第28話 お嬢様と事件のはじまり
ファルシア王国の王都ファラン。
魔法石を使った道具『魔道具』がもっとも発達してるこの国では、たくさんの工房がある。
私たちは、その中のひとつ「クリール工房」にきていた。
今、工房の中にいるのは、私とキナコ。それと国王のクリール様。
「やぁ、僕の工房へようこそ!」
両手を広げて、満面の笑みで私達に挨拶をする国王様。
「国王様って、こんなに魔道具を作られるんですね」
「ああ、僕の趣味のひとつだからね。ああ、いろいろ散らかってるから、足元は気をつけて」
「なんかすごいねー。ここ」
周囲を見渡すと、不思議な形をした魔道具がたくさんあった。
荷車の端にクワを何本も並べたような乗り物や、羽根のついたローブ、よくわからない形のブーツとか。
どう使うんだろう、あのアイテムたち。
で。私たちが、なぜ呼ばれたかというと。
普段、ジェラちゃん、ガトーくんと行っている『転生者で世界を救おう会議』。
そこで使っている映像クリスタルを改良した通信魔法が、国王様にバレたんだって。
あれは魔法なので、簡単に他の人が真似とかは出来ないんだけど。
世界を変えるくらいスゴイ発明だって、国王様が大喜び。
まぁ、みんな手紙を使ってるのに、リアルタイム会話だもんね。
それはわかるんだけど。
「あのすごいクリスタルを考えたなら、何か魔道具作成のヒントも得られそう」
って国王様が思ったみたいで
……あのクリスタル、偶然できただけなのに!
ジェラちゃんからも「転生チート能力」っていわれるしさぁ。
「僕はね、この魔法王国をもっと豊かにしたいんだよ」
キラキラした瞳で夢を語る国王様。
やっぱり、子供みたいな人だなぁ。
「そして! 今僕が作成中なのが、これさ!」
シートを引っ張ると、大きな馬車が現れた。
馬車の手前には、普通の馬の三倍はありそうな大きさの馬の人形が取り付けられている。
バランスが取れていない、不思議なシルエットだ。
「これはね、自分で走る馬車なんだよ」
スイッチを押すと、人形の馬の足が上がり、ことこと音をたてて進みはじめた。
なにこれ、遊園地にあったら絶対人気でそう。スゴイ。
「問題はさ、大きさなんだよね。あと魔法石も大きなの使ってるから、ひとつ作るだけでスゴク高いんだ」
巨大な馬の人形を眺めながら、ため息をつく。
「おまけにすごく遅い。これで最高速度だから」
トコトコゆっくり進む大きな馬の人形を見上げる。首も動くんだ、大きいけど……すごくカワイイ!
「僕ら王族や貴族は飛空船をつかうけど、一般の人の移動は徒歩か馬車なんだよ。魔法石で馬車が動いたら便利だと思わないかい」
確かに便利だよね。
それに、こんな馬たちが国中を走ったら、きっと可愛くてたのしそう。
だけど。
「車が走るだけなら、馬いらなくないですか?」
思わず、ボソッとしゃべってしまった。
「あはは、面白いことを言うね。馬がいなかったらどうやって動くんだい?」
「あの、車自体が動けば良いと思うんです」
「車が? どうやって?」
「しゃ、車輪を魔法石の力で動くとか!」
「なるほど、車輪を直接動かすのか……」
私の話を聞いて、難しそうな図面をひきはじめる。
あれ? えーと、確か。
車ってエンジンとかあったよね。
あれってどうなってるんだろう……。
「車輪すべてに魔法石を付けるのかい?」
「えーと。そ、そうですね。そのほうが速く走れそうですし」
「なるほどなるほど。確かにそのほうが小さな魔法石を使えそうだな」
どんどん図面をひいていく。
どうしよう。話がおかしな方向に進んでるよね。
だんだん、私の知っている車から離れてく気がするんですけど。
前世の車って、どうやって動いてたの!?
「ただ、これだと。同じ大きさの魔法石をそろえないとバランスが悪そうだよね」
「えーとえーと。そうしたら、もう一つ魔法石をつかって全体のバランスをとるとか」
「なるほど、確かにそれは面白そうだ」
ダメだ。
話を修正できない。
もう完全に車とは違うなにかだよ、これ。
「なんて、今のなしで。えーと。忘れてください」
「……そうか、これなら出来そうだ」
……え? ウソ?
今ので出来そうなの?
国王様は図面をみて、何度も頷いていた。
『雲って魔法のシロップかけたら食べれそうだよね』
くらい、魔法まかせの空想な話だったのに?
「キミはホントにすごいな。さすが未来の王妃だ!」
「……仮、ですよね?」
「ああ、そうだったよね。うん、今は仮でも平気さ」
あの。
瞳を輝かせてる国王様を見てると、申しわけなくて泣きそうになるんですけど!
期待されるようなことなんて、なにもしてませんから!
本当に動くのかなぁ。動くといいなぁ。
「ねぇ、ごしゅ……クレナちゃん。これって世界が大きく変わると思うよ」
ちょっと困った顔のキナコ。
私のほうがこまってるからね!
**********
「もう、途中で止めてくれればよかったのに!」
「だって、ご主人様、すごく楽しそうだったから!」
「あ、あれは、国王様のペースに乗せられたていうか……」
工房から城に戻る帰り道。
子供の足でもすぐの距離だから、二人でお散歩しながら歩く。
「……ねぇ、ホントにあれで世界が変わるの?」
「うん、変わるよ。ゲームの中に車って出てこなかったでしょー?」
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』を思い出してみる。
えーと、車は……。
「……出てこないかな?」
「ね?」
「でもそれって。さっきのが失敗して動かなくても出てこないよね?」
「ふふん、あれ動くと思うよ。ご主人様がそう願うならね」
「なにそれ」
なぜか得意げなキナコに、詳しく話を聞こうとした瞬間。
ヒヒーーーーーーーーーーーン!
目の前で大きな馬車が急接近してきた。
「え?」
お城からのお迎えかな?
こんなに近いのに。
「ご主人様逃げて! これ違う!」
キナコが手を広げて私の前に立った。
「なんだ、二人いるぞ?」
「かまいません。二人ともさらってください」
「やめて!」
「むぐぅ」
馬車から大きな男が何人も降りてきて、キナコも私も馬車に押し込められた。
「だせ!」
大きな声とともに、馬車が動き出す。
私たちは声を出せないように口をふさがれ、目隠しされた。
「さて、お嬢様方。しばらくお付き合いくださいね」
「んんんんーっ」
なにこれ。
誘拐? 誘拐だよね?
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