第5話 お嬢様と決闘

 今日は、年に一度、魔法学校中等部に王様が訪問する日だ。

 校内や授業見学は先生方が行うんだけど、夕方から行われるパーティーは生徒会主催。


 私たちは、先生方の許可をもらって先に会場の準備をしている。


「食材は、そこに置くのじゃ!」

「ははは、テーブル運びはオレにまかせとけ!」

「……会長、今日の最新スケジュールこれです。僕の推理ではこれで完璧です」


 みんな、最後の準備ですごく忙しい。

 私たちは放送部のみなさんと、最後の打ち合わせをしていた。


 

「……以上で、打ち合わせ終了です。クレナ様、キナコ様。よろしいですか?」

「ハイ、大丈夫です」

「ボクは平気だよー!」

「よーし! みんな準備はいいかー!」


 放送部メンバー全員と私とで、輪になってならぶと、それぞれの片手を中心に集めていく。

 みんな、今日のパーティーに向けてずっと練習や打ち合わせ、宣伝活動をしてきた仲間だ。


「『チームクレナとゆかいなドラゴン』! ファイトー!」

「おー!」


 体格のいい部長の掛け声に合わせて、みんなで声を上げた。

 放送部のメンバーは、みんなTシャツ姿だ。胸にはチーム名がはいったロゴマークがプリントされている。

 最初『妖精姫クレナと竜王様』って書いてあったので、本気で嫌がったら、妥協案で今のデザインになった。

 ……ホントはチーム名も嫌だったんだけど。

 そのほうが団結できるからって、押し切られてしまった。


「このTシャツかっこいいよね。ボク大好きだよ!」


 ……ねぇキナコ?

『ゆかいなドラゴン』ってキナコのことだからね?



**********


「それでは、クレナ様。お願いします」


 放送部の男の子が、手で合図を出す。

 心臓の音で何も聞こえなくなりそう。どうしよう。

 

「大丈夫、落ち着いて。オレがついてるよ」


 いつのまにかシュトレ王子が横にいて、私の肩にポンっと手を置いた。

 王子には、生徒会でいつも助けてもらっている。一年生の時、今の私と同じ広報担当だったんだって。

 私は、こくりとうなずくと、線のつながったクリスタルに向かって喋り始めた。

 

「こちらは、中等部生徒会です。まもなく、国王陛下歓迎パーティーを開催します」


 このクリスタルは前世でいうマイクみたいな魔道具。

 私の声が校内中に響き渡る。恥ずかしすぎる。


 ふりむくと、優し気な瞳をしたシュトレ王子と目があった。

 よし、大丈夫。

 今日は全力で頑張ろう。



 パーティーがはじまると、私は放送部のみなさまと一緒に、ステージや会場内を色々飛び回った。

 前世でいうと、私とキナコがアナウンサーで、放送部のみなさまが撮影スタッフみたいな感じ。

 会場で色んな人にインタビューしたり、ゲストの国王様にコメントをもらったり。


 会場は立食パーティー形式で、ステージ上では、各クラブが日ごろの成果を発表していく。

 剣術部が演武を行ったり。

 魔法研究部が不思議な魔法を披露したり。

 吹奏楽部は、生演奏で常に会場に音楽を提供してくれていた。

 

 シュトレ王子様は常にステージにいて、私たちが都度合流してお話する。

 なんだか、ダブル司会みたいな感じ。


 最初は、台本通りにはなしてたんだけど。

 王子がすごくアドリブをいれてくるので、私たちもだんだん楽しくなって、いろいろアドリブをいれてみた。


「今、メンバー募集中なんですよね? ぜひ、元気よくアピールしてください!」

「よ、妖精みたいな可愛い子が好みです!」

「それって、彼女募集になってますよー?」


 国王様も笑ってたし、会場も盛り上がったみたい。


 最後には、生徒会もなにかやれーって声が上がって。

 準備なんてしてなかったから、みんなでその場で相談して。

 ステージにあがって、国王様に捧げるってことで、国家斉唱をした。

 

 ただ真面目に歌っただけなんだけど、なぜかすごくもりあがった。 



**********


「……以上で、本日の国王陛下歓迎パーティーは終了になります」 


 

「終わったー!」


 私はステージから横の控えスペースに下がると、思わず大きく息を吐いた。

 周りには放送部のみんながあつまってきて、口々に声を掛け合った。


「今日はありがとうございました」

「こちらこそ! チームクレナとゆかいなドラゴン、大成功ですよ!」

「すごくたのしかったです!」

「司会よかったよ!」

「ボクも楽しかったー!」


 みんなすごく興奮している。泣いてる子もいるみたい。

 私も、涙が出そうになる。頑張ったもんね、うん。


 国王様をお迎えしてのパーティーはもうすぐ終了。

 私も問題なくできた……と思う。

 あとは、みんなで飛行場まで並んで国王様を見送るだけ。


 シュトレ王子が、手を差し伸べてくる。

 もう、自然にそういうことするんだから。

 今だけ……だから、いいよね。

 私は、王子の手をとって会場の外へ出ようとする。

 

   

「おまちください!」


 出口付近で、だれかの声に引き留められた。

 振り返ると、赤髪に縦ロールの女の子が腕をくんで、堂々と立っている。

 イザベラととりまきの女の子たちだ。


「おまちください。なんでこんな女が生徒会にいて、司会なんて大役をしてますの!」

「今日のパーティーでもひどく低俗で、不敬でしたわ!」

「そうよそうよ! 婚約者だって無理やり略奪して、卑怯者!」


 彼女たちはひどく怒った表情で、私をにらんでいる。


「低俗だって?!」

「公爵令嬢だって、言っていいこと悪いことがあるだろ!」   

「クレナ様に謝れ!」

「ねぇねぇ、ご主人様。この人たち倒してもいい?」

「キナコ、落ち着いて!」

  

 今度は、放送部のみんなとキナコが、イザベラととりまきたちに反発する。

 ちょっと、キナコさん?

 口から炎でてません?

 ……まずいよね、これ。

 まだ国王様もいるのに。


「お話は今度お聞きしますので、今日ここではやめて頂けませんか?」


 これ以上騒ぎになったらみんなに迷惑かかっちゃうよ。

 なるべく笑顔でイザベラに話しかける。

 イザベラは、顔をさらに真っ赤にして、私を指さした。


「……もう我慢できませんわ! 貴方、私と勝負なさい! 負けたらおとなしく私と生徒会を代わりなさい!」

「イザベラ、落ち着いて。そんな勝負は受けられないよ」


 シュトレ王子が、私とイザベラの間に入って、騒ぎを収めようとする。


「あはは、いいじゃないか、認めよう」


 突然大きな声が響き渡った。

 声の方をみると、国王様がすごく嬉しそうな笑顔で、私たちをみている。

 楽しそうなものをみつけた、子供みたいな瞳だ。

 

「うーん、そうだなぁ。魔法だとクレナちゃんに有利すぎだろうから。魔星鎧で決闘なんてどう? これなら楽しそうでしょ」


 えええーーーーーーーーー!?

 横を見ると、シュトレ王子が頭をかかかえている。


 ……こうして。

 

 私は国王様公認で、公爵令嬢イザベラと決闘することになった。


 やっぱりこれって。

 悪役令嬢ものに似てるよね……。


 なんでさ!

 

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