第33話 魔法王国の発明
ファルシア王国の王都ファランにある「クリール工房」。
国王様が自分で魔道具を作りたくて、お城の近くに作った工房だ。
今日は、私と、ジェラちゃん、ガトーくん、キナコが招待されいる。
「やぁ、みんな。僕の工房へようこそ!」
両手を広げて、子供みたいな笑顔で挨拶をする国王様。
「お父様って、こんな工房をお持ちだったんですね」
「魔道具を作ってるのは知ってたけど、こんなに本格的な工房までもってるなんて」
ジェラちゃんとガトーくんが珍しそうに、工房のなかをぐるぐる見回している。
私もはじめて来たとき、ビックリしたもんなぁ。
その後、いろいろあったんだけど……。
「今日はね、クレナちゃんからアイデアをもらった魔道具を公開しようと思ってね」
「アンタ、なにかアイデア出したんだ?」
「違うの! あったらいいなくらいの感じで……」
「何を言ってるんだい! この大発明はクレナちゃん無しでは出来なかったんだ!」
それって例の『車』のことだよね。
ホントに、成功したの?
「さあ! これが本日初公開の魔道具! 自分で動く馬車さ!」
シートを引っ張ると、大きな馬車が現れた。
馬を取り付けるハーネスや金具がついてなくて、代わりに御者の座る席に色んなレバーがついている。
国王様は、工房の扉を大きく開けると、魔道具の御者席に座った。
「もう何回もテスト走行しているからね。安全性は保障するよ」
何かのスイッチを入れたみたいで。
全ての車輪が輝きだした。
「ご主人様、これキレイ!」
「うん、ちょっとすごいね……」
そっか、これって。
全ての車輪に魔法石を使うって言ったからだよね。
まるで、おとぎの国の馬車みたい。
「うーん、なんだかすごいね」
「……ねぇ、こんなすごいの、アンタが考えたの?」
「だから違うってば。私は出来たらいいなくらいの話をしただけで」
御者席から、国王様が声をかける。
「さぁ、乗ってくれたまえ! これからこの自動馬車の凄さを体感してもらうから」
国王様の言う『自動馬車』は、王都の門を抜けると、街道を疾走する。
「どうだい、今までの馬車の何倍も速いだろ!」
ご機嫌な国王様の声が響く。
隣に座っていたジェラちゃんがジト目で私をみていた。
「ねぇ、これって……車よね?」
「そ、そうだよね」
「……なんでアンタが車のアイデアなんて出せるのよ!」
「ううん、違うの! 前世の車とは全然ちがうものなの!」
「どうみても車じゃない!」
違うし!
前世の自動車は車輪が光ったりしないし!
「いや、確かにこれは全然違うものかもしれない」
窓から顔をだして車輪をみていたガトー王子が関心したように声を上げた。
「そうなの?」
「だって、ジェラ。これは飛空船じゃなくて馬車だよ? なのにほとんど揺れないよね?」
「いわれてみれば、そうね……」
そういえば、さっきから全然揺れない。
馬車って、路面の凹凸の影響でおしりが痛くなるくらい揺れるのに。
前世の車だって、もうちょっと揺れたような気がする。
「はぁ……アンタってホントに、チート持ちよね」
「え? これは違うよね? 作ったの国王様だよ?」
「前世より便利なもの作り出してどうするのよ……ゲームと歴史が変わるでしょうが」
「うん。すごく変わったと思うよ!」
キナコが自慢げに胸を張る。
このおバカドラゴン!
何で空気読まないかな!
今度はジェラちゃんだけじゃなくて、ガトーくんもジト目で私をみてくる。
「べ、便利そうだし。これはこれで、いいんじゃ……ないかなぁ。なんて……」
「ぷっ」
ガトーくんが吹き出した。
「冗談だよ。うん、確かにこれは便利になると思うよ。素敵な発明だね」
「ガトーは、クレナに甘すぎるのよ!」
「お・に・い・さ・ま、な! ちゃんと呼ぶんだよ?」
まさかホントに車が出来ちゃうなんて。
予言、大丈夫かなぁ……。
**********
自動馬車の試運転を終えて。
私たちは、王都の工房に戻ってきた。
帰りの王都内の道では、たくさんの人から注目を集めた。
車輪光ってるし、馬はいないし。
うん、すごく目立つもんね。
「いやぁ、まいったね。あとでまた宰相におこられちゃうよ」
「お父様。護衛もなしで街の外に出たんですから、当り前です!」
考えてみたらそうだよね。
国王様が運転してて、第二王子と第一王女が乗ってて。
あと一応、第一王子の婚約者の私と、竜王と言われてるキナコもいて。
……事故とかなくてよかった。
「まぁでも。試運転は成功だね。これで王国はもっと便利になるよ」
目を輝かせて、自動馬車を見る国王様。
本当に、子供みたいなひとだなぁ。
「あーでも、そうするとさ。これは完全に不要になってしまたねぇ」
シートを引っ張ると、普通の馬の三倍はありそうな大きさの馬の人形が現れた。
前に見せてもらった、かわいいロボット馬だ。
「お父様? な、なんですか? これ?」
「自動で動く馬なんだよ。でもまぁ、自動馬車が出来たからなぁ~」
確かに。
車があれば、ロボット馬くんはいらないもんね。
「なんだか、遊園地で喜ばれそうな魔道具だね」
私の隣で、ガトーくんがそっとささやいてきた。
「うふふ、私もね、見た時に同じことおもったの」
やっぱり思うよね。
ガトーくんの耳にささやきかえす。
あれ?
顔がすごく赤いんだけど。どしたんだろ?
「ガトーくん?」
「いや、なんでもないよ。ちょっとびっくりしただけだから」
「ご主人様……またですか……」
またって、なにさ!
うーんでも。
確かに、自動馬車のほうが、便利だと思うんだけど。
こんな馬たちが国中を走ったら、きっと可愛くてたのしそう。
「問題は、大きさよね……」
「クレナちゃん?」
「どうしたのよ、アンタ?」
ちょっと考えてみる。
今のままじゃ大きいし動きも遅いし。大きな魔法石を使わないといけないからお金もかかる。
うーん。
そうだ!
「この馬って、魔星鎧みたいにできませんか?」
「……魔星鎧?」
国王様は不思議そうな顔で私を見ている。
私は、訓練の時に何度も行っている、鎧全体に魔法をいきわたらせる方法を思い出していた。
「魔星鎧の装備全体に魔力をいきわたらせるの感じを応用できたら、小さくても馬の人形動きそうだなぁって」
だって。
鎧って魔力を通す特別な金属でできていて、空間をイメージできれば空だって飛べるんだし。
だったら、同じ感じで地面をイメージすれば動きそうかなって。
「そうかなるほどね、試してみる価値はありそうだね」
振り向くと、国王様がもう図面を引き始めていた。
「うんうん、なるほど、そうか。魔星鎧の技術ね。魔法石の加工だけを考えてたから気づかなかったよ」
「お父様、ホントにそんなこと出来るんですか?」
「まぁ、魔星鎧に関しては専門外だからね。鎧をつくっている専門家に相談してみるよ」
お城への帰り道。
今度はちゃんと護衛付きで、お城まで歩いていた。
「……チート持ちの竜姫様」
ぼそっとジェラちゃんがつぶやく。
「ええええ?! なんでさ!」
「……アンタさ、いろいろ自覚した方がいいと思うよ」
「……ジェラちゃんだって、氷姫ってよばれてるのに」
「アンタ、それ言う?! 誰よあんな変な二つ名つけたやつ!」
「まぁまぁ」
ガトーくんが私たちの間に割って入る。
「車も便利そうだし、馬もあれはあれで楽しそうだよ」
「だよね! あんな馬が国中を走ったら絶対楽しいと思うの!」
思わず、ガトーくんの両手を握る。
魔法の馬なんて、すごくファンタジーっぽいよね!
しかも、見た目は遊園地のあれみたいだし。絶対可愛いし楽しい!
「そ、そうだね」
ガトーくんが私をみて固まっている。
なんだろう?
今日のガトーくんは少し変だよね。
「はぁ……アンタそれも自覚したほうがいいわよ……」
「ご主人様は、無自覚だから怖いんですよ……」
「なるほどね、いえてるわ」
ジェラちゃんとキナコがボソボソとしゃべっている。
聞こえてますから!
無自覚って……なんのことさ!
**********
一か月後。
私達はあらためて工房に呼ばれた。
国王様が、自慢げに、シートを引っ張ると。
あの大きかった馬の人形が、ポニーくらい小さくなっていた。
「……これって、やっぱりあれよね?」
「あはは、なんだか見覚えあるなぁ」
「思った通り! メリーゴーランドみたい? カワイイ!」
「魔星鎧からヒントを得たからね、魔星馬と命名したよ。いやーホントにありがとう!」
その後、ファルシア王国では、馬の代わりに魔星馬が使われるようになってきた。
まず、魔星馬のテストを兼ねて、各町をつなぐ乗り合い馬車を運用して、大好評になった。
魔法の力は、各地にある騎士団の駐在所で、鎧の使える人に補充してもらうんだって。
なんだか、ガソリンスタンドみたい。
その後、王国が辺境の町々を中心に、レンタルで貸し出しを開始。これもすごく評判が良いらしい。
もちろん、自動馬車も大人気で。
貴族の間では早くも飛空船と併用して使われているんだって。
先日我が家にも一台届いた。
さっそくベンじいが運転の練習をしてる。
「なんだか、色々やっちゃったけど……予言大丈夫かなぁ」
「ご主人様……そう思うなら、何もしなければいいのに」
「それはそうなんだけど……もう、生意気ー!」
人化したキナコのツインテールを軽く引っ張る。
キナコはほっぺたをひっぱってきた。
「ふぁふぃふるのよ!」
「お返しー! まぁ、馬のほうは影響ないから平気ですよ」
そうなの?
あらためてをベッドから『ファルシオンの乙女』メモを取り出す。
えーと。
あ。ファルシオン王国のとこに何か書いてある。
『ファルシオン王国では、ランプや飛空船、鎧も馬も、魔法の力を利用している』
……もしかして、魔星馬ってこれのこと!
書いたときに気づいてよ、私!
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