第11話 お嬢様と初めての冒険パーティー

 初心者ダンジョン『ジェラルド卿の地下庭園』。

 ずっと大昔に。

 愛する妻の為に、大魔法使いジェラルドが作った、緑あふれる楽園のような場所だったらしいんだけど。


 彼の死後、庭園から瘴気があふれ出し、魔物の楽園に変わってしまった。


 地底にむりやり大きな空間を作ったから、ゆがみが出たんじゃないかとか。

 流れ星の力が届かなかったから魔物が湧いたんだとか。

 色々な説があるみたいなんだけど。


 不思議なことに、庭園の風景は昔のままで。

 女性冒険者がいってみたいダンジョン一位だったり、彼女と行ってみたいダンジョン一位だったりするんだって。


 でもこれって。

 結局、冒険パーティーの五~六人でいくんだよね?

 意味あるのかなぁ。

 はっ、ひょっとして合コン冒険パーティーみたいな?!



「……クレナ、大丈夫?」


 気づくと、シュトレ王子の顔が目の前にあった。

 ち、近いんですけど。

 私がドキッとして固まっていると、リリーちゃんが王子をおしのけた。 


「大丈夫ですか? クレナちゃんは、たまにぼーっとしてるから心配ですわ」

「まぁ、ご主人様ですからねー」


 ちょっとそこ!

 どういう意味さ!


「はい。じゃれあうのは終了にしてください。僕の推理によると、準備はダンジョン攻略の重要ポイントですから」   


 グラウス先輩が冷静な声で話しかける。

 ヘルメットのバイザーをあげた状態だから、先輩の水色の髪とキレイな顔立ちが見える。

 やっぱり……美形っていうか、美人……だよね。

 

 ダンジョンに潜るっていうことは、魔物と戦うってことだから。

 みんな、魔星鎧を着ている。


「クレナちゃんは、お母様の鎧を受け継いだのですね」

「うん、そうなんだ。私にはこんなすごい鎧、もったいないんだけど」

「そんなことありません! ものすっごく可愛くてお似合いですわ!」

 

 私の着ているのは、イザベラと戦った時と同じ、真っ赤な魔星鎧。

 そこまではね、憧れてた鎧だし、すごく嬉しいの。

 ……嬉しいんだけど。

 イザベラと戦った時と同じように、フリルのレースがたくさんついている。


 そして。

 なぜかキナコも鎧を着ている。

 私とお揃いのデザインに、水色の鎧。

 同じように、フリルのレース仕様。


 ……これ完全にお母様の趣味だから!


「ははは! 相変わらず、双子みたいだ君たちは!」


 ティル先輩が、大きな声で豪快に笑った。

 キナコは褒められたって思ったみたいで。うれしそうに飛び跳ねている。


「さぁ、さっそくダンジョンに出発するのじゃ!」


 ファニエ先輩が、楽しそうな声とともに、ダンジョンの入り口を指さした。

 入口にいたダンジョンの管理人さんのところで、書類を記入して、先に進む。

 

 うふふ。


 初めての冒険。

 パーティーでダンジョン探索!

 やっと小説やアニメの異世界冒険っぽい感じだよね。


 どうしよう。

 わくわくが止まらないんですけど!


 

**********


 私たちは、最初の階層へ続く階段を降りていく。


 一番先頭が、シュトレ王子で、次が私。

 その後に、キナコとリリーちゃん、グラウス先輩、ファニエ先輩、最後がティル先輩。

 

 私はランスを使うし盾持ちだから、一番前に行くよっていったんだけど。

 シュトレ王子が反対した。


「クレナ。新生徒会長にカッコいいところを譲ってよ」

「でも、シュトレ様、両手剣がメインですよね?」

「大丈夫だよ、クレナ。こんな時の為に、盾の修行もしてきてるんだ」


 バイザーを上げて、優しく微笑みかけてくる。

 ……あれ?

 こんなシーンをどこかで見たことがある気がする。

 両手剣をしまって、魔法のシールドを出現させて。今みたいに、優しい笑顔で微笑む感じ。

 

 えーと。なんだっけ。


 あー! 思い出した。

 妹がゲームを始めてすぐに、「カッコいいっ」て騒いでた画面だ。

 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』の最初のイベント。


 ……これ、星乙女ちゃんの恋愛イベント横取りしてるよね。

 どうしよう。


「……クレナ?」

「な、なんでもないの、平気!」


 キナコがぴょんぴょんと階段を飛ばしながら、シュトレ王子に近づく。

 すっごくいたずらっ子の笑みだ。


「ホントに、王子さまはクレナちゃんにやさしいよねー」

「ちょっと、キナコちゃん!? それ、この間話したよね?」 

「えー? ボク忘れちゃったよー」


 シュトレ王子が、キナコを元の位置に押し返す。


「と、とにかく。先に進もう」

「あはは、楽しみですねー、ご主人様」


 キナコが、意味ありげに笑う。

 ……このおしゃべりドラゴン、何がしたいのかなぁ。 



**********


 途中出てきた魔物は、全部シュトレ王子が倒してくれて。

 私たちは、長い階段を降り切って、第一層に到着。


「なにこれ、すごくキレイ!」

「これは……素敵ですわね」


 ジェラルド卿の地下庭園の第一層は、ものすごく広い空間だった。

 遠くに見える天井も壁もキラキラ光っていて。

 まるで星空の下にいるみたい。


 真中に大きな道があって、その左右に花園が広がっている。

 ずっと奥は十字路になっているみたいで、噴水があるみたい。

 左右対称のすごくキレイな庭園。


 とても地底とは、ううん。ダンジョンとは思えない。

 どうやって手入れをしてるんだろう。

 まさか魔物が造園してたり!

 ……それならすごく可愛いんだけどなぁ。


「ここからは、パーティーの隊列をかえて進むのじゃ!」

「まぁ、僕の推理でもそうですね」


 ファニエ先輩の言葉に、グラウス先輩がうなずく。


「そうだなぁ。んじゃ、組み替えるかぁ」


 ティル先輩がみんなに指示をだす。

 三年生っていうのもあるけど、なんだか、頼れるお兄さんって感じ。

 うん……さすが、攻略対象。


 すごく広い通路なので、基本三人で並んで進む感じ。

 一番前が、シュトレ王子と私。あとキナコ

 真ん中が、リリーちゃんとグラウス先輩、ファニエ先輩。

 で、一番後ろにティル先輩。


「ふふん、ボク一番前っ!」

「はははっ、キナコちゃんは面白いなぁ。よし、ほかのみんなも。後ろはオレに任せて、どんどん進めよ」


 うん、やっぱり。すごく心強い。

 そういえば。

 妹が一押しだったキャラって……ティル先輩だった気がする。

 そうだ、そうだよ。

 家に赤髪で頭ツンツンした人形あったもん。

 

 こっちの世界に来てるなら……会わせてあげたいなぁ。

 絶対喜ぶのに。


「みんな気を付けて! そろそろ魔物がでてくる!」


 シュトレ王子が声を上げたその時。


 地面から黒い影が湧き出てきた。

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