違いしてそう……」

「ほっとけばいいのよ」


 ぼそぼそと話す二人!


「そこ! 聞こえてるからね!」


「ハイハイ。その話はもういいから。アンタさ、グラウス先輩と何があったのよ!」


 そうだった。

 多分。

 大丈夫だと思うんだけど。


「ジェラちゃんって、ゲームの『グラウスルート』やったことある?」

「まぁ、一応ね」

「じゃあ。最初に、一緒にダンジョン行って二人きりなるシーン覚えてる?」

「グラウスが、主人公に心を開く最初のイベントよね。覚えてるわよ」


「でね……」

「アンタ、まさか……」


「なんかね、そのイベントと同じことが起きました……たぶん……」

「はぁぁぁぁ!?」


 ジェラちゃんが私の肩に掴みかかった。


「アンタ、バカなの? 星乙女のイベント奪ってどうするのよ?!」

「ちがうから! なんか偶然巻き込まれたみたいな感じだから!」

「どうやったら、偶然で巻き込まれるのよ!」


 今度は、ほっぺたを両方ひっぱってくる。


「ジェラふゃん、いらふぃんれすけど!」

「アンタがグラウスとラブになってどうするのよ!」

「ならなふぃし、ジェラふゃんはなふぃて」


 ジェラちゃんがぱっと手をはなす。 


「何でならないって言い切れるわけ?」  

「ほら、グラウスルートって、この後、学園の事件を一緒に解決して仲良くなる感じだったでしょ?」

「そうね、そんな感じだった思うわ」


「てことは。事件起きるのって高等部にはいってから。中等部では関係ないよね?」

「まぁ……言われてみればそうよね……」


「それに、もし事件の解決を一緒にって言われても断ればいいし」

「それも……そうよね」


 ジェラちゃんは少し考え込む仕草をした。


「でも、万が一もあるわ。私、先に来てそこの木の裏に隠れてるから」  

「……え?」

「放課後の話よ。先に来て隠れてるから、アンタたち後からきて話してよね」


 えーーーーーー?


「ジェ、ジェラちゃん? 最初から一緒にくればよくない?」

「ダメよ、あの推理マニアはアンタと話があるんでしょ?」

「そうだけどさぁ……」


 いくらなんでも、いきなり告白イベントなんてないだろうし。

 先輩の話って、なんだろう? 

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