第6話 お嬢様と憧れの鎧

 私は自分の部屋で、ジェラちゃん、ガトー君とお話していた。

 いつもの音声クリスタルを使った『転生者で世界を救おう会議』だ。


 ちなみに、キナコはご飯を食べたら眠くなったみたいで。

 ドラゴンの姿でベッドの上にまるまって寝ている。

 やっぱりネコっぽい……。


「聞いたわよ、イザベラとの話。アンタも大変ねー」

「そうなの! ジェラちゃん助けて!」

「お父様が言い出したなら止められないわよ」


 そうだよね。当日、国王様も来たいって楽しそうに話してたし。


「私の司会、そんなにダメだったのかなぁ……」

「それは関係ないよ、司会はすごくよかったから」

 

 ガトーくんがなぐさめてくれる。優しい。

 さっそくお姉さま方のファンクラブもあるみたいだし。

 攻略対象ってやっぱりカッコいいよね。


「……クレナ? ちゃんと聞いてる?」

「あー、うんうん。ちゃんと聞いてるよー」

「クレナは、たまにぼーっとしてるよね。もう一度いうけど。魔法学校はね、貴族社会の縮図みたいなものなんだ」

「……縮図?」

「最近はさ、クレナの派閥が大きくなってるから、イザベラは気にくわなかったんだよ」


 ……え?

 派閥って?

 イザベラみたいに、とりまきとかいないんですけど?


「お兄様、それじゃあこの子わからないわよ。簡単にいうと、アンタが人気でて気にくわないから、ここでつぶすって感じよ!」   


 あー、さすがジェラちゃん。わかりやすいわ。

 って、えええええ!?


「まぁ、お父様が主催ってことは、家の名誉とかあるから。アンタ絶対負けちゃダメよ!」

「……面白そうっていうのもあるんだろうけど。こんなに話を大きくしたのは、わざとだとおもうよ」

 

 この国は、大きくふたつの派閥に分かれている。イザベラのアランデール公爵家と、リリーちゃんのセントワーグ公爵家。

 私は、えーと。リリーちゃんのとこのセントワーグ公爵家側だ。


 で、ジェラちゃんとガトー君の話だと、国王様は、王家と距離をとるアランデール公爵家の力を少しでも抑えたいんじゃないかって。


「ようは、アンタが勝てばいいのよ! 簡単じゃない!」


 ジェラちゃん。

 ……簡単じゃないと思うんですけど!



**********


 次の日の朝。

 

 今日は学校がお休みだったので、家族みんなでゆっくり朝食をとっていた。

 

「クレナ、アランデール公爵家のお嬢さんと決闘するんだって?」

「そうなの!」


 私の代わりに満面の笑みでキナコが答える。 

 ぶっ。朝食吹き出すかと思った。

 お父様が困った顔をして私を見ている。


「ちなみに、いつ戦うか決まってるのか?」

「一週間後……だそうです」

「そうか、困ったな……」

「お父様?」


 もうお父様が知ってるなんて。

 やっぱり、こまったことになってるんだぁ。

 ジェラちゃんも、『家の名誉』っていってたもんね。

 

「うふふ、顔にでてるわよ、クレナちゃん。それは心配しなくて平気よ。そうじゃなくてね」

「クレナはまだ自分の鎧を持ってないだろう?」

「自分の鎧?」


 それって、決闘と関係あるの?

 

「今回の決闘は、王様が認めたことで、正式な決闘扱いになっているんだ」

「正式な決闘だとね、ちゃんとした鎧で戦わないといけないのよ。まぁ、今では結構ゆるいんだけど」

「いつもの練習用の鎧じゃダメなの?」

「うふふ、普段の学校での決闘なら、練習用でもよかったんだけど。国王のクリールがくるなら、ちゃんとした鎧じゃないとダメよねー」

「ボクも新しい鎧ほしい!」


 ……キナコさん?

 ときどき自分がドラゴンなこと、忘れてないよね?


「……クレナ、当日はお父さんの鎧を使いなさい」

「え?」

「代々使われてきた鎧だ。きっとクレナを守ってくれる」


 家紋が入った綺麗な空色の鎧を思い出す。あの日みた憧れの鎧を着てみたい気持ちはあるけど。

 きっとそれは、「家を代表して戦う」ってことだよね。

 手がプレッシャーで震えてる。

 

 私でもわかるよ。あの鎧は……。

 負けられない、絶対負けちゃいけない。


「クレナちゃんー!」 


 気づいたら、目の前にお母様の笑顔があった。

 

「うふふ、学生同士の決闘なんだから、もっとリラックスして平気よ」

「……お母様?」

「せっかくなんだから、もっと楽しみなさい」


 楽しむ?

 楽しんでいいの? 私。


「そうねぇ、それじゃあ。クレナちゃん、私の鎧を使ってみる?」

「お母様の?」

「そうよ。あれは、私個人の鎧だから、自由に使って平気よ」


 お母様は、私の頭を撫でながらイタズラっぽく笑った。

 私達の話を聞いていたお父様が、慌てた顔をする。


「いやまて、レディナ。あの鎧はダメだ。目立ちすぎる!」

「うふふ、きっとクレナちゃんに似合わうわよ」


 いつもお母様が訓練で着ている、あの宝石のような真っ赤な鎧。

   

「どちらでも、クレナちゃんが好きなほうをつかってね。負けたって全然平気よ」

「いや待て。負けてはダメだぞ、クレナ」

「あなたは黙ってて! クレナはどうしたいの?」


 どちらもずっと憧れてた魔星鎧だけど。

 でも。

 私らしく戦うなら、答えは一つ。 


「私は、お母様の鎧を着て戦いたいです」

「わかったわ。初めての決闘、楽しみね」


 楽しみ。楽しみなのかな。

 お母様の赤い鎧を着て戦う自分を想像してみる。


 不思議なんだけど、なんだか胸の奥から熱い気持ちがこみあげてきた。

 そっか、楽しめるんだ私。

 なんだかワクワクしてきた。

 

「うふふ、やっと笑顔になったわね」


 優しい声に、おもわず笑みがこぼれた。

 なんだか心が軽くなった気がする。お母様すごいな、まるで魔法みたい。

 

「あのね、クレナちゃん。鎧はお下がりだけど、オプションは新品を用意してあげるわね!」

「ありがとう、お母様」

「初めてのお誕生日パーティーを準備できなかった分、初めての決闘はお母様に任せて! うふふ、楽しみね~」

「よかったね、ご主人様ー」


 満面の笑みのお母様とキナコ。

 すこし引き気味のお父様。

 あれ? 鎧のオプション、ってなんだろう。


 

**********


 決闘当日。

 闘技場の控室。


「お母様、なにこれ……」

「うふふ、素敵でしょ」

「ご主人様、カワイー!」


 見覚えのある赤い鎧にフリルのレースがたくさんついている。

 なんだか、鎧っていうかフリフリのワンピースにみえる。


「これね。ユニコーンのたてがみで作った最高級のレースなの」

 

 鎧のフリルを触りながら得意げな顔をしている。


「ドラゴンでもやぶれないし、ブレスでも燃えないわ」


 憧れの赤い鎧……思ってたのと違う……。

 オプションってこれのことだったのね。

 

 くるっと一回してみる。

 フリルがスカートみたいにフワッと広がった。

 可愛いけど。

 すごく可愛いけど。

 あーもう、これ、完全にワンピだよ。


「うふふ、似合ってるわよ。この鎧で戦うクレナちゃん、ぜったいにカワイイわよ!」

「ご主人様! これで、男性客のハートを大量ゲットね!」

「ね!」


 二人とも、ビシッとポーズをとる。 


「ねぇ、お母様。オプション外せませんか?」

「それは無理よ。お母さんがんばって、戦ってる時に絶対取れないようにって職人さんにお願いしたから」


 満面の笑みのお母様。

 王様が認めた、正式な決闘って言ってたのに!

 

「闘技場は結界があって、武器の魔法力が抑えられてるの。だから全力を出しても平気よ」


 会場にはすでにたくさんの人がいるみたいで、歓声が聞こえてくる。

 

「そろそろ時間になります、入場口にむかってください」

「クレナちゃん、頑張ってね。全力で応援してるから!」

「ご主人様! 頑張れ!」

 

 大きく手を振るお母様とキナコ。

 私も、振り返って大きく手を振った。

 よし!


「お母様。私勝ってくるね!」

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