第31話 お嬢様と戦いのあとで


「人化する大きなドラゴンを操りし者。あなたこそ、星乙女だ」



 あれから。

 すべて終わった後。


 王宮の謁見の間で、司祭をはじめ信者たちがひれ伏していた。

 彼らは、これまでのことを何もかも話してくれた。


 流れ星の数が少しずつ少なくなっていくことに不安を覚えていたこと。

 不思議な形をしたネックレスと宗教の教えを、東から来た商人から授かったこと。

 そして、そのネックレスに祈りをささげると、ケガがなおったり、病気がなおったり。

 本当にいろいろな奇跡がおきたこと。


「その奇跡っていうのは、祈った人の魂を利用しておこしてたんだと思うよ」

「こら、キナコ。しーっ!」

「ははは、かまわないよ」

 

 国王様は、信者たちをじっと見つめる。


「流れ星について公表しなかったことは謝ろう。だが、君たちは犯罪者だ」


 強い口調で言葉を続ける。


「無関係な人をまきこみ、魂をうばい、あまつさえ巨大な竜で国を滅ぼそうとした!」

「わ、私たちは国を滅ぼそうなどとは……」

「黙れ! お前たちのやっていたことは、そういうことなんだよ!」


 国家転覆の罪に問うなら。

 全員、極刑になる……。

 

「クレナちゃん、君はどうしたら良いと思う?」


 横にいた私の方をむくと、笑顔で問いかけてくる。


 この宗教の信者たちのメンバーには。

 大貴族や、騎士団の人、大商人がたくさんいる。もしもこの人たち全員に罰を与えてしまったら。

 多分、国がまわらなくなる。

 この謁見の前に、王国の監査官からちゃんと全員取り調べを受けているけど。

 信者たちは、私を星乙女だと信じている。

 だから。

 取り調べにも素直に応じているらしい。

 

 つまりこれを言うのは、私じゃないとダメなんだって国王様が言ってた。



「あなたたちは、本当に人に危害を加えたりしていなんですね?」

「も、もちろんです!」


 司祭服を着た男が答える。


「私のように、祭壇に誘拐した子供たちは?」

「た、魂をささげるといっても、元気な子供が寝てしまう程度のものでした。終われば元の場所へちゃんと送っていました」

 

 国王様と、その横の宰相様を見つめる。

 二人はこくりと頷いた。

 嘘じゃないみたいだけど、一応確認する。


「ウソはついてませんね?」

「星乙女である貴方様に、ウソなど付くはずがありません!」


 私を誘拐した司祭服の若い男。

 大貴族マレウス侯爵の一人息子で。

 この宗教のリーダーなんだって。


「あの危険なアクセサリーを信徒に捨てさせることはできますか?」

「命の恩人である、貴方がそう望まれるのであれば」


 それを聞いたので私は言った。


「国王様。今回は国家転覆罪といっても未遂ですし、反省もされているようです」

「ふむ」

「……教団の解散と、王都からの追放でいかがでしょうか?」

「なるほど、なるほど」


 ……国王様はずるい。

 私に、こう言わせたかったくせに。

 最初に台本渡してたくせに!


「ご慈悲に感謝します……」

「そんな」

「我々は貴方の力になりますぞ」


 安堵するもの。

 反発するもの。

 信者たちの反応は様々だ。

 これも……計算のうち。

 タヌキな国王様をじっとみる。

 彼は、イタズラを思いついた子供の用に、にやりとわらった。


「貴様たちは解散ののち、即刻王都から出ていけ! これは王命だ!」 

「承りました。こいつらを連れていけ!」


 騎士団長の合図で、信者たちが連行しようとする。


 ヘンだな、こんなの台本になかったよ?


「お待ちください、乙女様!」

「乙女様、なにとぞお力に、お力にならせてください!」


 一部の信者が強く反発している。

 それを見た国王様が言葉を続ける。


「あとこれは、独り言だがな。ある辺境の伯爵領で人手が不足しているらしいな」


 ……やっぱりね。

 王家に反逆まで考えてる人たちだし。

 そのまま国中に散らせるわけないはいかないよね。


「あの。私、星乙女ではないですけど。それでもよければ、ハルセルト領へおこしくださいませ」


 ここで怖がったらいけない。

 笑顔、笑顔だ。


「お仕事ならたくさんありますので」


 にこっと笑う。


 一瞬、静寂が訪れる。

 あれ?

 私間違ってないよね?


 国王様とお父様をみつめる。

 二人とも満足そうにうなずいていた。


「おおおおおお!」

「ぜひ! なんでもいたします!」

「竜姫様に永遠の忠誠を!」


 しばらくして。

 大歓声が謁見の間に響き渡った。


「ご主人様……やりすぎだよ……」



**********


「大変だったね、けがは大丈夫?」

「うん、私は割と平気。ヒールも沢山してもらったから」

「ボクも平気ー。ドラゴンだからあれくらい大丈夫!」


 ガトー王子が心配そうな表情で私たちの手を握る。

 なんて甘い笑顔で、自然に女の子の手をとるんだろう。

 やっぱり、ガトーくんはタラシだわ。


「こんな展開、ゲームにはなかったわね。まさかアンタが星乙女だったなんて」

「だから、私は違うってば!」


 ジェラちゃん、話しながら笑っているんですけど。

 冗談でも困るんですけど。



 ここは、ジェラちゃんの部屋。

 謁見の間での話が終わった後、家に帰る前に立ち寄らせてもらった。

 話したいことも沢山あったから。


「まぁ、僕はクレナが星乙女でもいいんだけどね。一緒に愛を誓いながらラスボスを倒せばいいわけだし」

「それは是非、本物と頑張ってね!」


 髪をかき上げて、またまた甘い顔を向けてくる。

 まるで、乙女ゲームの「スチル」みたいなシーンだよ。

 この人、自分がどんな表情で女性に話してるか、鏡を見た方がいいと思う。


「ハイハイ! そこイチャつかない!」


 ジェラちゃんが、私とガトーくんの間に入る。

 イ、イチャついてなんてないからね!


「まぁ、アンタも転生者だし。ゲームの知識で考えるなら違うでしょ」

「でしょ! あのゲームの主人公って召喚されてたよね?」

「色々似てる気もするけど。……アンタ転生特典もらいすぎよ」

「そうかなぁ。そんなこと言ったら、ジェラちゃんなんて本物のお姫さまだからね!」

「ふふん、そこだけは良かったわ」


 ジェラちゃんが私とキナコをじっと見る。


「あれよ、あの変な信者たちを暴走させるくらいなら、本物が来るまでアンタらが神様になっとけばいいでしょ」   

「もう、他人事だと思って!」 

「ご主人様って、星乙女なの?」

「ちがうから!」


 転生者は、異世界に生まれ変わった人。

 私や、ジェラちゃん、ガトーくんがこれで。

 転移者は、前の世界の姿や知識のまま、召喚されたりして異世界に来る人。


 星乙女は……転移者だ。


 ゲーム主人公の乙女ちゃんも、伝説の初代乙女も、どちらも転移者。


 だから。

 予言通りなら。

 ちゃんと『星乙女』が来ますから!


 50%の予言、こっちはちゃんと当たってくださいね!

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