第1話 お嬢様と魔法学校
前世で、妹がやっていた乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』。
そのゲームとそっくりな世界で、私は転生者として毎日を過ごしている。
影竜事件のあとは、大きな事件もなくて。
私は、十二歳になった。
リリーちゃんとは、手紙のやり取りも続いてるんだけど。
彼女がメッセージの魔法を覚えたので、お互い小鳥のメッセージ魔法も使うようになった。
すっごく素直な性格だから。
「クレナちゃん、大好きですわ」
と、いつもストレートに好意を伝えてくる。
周りの男の子を勘違いさせないといいなぁ。ちょっと心配。
もし私が男の子だったら、間違いなく好きになってるよ。
髪型も、くるくる縦ロールじゃなくて、今もきれいなストレートにトレードマークの赤いリボン。すごく可愛い!
さすがこの世界の天使ちゃん。
クーデターの心配は今のところないと……思う……たぶん。
ジェラちゃんと、ガトーくんとは、クリスタルでお話している。
『転生者で世界を救おう会議』は、毎週実施中。
影竜事件の「ペンダントも教えも東からきた商人からもらった」っていう話は、やっぱりすごく気になるんだけど。
元リーダーだったクレイに聞いてもわからないみたいだし、大きな動きはないから、みんな警戒どまり。
あとは、三人(あとキナコ)で楽しくお話してる。
前世の話でもりあがれるのって、ここだけだしね。
この間は、好きな歌の話から、いつのまにかみんなで曲を歌ってて、カラオケみたいになったりしたけど。
お母様との朝の魔星鎧訓練はずっと続いている。
「いいわよ、クレナちゃん、その調子よ~」
「お母様、少し速いです。もうちょっとゆっくり!」
「ご主人様、頑張れー!」
お母様の後について、キナコと一緒にくるくる空を飛ぶ。
キナコは飛ぶスピードがはやくなったし、私は少しの時間であれば、自由に飛べるようになった。
あと。
私の魔法、いつのまにか成長したみたいで。
キナコ以外にも使えるようになった。
先日はついに! 近くを飛んでいた小鳥を大きくして騎乗することに成功!
魔法が効いている間は意思疎通ができるみたいで、ちょっと不思議なかんじだった。
ゲームの乙女ちゃんみたいに攻撃魔法は使えないけど。
うん、なんとなくだけど私に向いてる気がする。
シュトレ王子とは……。
パーティーでいつも一緒にいる。仮でも婚約者だからね。
王子は私より二つ年上だから、十四歳。
成長期だから、この二年で背がすごく伸びた。
もともと金髪碧眼でカッコいい感じったけど、この頃色気みたいのも出てきたみたいで、その魅力が倍増してる気がする。
ゲームのキャラとほとんど一緒だよね。まぁ、本人なんだけど。
一緒にパーティー会場を歩いていると、女の子たちが顔を赤くして目がハートになってるのを何度もみかける。
でもね。男の子も赤い顔でこっちを見てるのはなんでだろう?
もしかして、シュトレ王子の魅了の力って、女の子だけじゃなくて男の子にも有効とか!
すごいな、さすが攻略対象キャラ!
一度、王子様にそれとなく話してみたんだけど。
それは違う理由だよって笑われた。
なんでだろ。
乙女ちゃんが現れるまで、あと三年。
それまでは、隣にいて……いいよね。
「自称神様みたいなもの」、かみたちゃんとは、あれからずっと会っていない……。
**********
十二歳の私には、大きなイベントが待っている。
魔法学校中等部への入学だ。
ファルシア王国では、魔法を使えるものを対象に、王立の学校が存在している。
初等部、中等部、高等部に分かれてるんだけど、初等部は主に基本的な学問を学ぶところ。
なので、貴族の子供はほとんど、専門的に魔法が学べる中等部から入学するんだって。
仕立て屋さんから届いた制服に袖を通す。
赤いラインの入ったおおきな襟、胸元には大きなリボン。プリーツのスカートとハイソックス。
これって、前世のセーラー服とほとんど同じ気がするんですけど。
鏡の前で、くるりと一回転。
似合ってるかな。
「ねぇねぇ、ご主人様。似合ってる?」
私と同じように、くるりと一回転する。
うん、今ちょうど鏡で同じ姿をみた気がするんですけど。
キナコってほとんど同じ顔だし。
「うふふ、可愛いわ、二人とも。クレナちゃんがもう入学なんて~」
「似合ってるぞ、クレナ、キナコちゃん」
前世では、中学高校ともにブレザーだったので、ひそかにセーラー服に憧れてたんだけど。
まさか、異世界で実現できるなんて!
「お嬢様方、準備は出来ましたか?」
おおきな荷物をかかえた執事のクレイが顔を出す。
私たちは、王都にあるハルセルト家の別宅に引っ越すことになった。
学校には、ちゃんと学生の為の寮も完備されてるんだけど、お父様が猛反対した。
せっかく別宅があるんだから、そこから通いなさいって。
それと。キナコと、お父様、お母様、セーラとクレイ、数名の使用人さんも一緒に引っ越しをする。
お父様は、領地経営のこともあって王都と領地を往復しなきゃいけないけど。
私たちの為に迷惑かけちゃうから、大丈夫だよっていったんだけど。
前から国王様に呼ばれてたんだよって笑っていた。
本当かなぁ。
キナコはドラゴンなのに、なぜか魔法学校に入学できるんだって。
お母様が国王様に直接お願いしたらしいんだけど。
キナコって学校で何を学ぶんだろう?
あと! 執事のクレイ!
王都追放じゃなかったっけ?
引っ越しとか無理だと思うんですけど!
「そこはそれ、いろいろツテがあるんですよ」
にやりとわらうクレイ。
ゆ、有能なんだけど、ちょっと怖い。
「さぁ、出発ですじゃ」
お屋敷の皆に見送られて、私たちは飛空船に乗り込んだ。
飛空船が飛び立つと、窓から小さなくなっていく我が家が見える。
次に戻るときには、学校を卒業した後かな。
そうすると……。
私は、ゲームのようにちゃんと世界を救えてるだろうか。
「なぁに、長期休暇にはゆっくりもどったらいいさ」
お父様は、泣いていた私の背中を優しくさすってくれた。
**********
「うわぁ、こんなに大きいの?」
「ご主人様、これすごいねー」
私たちは、王都の中心部から少し離れたところにある、魔法学校に見学に来ていた。
学校は、高い壁に囲まれていて、お城のような高い塔がいくつも建っている。
壁には結界がかかっているみたいで、少しキラキラ光っている。
魔星馬の馬車で門をくぐると、広い敷地の中に、赤い屋根の大きな屋敷のような建物が見えてきた。
「あれが、校舎だよ」
懐かしそうな目で建物を眺めている。
お父様、この学校の卒業生なんだって。
駐車場に馬車をとめると、一人の男の姿が見えた。
「やぁ、クレナ、キナコちゃん。連絡をきいてね、待っていたよ」
両手を広げて笑顔を見せている、金髪に青い瞳のイケメン。シュトレ王子だ。
まるで乙女ゲームの「スチル」を見てるみたい。
「シュトレ王子だー、ひさしぶりー!」
「久しぶり。キナコちゃんも入学するんだってね」
「そうなのー。ご主人様ばっかり見てないで、ボクのこともよろしくね」
「ちょ、ちょっと。キナコちゃん? その話はあとでゆっくりしようね?」
シュトレ王子が、あわててキナコの口をふさぐ。
「二人に校内を案内するからさ。終わったら食堂でデザートでも食べようよ」
「わーい! デザート楽しみ!」
へー。
いつの間に仲良くなったんだろう、この二人。
お父様とお母様は職員室へ向かったので、私たちはシュトレ王子に校内を案内してもらった。
校舎、体育館、図書館、食堂、訓練場、校庭。
どこも大きいし広かったんだけど、私はあることに気づいていた。
(……ゲームの画面と全く同じだよね)
でも、ゲームは高等部からのスタートだし。あれ?
「ねぇ、もしかして。ここの建物って、高等部の人も使ってたりするの?」
「よくわかったな、高等部も同じ建物を使ってるよ」
やっぱり。
だから、こんなに大きいのね。
あ。ゲームと同じってことは、迷わなくて済みそうでちょっと安心。
「ふーん、その割には人が少ないねー」
キナコが、校庭をながめながらつぶやく。
「まぁ。今は休みだからさ。普段は人が多くて賑やかな学校だよ。さて、最後はこの場所だな」
シュトレ王子が最後に案内してくれたのは、校舎の中の一室。
見上げると「職員室」と書かれている。
……入学前なのに、なんで職員室に?
「ねぇねぇ、ここはどんな部屋なの? 食堂とはちがうところ?」
「んー。先生がたくさんいるところ、かな?」
彼は、笑顔で振り返ると、職員室の扉を開けた。
「失礼します、クレナさんとキナコさんをお連れしました」
見ると、先に部屋に入った王子が手招きしている。
恐る恐る職員室に入ると、応接用ソファーにお父様とお母様。その前に、白髪の紳士っぽい男性がいた。
男性は立ち上がると、私たちの方を見てお辞儀をする。
「やあ、君がクレナさんとキナコさんだね。初めまして、校長のモール・エアフルトです」
校長先生!
そういえば、ゲームで見たことある気がする。
「はじめまして、リード・ハルセルトの娘、クレナです」
「キナコはキナコです。よろしくー」
両手でスカートの裾を少しだけつまんで、お辞儀する。
横をちらっとみると、キナコもがんばってお辞儀していた。
「いやいや、二人とも可愛らしい。噂通りですな~」
噂? うわさってなんだろう。
心当たりがありすぎて……こんなときは笑顔でスルーしよう。
「さて、クレナさん。ご両親にはすでにお話したのですが、お願いがあります」
お父様とお母様を見る。二人ともとてもニコニコした顔で私をみている。
なんだろう?
「あなたは、新入生代表に選ばれました。入学式、楽しみにお待ちしていますよ」
……選ばれました?
…………何に?
…………。
えーーーーーーーーーーー?
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