第14話 お嬢様と帝国の影

 なんだろう。

 胸騒ぎがする。


 みんな、無事でいて!


 祈るように、通路を走っていくと、奥の部屋で大きな音がしている。

 あれは……魔法の音?


 部屋に飛び込むと、みんなは、魔星鎧を着た相手と戦闘になっていた。  

 

「ク、クレナ!? 来ちゃダメだ!」 

「クレナちゃん、逃げてくださいー!」


 あの魔星鎧は……知ってる。

 知ってるけど……なんで?


「なんでこんなところに、帝国兵がきてやがる!」

「何で攻撃してくるのじゃ! こっちには王族もいるのじゃぞ!」


 ……やっぱり、帝国の魔星鎧だ。


 ガルツワット帝国。

 東にある巨大な軍事国家。


 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』では、悪の帝国として登場してくる。

 魔法石があまりとれない地域なんだけど、そのほとんどを軍事利用にまわしていて。

 最後には、豊かなファルシア王国を征服する戦争をおこして、ついでに、ラスボスまでつれてくる。


 そのラスボスも……世界を滅ぼすために帝国を利用してるんだけど。


 帝国ってゲームでの登場は、本当に最後の方なのに。

 なんで、こんなところにいるの!?


「ほう、王族までいるのか?」

「どこで嗅ぎつけたかしらないが、やっぱりそのまま帰すわけにはいかないな」


 帝国の兵士はふたり。どちらも巨体に大きな武器を構えている。

 ひとりは両手剣で、もうひとりは両手斧。

 どちらの武器も、黒くあやしいオーラを放っている。


「そんじゃ、そろそろ捕まえるか! 殺しはしないが、痛いのは我慢してくれよな!」

「冒険者には危険がつきもんだろ。悪く思わんでくれよ」


 両手剣を持った兵士が、キナコに襲いかかる。

 

「キナコ! あぶない!」

「影の力をもったやつは、燃えちゃえ!」


 向かってきた兵士に炎のブレスを吹き付ける。

 目の前が、炎で真っ赤になった。

 やっぱりキナコのブレスは凄い。

 ……中の兵士の人、大丈夫かな?


「なるほど。やっぱり、このお嬢ちゃんが、一番危険だな!」


 突然、炎がふたつに割かれて、兵士が飛び出してきた。

 ……え? うそ?

 剣で切ったの?

 

「いやぁ、子供とはおもえんスゴイ魔法だったが。……悪いな」


 そのまま、キナコに剣を振り下ろす。


 カキーーン


 大きな音がして。

 いつのまにか、キナコの前にいたティル先輩が、剣を受け止める。


「ほぅ、良い動きだよ。見事だ、少年!」

「ここで好きな子を守れなかったら、騎士じゃないだろ!」


 好きって……。

 キナコのこと?!


 確かに、先輩よくキナコに絡むなぁっておもってたけど。

 えええええ?!

 だって、あの子、ドラゴンですよ?


 ちょっと、乙女ちゃん。

 早くこっちの世界来てくれませんか!

 なんだか、いろいろピンチなんですけど!!


「なるほど、青春してるなぁ。いやいや、おじさんうらやましいよ」


 兵士とティル先輩の武器が押し合いになる。


 よくわかんないけど。

 チャンス!


 私は押し合いになっている兵士の剣めがけて、ランスで突撃する。

 大きな音がして。

 兵士の直前で、弾きかえされた。


 ウソ。これって。

 ……何かに守られてる?

 

 よく見ると、部屋の奥にある悪魔みたいな像から、兵士に魔力が流れ込んでる。

 キナコのブレスを防いだのも、たぶんこの力……。


「ほう、もうひとり、危険なやつがいるな」

「クレナ、下がって!」

「クレナちゃんに近づかないで!」


 シールドを構えたシュトレ王子が、私に駆け寄ってくる。

 背後からは、魔法の葉の援護攻撃。


「彼女は僕が守ります!」


 上から、次々と隕石が兵士に襲いかかる。

 グラウス先輩だ。杖も出せないケガだったのに……。

 

 攻撃がやんで、煙がはれると。

 両手剣の兵士は無傷だった。


 なんで!


 やっぱりあの像をなんとかしないと。

 みんなが、もう一度攻撃にはいろうとしたその時。


「おいおい、もうひとりいるの忘れてないか?」


 大斧を持った兵士が、背後にいたリリーちゃんたちに襲いかかる。


「リリーちゃん、危ない!」


 慌ててフォローに入ろうとした瞬間。

 背中に激痛が走った。


「仲間思いなのはいいことなんだけどさ、背中見せちゃダメだろ」


 兵士の攻撃をおもいきり食らった私は、部屋の入り口付近まで吹き飛ばされた。


「クレナー!」

「クレナちゃんー!」


 ……。


 …………。


 少し、意識がとんでた?

 身体が痛くて、動けない……。

 なんとか、体勢をかえて、部屋の中を振り返ると……みんなが倒れてるのが見えた。


 ……うそ。


 ううん、まだ戦ってる音がする。

 あれは……キナコだ。


「影もちは、燃えちゃえ! はぁはぁ」

「いやぁ、頑張るね。心配するな、子供の命をとったりしねぇよ」

「まぁ、本国におくるか。ウチの姫さんがなんか聞きたいことがあるかもしれん」


 ……捕まったら。

 帝国に送られるんだ。

 きっと、普通の扱いじゃないんだろうな。

 ……奴隷とか……かな。

 でも……それより……そんなことより。

 

 今、攻略対象のみんなが捕まっちゃったら……。

 星乙女が召喚されたとしても。


 ……ダメだよ。


 …………世界を救えない。

 

「お願いします……連れて行かないで……世界が滅びちゃうから……だから……」


 斧を持った兵士が、視線をこちらに向ける。


「お、まだ動けるのか。……わるいな、こっちも仕事なんで。大人しくしててくれ。おっと!」


 キナコのブレスが再び兵士二人を包み込む。 

 ダメだよ……部屋の奥から流れてる魔力で守られてるから。

 多分これも、効いてない……。   


「ご主人様、お願い! 時間を止めて!」


 ブレスを切り裂いて近づいてくる兵士を避けながら、キナコが叫んだ。


 時間をとめる?

 あの……。

 イザベラとの決闘でつかった魔法だよね?


 そんなこと言われても、わかんないよ!

 

「強く願って! ご主人様なら止められるから!」


「時間を止める? まさか、こいつ星乙女か!」

「まずい、とめろ!」


「……いかせませんわ!」


 リリーちゃんがよろよろと起き上がり、魔法を使う。

 大きな木から枝が伸びて、兵士たちの足に絡みつく。


「お願い! 時間止まって!!」



 ――次の瞬間。



 空気が変わった感じがして。

 部屋に響き渡っていた戦闘音が、完全に聞こえなくなった。


「はぁはぁ、ご主人様、遅いよ~!」

「止まった? 止まったの?」

「それはもう、完全にとまってますよ。はぁ、ボク疲れたんですけど~」


 キナコはその場に座り込んだ。

 すぐ近くに、こっちに駆け寄ってこようとしていた兵士が固まっている。


「ボク痛かったんだからね!」


 キナコがパンチすると、兵士は固まったポーズのまま、床に転がった。

 なにこれ。

 どういう状態なの?


「……ぷ」

「……あははは」


 キナコと二人で笑いあう。


 今頃、涙が出てきた。

 怖かったよぉ。

 もうだめかと思ったよぉ。


「えーと。あとは、止まってる間に二人を捕まえればいいよね?」

「そうだね、ご主人様。鎧をとってぐるぐるにまきつけちゃおう!」


 あー、あと奥にあった悪魔みたいな像。

 あれも調べておいた方がいいのかな?


 視線を、像に向けた瞬間。

 ぞくっと体中に寒気がはしった。


 何、この感覚。


「へぇ、時間を止めることができるのね。ワタシも少し止まっちゃったけど。まぁなんとかなるでしょ」


 え?

 あの像……しゃべった!?

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