第29話 お嬢様と暗闇の中
ファルシア王国の王都ファラン。
にぎやかな声とあたたかな魔法の光があふれている、素敵な街。
その大通りの、しかもお城の目の前で誘拐!?
衛兵だっていたし、あんなに目立つところで誘拐なんて。
すぐつかまりそうな気もするんだけど。
ううん、でも。
……リスクを承知でやったんだったら、逆に用意周到なのかもしれない。
目的は身代金とか?
考えてみたら、ウチ貴族だし。
でも、それだけならリスクが高すぎるよね。
ゲームの中の「クーデター的」なモノとか?
私、仮でも王子の婚約者だし、その線もあるよね。
かみたちゃんも、気を付けてって言ってたし!
うーん。
なんだか頭がぐるぐるしてきた。
どれくらい時間がたったのだろう。
馬車が止まった音がした。
「出てください」
目隠しが外されて、馬車の外に出される。
そこは、見たことのない洞窟の入り口だった。
左右には、人工的に作られた竜の柱がたっている。
なにかを祭ってあるみたい。
「先に進みますよ」
「むぅうむぅ」
口をふさいでいる布ははずしてくれないので、声を出すことが出来ない。
最初からこの洞窟の前で待機していた人もいるみたいで。
体の大きい鎧を着た男の人が十人くらい。
教会の司祭みたいな恰好をした若い男の人が一人。
全員、首に不思議な形をしたネックレスを下げている
これ、見覚えがある。
ジェラちゃんたちが言ってた新しい宗教だ。
……たしか、初代の星乙女と竜王を信仰してたはず。
司祭みたいな人がリーダーのようで、彼の指示で暗い洞窟を進んでいく。
私とキナコはロープでつながれた状態でついていった。
しばらく洞窟をすすむと、すごく広い空間にでた。
壁に魔法石が埋め込まれているみたいで、明るく光っている。
王宮の謁見の間よりずっと広くて天井も高い感じがする。
中央には大きなドラゴンの石像があって、その前には祭壇のようなものと大きなイス。
大きな柱が何本も見える。
……神殿。
うん。これ、大きな神殿みたいだ。
広場には、さらに沢山の人達の姿があった。
ドレスを着た貴族や、魔星鎧を着こんでいる兵士みたいな人もいる。
きっとみんな、この宗教の信者なんだろうな。
天井を見上げると。
なんだろう、あれ。大きなドラゴンと女の子の壁画?
女の子はショートボブで大きな瞳で描かれている。誰かに似ている気がするんだけど……。
「ようこそ! 竜使いの妖精姫」
司祭みたいな人が私たちの前に立って、大げさに両手をひろげた。
「キミは、大きなドラゴンを意のままに操ったそうだね」
キナコに使った魔法のことだ。
操ったというか、キナコが大きくなって暴れただけだと思うけど。
「そんな子供の魂なら、竜王様も星乙女様もよろこんで我々に力をかしてくれるだろう」
「おお!」
「今こそ、竜王様復活の時!」
「おおおおおおおおおお!!」
周りから大きな歓声が上がる。
魂って?
私いけにえに捧げられるの?!
「んんんんっ」
必死に訴えるけど。声が出せない。
鎧を着た大男達が私を抱きかかえ、ドラゴン像の前にあった祭壇の大きなイスに座らせる。
「あまり乱暴にしてはダメですよ」
隣をみると、キナコも同じように座らされている。
たぶん、どちらが私か確認できないんだ。
「乱暴な信者たちで申し訳ありません。さて、なにか言いたいことはありますか?」
司祭が私たちの口にあった布を外す。
「私がその竜使いだから! 隣にいる子は無関係なの。逃がしてあげて!」
「ご主人様、ダメ!」
「ふむ」
司祭は、考え込むようなしぐさをして私とキナコを見つめる。
「それでは、あなたが竜使いだと証明することはできますか?」
「……証明?」
「ダメだよ! この人たち影に取り込まれてる!」
せめて、キナコだけでも逃がさないと。
……でも、どうすれば証明なんてできるんだろう。
誰かお願い! 助けて!
『ドクン』
突然。
広間に大きな心臓の音が響き渡った。
「え?」
「なんですか? これは」
「ご主人様、それはダメ! 呼びかけないで! 影には近づいたらダメなんだよ!」
『ドクン ドクン ドクン』
音はどんどん大きくなっていく。
「一体なにをしたんです!」
音は……。
ドラゴンの石像から聞こえてる?
次の瞬間。
石像が漆黒に変化し……動き出した。
「なんだ、これは?」
「竜王様が……復活なされたのか?」
みんな動揺している。
何が起きたのかよくわからないけど、今がチャンスだよね。
「キナコ逃げて!」
目の前にいた司祭に体当たりする。
「い、いけません! みなさん捕まえてください」
突然。
石像だったドラゴンの黒い手が伸びてきて、私を捕まえた。
目の前にドラゴンの大きな顔が見える。
え?
なにこれ?
私これで終わり?
食べられちゃうの?
パニックを起こしていると。
黒いドラゴンは、私を抱えたまま雄たけびを上げると、鎧の大男たちに襲い掛かった。
……。
……あれ?
……守ってくれてる……の?
ふとみると、司祭が驚愕の表情を浮かべている。
「ま、まさか、貴方様は……」
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