第10話 お嬢様と初心者用ダンジョン

「えーと……」


 放課後。

 私は、学校の図書館で王都周辺の地図を眺めていた。

 かみたちゃんは、王都の近くにある初心者ダンジョンって言ってた。


 王都の近くにあるダンジョンは五つ。

 その全部が、王国に厳重に管理されている。


 ダンジョンっていうのは。

 洞窟だったり大きな建物だったりするんだけど。

 共通点はふたつ。

 

 ひとつめは、魔物が発生すること。

 どれだけ倒しても、一定数の魔物がかならず出現する。

 ダンジョンの床から湧き出るみたいに。

 逆に、一定以上は絶対増えないし、ダンジョンの外に出たりもしない。


 ふたつめは、魔物を倒すと魔法石の原料が手に入ること。

 ダンジョンの魔物は、倒されると黒い石に変化する。

 魔法石の職人は、この黒い石を加工して、魔力を蓄えることのできる魔法石を作り出している。

 強くて大きな魔物からは、大きな石が。

 逆に弱くて小さな魔物からは、小さな石がでてくるんだって。


 流れ星の影が、ダンジョンを作り出したなんて言い伝えもあるけど。

 だれも本当のことは知らなくて。

 

 ただ、わかっているのは。

 ダンジョンが沢山あって、ダンジョンに挑む冒険者が集まって。

 ファルシア王国は魔法石が沢山手に入るから、魔法王国って呼ばれるくらいに栄えているってこと。 

 

 このあたりの話は、乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』と同じ。

 なんだか。

 ……現実世界なのに、普通にゲームっぽいよね。


「おお、面白そうなものをみてるのじゃ!」

「ファニエ先輩!」


 本をとるための台からぴょこんと飛び降りて、黒い髪を揺らしながら小走りに駆け寄ってくる。

 先輩だけど。なんだか……カワイイ!


「今日は、リリアナやキナコは一緒にいないのじゃな」

「キナコはお昼のデザートが沢山余ったみたいで食堂に行ってます。リリーちゃんは先生に呼ばれたみたいで」

「なるほどのう。それでどこにでかけるのじゃ?」

「え?」


 ファニエ先輩は、満面の笑みで地図をのぞき込む。


「ふむ。グラトニューの大洞窟は、メンバー的にちょっと大変じゃな。そうすると、ジェラルド卿の地下庭園あたりかのう」

「……えーと、先輩?」 

「どうしたのじゃ?」

「……メンバーって誰のことでしょう?」


 ……先輩?

 口元を押させてにやーっと笑わないでくださいね。

 すごく悪いこと考えてるみたいに見えますよ?


「まぁ、カワイイ後輩の頼みじゃしな。まかせておくのじゃ!」


 胸をどんとたたくと、出口に向かって走り出した。


「ファニエ先輩?!」

「あはは、楽しみにしておくのじゃぞー!」

 

 あれ? 先輩?

 私……何か頼みましたか?



**********


「うーん。やっぱり、このふたつのどちらかだよね」

「どうしたのご主人様」


 王都にある私の部屋の中。

 お風呂上がりのキナコが、ツインテールを結びなおしている。

 ドラゴンまま入ればいいのに。

 なんでわざわざ人化するんだろ。


 私は毛束をタオルで挟んで軽く押さて、水分をとっている。

 この世界のタオルは、魔法の力でちゃんと水分を吸収してくれる。

 魔法石を織り込んでるんだって。不思議。

 

「ほら、この間のかみたちゃんの話。初心者ダンジョンに行って~って」

「あー、いってましたねー」

「あ。キナコ、ドライヤーとって」

「はーい」


 キナコがドライヤーをもってきた。

 もう片方の手に、なにやら果物をもっている。


「あれ? その果物どうしたの?」

「ティルくんからもらったのー」

「ティル先輩でしょ! 先輩キナコにあまいから……」

「もぐもぐ。それより、これ」

「ありがと」


 このドライヤーも魔法石の力。

 この世界の魔法ってほんとに便利。


 だから。

 ダンジョンからこんなに便利な魔法石の原料がでるなんて。

 よく考えたら、なんか変だよね。


「……ご主人様?」

「あ、ゴメン。あのね、王都の近くの初心者ダンジョンっていったら、『ジェラルド卿の地下庭園』か『赤クモの洞窟』だと思うの」


 壁に貼っておいた、王都近くのダンジョン地図を見る。

 図書館で見たものを私がメモしたもの。

 まぁ、おおざっぱにだけど。


「そうですねー。どちらも強い魔物がでませんし、もぐもぐ」


 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』では、どちらもゲーム序盤で入れたダンジョン……のはず。

 まだ攻略対象たちと親しくない主人公は、クラスのイベントで一緒のパーティーになって仲良くなる。


 ジェラルド卿の地下庭園は、地下五層に広がるキレイな大庭園のダンジョンで。

 赤クモの洞窟は、暗い地下洞窟だったはず。

 

 あれ? 待って。

 ダンジョンって一人でいけるの?


「ねぇ、キナコ。ダンジョンって一人で行っても平気?」

「どんなに簡単なダンジョンでも、思わぬ事故があったりするので、普通やりませんよー、もぐもぐ」

「そっかー……。じゃあさ、キナコと二人だったら?」

「ボク、ダンジョンではあまり役にたてませんよ。大きくなれませんし」


 ……え?

 キナコさん?


 口からとんでもない炎ブレスを吐いてましたよね?

 入学試験の的、粉々でしたよね?



**********


「うーん……どうしよう」


 次の日の放課後。

 図書館でまた王都周辺の地図を広げていた。


「学校で募集してみたらいいじゃないですかー。きっとたくさん集まりますよー」

「えー?! 行く理由も話せないのに?」

「美少女二人と行くダンジョンツアー! 絶対人気でますって!」

 

 キナコがふふんっと胸をはる。

 この子、自分で美少女って言いきったよ。

 

「楽しそう、何の話ですのー?」


 後ろからリリーちゃんが抱きついてくる。

 覗きこんでくる横顔も、机に広がる金色の髪も、まるで本物の天使みたいに清楚で。

 すごくカワイイ。

 これが本当の美少女だからね! キナコ!


「あのね、ご主人様と初心者用ダンジョンに行く話をしてたのー」

「……初心者用ダンジョン?」

「キナコ、おバカ!」


 慌てて、キナコの口をふさぐ。

 なんでこのおしゃべりドラゴンは、なんでも話しちゃうかなぁ。


「まぁ、ダンジョン探索ですのね! ぜひわたくしもご一緒させてください!」


 首に手を回してぎゅっと抱きついてくる。

 リリーちゃん、それ男の子にやったら大変なことになるからね?


「あのね、まだ行くって決めてないし。メンバーだって揃ってないから」

「そうでしたか。クレナちゃんと、わたくし。あとキナコちゃんで三人ですから……」


 あれ?

 リリーちゃん?

 なんで行く前提なの?


「ははは、悩む必要はないのじゃ、カワイイ後輩たちよ!」

「ファニエ先輩!?」


 どや顔で腰に手を当てて堂々と立っている、ファニエ先輩と。

 

 その後ろに、シュトレ王子、ティル先輩、グラウス先輩。

 ……後ろの先輩方。

 みんな目が死んでるんですけど!


「さぁ! 生徒会メンバー全員で、ダンジョンを攻略するのじゃ!」


 ええええええええ?! 


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