第3話 お嬢様と生徒会

 実技試験のあとは、学科試験と簡単な身体測定があって、その日の日程はすべて終了。

 テストの採点があるので、次の日はお休みだった。


「さすが、ご主人様。すっごい魔法で注目の的でしたね!」

「……キナコ。いっとくけど、キナコのほうが目立ってたからね?」


 キナコは、人化した姿のまま、的に向かって炎ブレスを吹き付けた。

 私と同じ顔の女の子が、口から炎を……。

 それはもう、びっくりするくらいシュールな光景でしたとも!


「ほかにもいろいろ魔法覚えてたのに、なんでブレスなのさぁ……」

「ふふん、あれがボクの一番得意な魔法だから!」


 キナコは、学校に入るために一つ条件が与えられている。

 学校内では絶対に人化を解かないこと。


 キナコ自身は、もう竜王とか呼ばれてるし、正体がドラゴンなことは有名なんだけど。

 人化からドラゴンは全然平気。

 でも……ドラゴンから人化しちゃうと、いろいろ問題があるから。

 あれは、人前では絶対禁止だからね!

 

「目立つっていえば。リリーちゃんもすごかったよね!」

「うん、確かに。リリーちゃんってば天使すぎだよね~」

「……ボクそこまでは言ってないけどね」

 

 リリーちゃんは、大きな木を出現させて、たくさんの魔法の葉が舞うように的に命中していた。

 木の葉が舞い終わった後には、的は跡形もなくなくなっていた。

 影竜の時に見た魔法だけど。

 すごく彼女らしくて……とても綺麗な魔法だと思う。

 

 遠くの試験会場では、大きな氷の柱が見えたけど、あれ多分ジェラちゃんだ。


「みんなすごかったねー。ボクももっと派手な魔法が使いたいなー」


 キナコ?

 あれ以上派手な魔法なんて……ないと思うんだけど。



********** 



 魔法学校中等部は、魔法の才能のあるものなら誰でも入学できる。

 入学に際して、最低年齢は十三歳と決まってるんだけど、年齢の上限はとくにきまっていない。

 なので、同級生の年齢層はさまざまで。

 私と同じ年くらいの子がいたり、白髪の混じったおじさんがいたり。

 中には、親子で入学するなんてこともあるんだって。

 このあたりは、前世の中学校とはだいぶ違う感じ。 

  

 で。私は今、クラス分けの貼られた掲示板の前にいる。


「ご主人様、クラス見つかった?」

「ううん、まだ」


 おかしい……。私の名前はどこだろう。

 えーと。


 ない、ない。ないんだけど。


 掲示板の位置が私の目線より高いので、ずーっと下から見上げていくと、最後のあたりで名前を見つけた。

 えーと。


 ……『特殊クラス』


 なにこれ。


 特殊ってなに? 問題児を集めたクラスとか?

 おまけに。

 ほかのクラスとちがって人数が五人しかいない。


 せめて、知ってる名前があるといいんだけど。


『ガトー・グランドール』

『ジェラ・グランドール』

『リリアナ・セントワーグ』

『キナコ』


 よし!

 特殊っていうのがひっかかるけど、リリーちゃんやジェラちゃん、ガトーくん、あとキナコと一緒なのは嬉しいな。

 ふぅ。

 よかった。

 よかった。

 ……って!

 知り合いしかいないんですけど!

 なにこれ?

 どんな『特殊』なの?!

 

『尚、マークのついている上位三名を、生徒会メンバーとする』


 へー。生徒会って成績で決めるんだ。前世の学校では、推薦とか立候補だったのにな。

 誰がやるんだろ。知ってる人かな? 

 

 よく見ると、私とリリーちゃん、キナコの名前の横に星のマークがついてる。

 なーんだ、私だよ。


 ……。


 ……はい?


「やりましたわ! クレナちゃん、わたしくしたち一緒に生徒会ですわ!」

  

 リリーちゃんがジャンプして抱きついてきた。

    


********** 


 教室に向かう最中、リリーちゃんからこの学校の生徒会についていろいろ教えてもらった。

 毎年、生徒会は、入学時の成績でメンバーに選ばれんだって。

 で。学年が上がるごとに成績順で入れ替えが行われるんだけど。

 ここ数年は入れ替わりは起きていないらしい。


「絶対、クレナちゃんは選ばれると思ったから、試験頑張りました!」

「そうなんだー……」


 リリーちゃんが、嬉しそうに笑っている。

 一緒なのは嬉しいんだけど。

 生徒会……前世で楽しかった記憶がないんだけどなぁ。


「ご主人様、ボクも頑張ったでしょー! すごくない?!」

「ゴメン……キナコって……頭良かったんだね」

「あたりまえじゃないですか。ボク、ドラゴンなんですよ?」


 確かにドラゴンって頭良いイメージなんだけど。

 何故だろう?

 キナコには当てはまらない気がして。


「アンタって、いろいろ反則よね……」


 ジェラちゃんが、後ろの席から話しかけてくる。


「まぁ、あれよ。なにかあったら、ちゃんといいなさいよ」


 ジェラが、じーっとこっちを見つめる。なんだろう?

 

「……アンタ、絶対目つけられるから」

 

 ジェラがぼそっとつぶやいた。


「え?」


 本気で心配してる感じなんですけど。

 嬉しいけど……なんでさ!


「まぁまぁ。同じクラスでよかったよ、クレナ。一緒に生徒会に入れたら楽しそうだったんだけどね、残念」 

 

 ガトーくんが振り向いて、さわやか笑顔で話しかけてくる。

 茶色い髪が窓から差し込んでくる日差しで輝いている。乙女ゲームなら完全に「スチル」画面だよ。

 かっこいいなぁ。さすが、タラシだわ。


 しばらくすると、教室に銀髪で眼鏡をかけた教師が入ってきた。

 あれ? この先生ゲームで見たことあるんですけど。

  

「ようこそ、魔法学校へ。君たち特別クラスを担当する、ディーン・ファルトだ」  

 

 やっぱり、『ファルシアの星乙女』に出てきた先生だ。

 ゲームでは高等部の教師だったのに、なんで、中等部の教師やってるの? 

 振り向くと、ジェラちゃんも困惑した目つきで先生をみていた。


 ……50%の予言の世界。あたっているのは半分だけ。

 

 半分だけの知識で、私は本当に世界を救えるんだろうか。

 初めて、少しだけ怖くなった。



**********

 

「ようこそ、生徒会へ!」


 シュトレ王子が、両手を広げて笑顔で私たちを歓迎してくれた。


 放課後、私とリリーちゃんは呼び出しをうけて生徒会室にきている。

 私達一年生を含めて、全員で六人。

 あれ?

 各学年三人だったら、九人いるはずだよね?

 

「オレの自己紹介は……今さらいいよな。今年度から生徒会長やるから、よろしくな」

「よ、よろしくお願いします」

「お願いいたしますわ」

「よろしくー!」


 私とキナコ、リリーちゃんは頭を下げる。


「そんなに堅苦しくしなくて大丈夫さ。座ってよ」


 シュトレ王子にうながされて、応接用のソファーに座る。


「ほかのメンバーを紹介するよ、まずは……」

「ははは、お前の元嫁と嫁、あと竜王様じゃねーか! すげーな今年の一年は!」


 短くツンツンとさせた赤髪に、赤い瞳のガタイのいい男の人。

 ソファーに座っている王子の後ろに立って肩つかんでいる。


「お前、学校になにか手をまわしたのか?」

「まわしてねーよ。それに嫁じゃねーよ。婚約者だ!」

「まぁ、カワイイ子が増えるのは大歓迎! オレは副会長のティル・レインハートだ。後ろの机にいるのが、書記のグラウスな」


「……かわいい。しつれい、なんでもありません。僕の推理ではみんな優秀そうなので歓迎ですよ」

 

 机の書類を整理していた長い水色の髪の男性が、こちらを向いて少しだけ頭を下げた。

 

 この二人のことはよく知ってる。

 すごく陽気な人と推理マニアの人だよね、ゲームの中だけじゃなくてこっちでもそうなんだ。


 ティル・レインハートは、騎士団長の息子。 

 グラウス・ミューゼンバーグは、宰相の息子。

 どちらも、乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』の攻略対象キャラだ。


 そっか、中等部で生徒会やってたんだ。知らなかった。

 ジェラちゃんやガトーくんは知ってたのかなぁ。

 

「クレナ・ハルセルトです。よろしくお願いします」

「リリアナ・セントワーグともうします。よろしくお願いいたしますわ」

「ボクはキナコですー。よろしくー!」


 私たちは、立ち上がってスカートの裾を少しだけ持ち上げてお辞儀した。


「あと一人、会計がいるんだけど。今、予算のことで呼び出しを受けててね。さてと」


 シュトレ王子は、私達の前に立つと肩をポンと叩いた。

   

「役職は、会長が決めることになってるから。リリアナは庶務で、クレナとキナコちゃんは広報ね」


 広報?

 前世の生徒会では、生徒会誌をつくったりして生徒会の活動をアピールしてたかな。


「ははは、今日は見学で平気、平気。気楽に行こうぜ!」

「少しうるさいです、副会長。そんなに大声でなくても聞こえますよ」

「ははは。わりーな! グラウス」


 なんだか、とても賑やかで楽しそう。

 ふと気づくと、王子が優し気な瞳でこっちを見ていた。

 少しだけ、胸が痛い。


「いつもこんな感じさ。いいやつらばかりだから、すぐになじめると思うよ」


 私の横にいたリリーちゃんが、手を繋いできた。

 すごく幸せそうな笑顔。見てるとこっちも幸せになれそう。


「一緒に頑張りましょうね、クレナちゃん」 

「うん、一緒に頑張ろうね」

「……ボクもいるからね?」  

    

 怖そうな場所じゃなくてよかったな。

 それに。

 攻略対象が三人いるのも、考えてみたらチャンスなのかも。

 よし! 高等部入学までに、星乙女ちゃんをアピールしまくろう!


 ……だから。

 乙女ちゃんは、ちゃんと世界を救ってね。



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