第27話 お嬢様と黒い影

 煌びやかな世界。

 子供向けのお誕生日会と違って、晩餐会はすごく豪華だった。

 

 王国の音楽隊が、雰囲気のいいメロディーを奏でている。

 各テーブルには豪華な食事。

 会場の中央では、大人達がダンスを踊っている。

  

「なんだか、すごいねー……」

「今日は、王家じゃなくて王国が主催だから。とても豪華なんだ」

「んー、どう違うの?」

「オレの誕生日会や、ガトーやジェラの帰国式典は王家の主催。叙勲は国の行事だから王国主催だな」


 私とシュトレ王子は、先程から挨拶回りを行っている。

 今回の主役は私なのと、仮でもシュトレ王子の婚約者だから、ペアで挨拶ってことになったんだって。


「王子様、踊ってくださいませんか」

「クレナ様、よろしければお相手できませんか」


 途中、ダンスに誘われることが何回もあったんだけど。

 まだご挨拶したいところがあるからって、丁重にお断りした。

 

 一通り挨拶が終わったので、さぁ食事でも食べようかなと思っていると。

 突然、王子が私の手を握った。


「なぁ。ク、クレナさえよければ、少し踊ってみないか?」 

「え?」

 

 真っ赤な顔のシュトレ王子。

 そうか、王子様だもんね。

 このまま誰ともダンスしないと、国王様からなにか言われるのかも。

 

「ええ、王子。私でよかったら」 

「ホントに! ありがとう」


 シュトレ王子にリードされて、会場の中央に進む。

 こんなに喜ぶなんて、王子様をやるのも大変だよね。


 会場には楽団の奏でる音楽が流れている。 

 ダンスの先生との練習を思い出して。背筋をのばして、ステップ踏み、くるくると回る。  

 

「クレナ、ダンス上手なんだね」

 

 ニッコリと微笑む王子様。

 ごめん、今の私、そんな余裕ありませんから。

 くるくる回るたびに、ドレスの裾が広がる。そのたびに、リズムを外しそうになる。

 ステップ踏み間違えませんように!

 

 

 曲が終わったので、お辞儀をして。ダンス終了。

 ……間違えなかったよね。


 ふと、周りとみると。二人の周りが不自然に空いてる。

 え? もしかしてくるくる回転してるのが危なかったのかな?


 次の瞬間。わーっと拍手が起きる。

 たくさんの人に見られてた? 恥ずかしいんですけど! そっか、王子様だもんね。

 見渡すと、映像クリスタルを持ったお父様もいた。帰ったら消そう、うん。


 

 ダンスが終わった後。私たちはバルコニーに来ていた。

 会場の熱気がすごかったから、夜風が適度に涼しくて気持ちいい。 


「大丈夫、疲れたか?」

「ううん、平気ですよ」

「む、無理してるなら、ちゃんと言ってくれよ」

「うん、ありがとう」

「ダ、ダンス、すごく楽しかったよ」


 王子は青い優し気な瞳で私をみている。

 最初の印象が強いから、少し嫌ってた気もするんだけど。

 その後はずっと雰囲気が違って……戸惑うよ。

 ゲームの中のオレ様キャラとも全然違って。……王子は良い人だ。

 そのステキな笑顔が、いつか星乙女に向かうといいな。なんて。


 ……あれ?なんだろう。

 すこしだけ心が痛かった。 


「クレナちゃんー」

「お兄様ー」

「やぁ、偶然だねー」

 

 振り向くと、リリーちゃん、キナコとジェラちゃん、ガトーくんがいた。

 

 なんだか、すごいタイミングなんだけど。

 偶然……だよね?


「お兄様、会場にもどりましょう。美味しいお菓子をみつけたのよ!」

「こら、ジェラ離せ。クレナ、また後で話そう!」


 ジェラちゃんが、シュトレ王子の手を引いて会場に戻っていく。


「美味しい食べ物、たくさんあったよー!」

「僕たちも戻ろうか」


 ガトーくんが手をさしだしてくる。

 まるで乙女ゲームの「スチル」を見てるみたい。


「ガトー様、何してるんですか。クレナちゃん、わたくしと戻りましょう」

「今日のクレナちゃんには、エスコートが必要だろう?」

「わたくしがいるから平気ですわ」


 えーと?

 会場に戻るだけだよね?

 私は、二人の手を取ると、会場に戻ることにした。


「キナコも、一緒に戻るでしょう?」

「はぁ、さすがごしゅ……クレナちゃん」

   


***********



 叙勲式から数日後。


 私は自分の部屋で、ジェラちゃん、ガトー君とお話していた。

 『転生者で世界を救おう会議 (もう回数わかんない)』だ。

  

「あのあとね、シュトレ王子と夜の庭園に二人きりでいってね……きゃー」

「違うよ。あれは親父達に呼び出されたんだ。ちゃんと僕もいたからね」

「もう、何で言っちゃうのよ~!」

「まぁ、ジェラの事はほっておいて。あの晩餐会でなにか気づいたことはなかった?」

 

 部屋の中では、クリスタルがキラキラ輝いて浮かんでいる。

 私たち三人は、会議の為に、新しい魔法を使っている。

 以前の小鳥メッセージ魔法は、一瞬で届くので会話できたんだけど。

 会話形式で話していると、鳥の飛び交う数が多くて、すごくまぶしい。

 それなら、映像クリスタルに魔力を流したら、リアルタイムで話せないかなって。

 

 クリスタルをなんか色々試してみたら、偶然出来てしまった。

 流せるのは音声だけで、画像はまだ流せないんだけど。会話がすごく便利になった。


「気づいたこと? うーん?」

 

 なんだろう?

 豪華な晩餐会に、圧倒されてた感じだったんだけど。


 えーと。


 そうだ! 首に不思議な形をしたネックレスを下げている人が多かった気がする。

 女性だけじゃなくて、男性も付けてたから、王都で流行ってるのかなって思ってんだけど。

 なんだろうあれ? 魔法石?


「不思議なネックレスを付けてる人が多かったかなぁ」

「そうなんだ。あれね、最近、王都で流行ってる宗教の信者がつけてるんだけど」


 そうなんだ。貴族の人達にあんなに流行ってる宗教ってすごいな。  


「比較的新しい宗教なんだけどね。初代星乙女と、お供だったドラゴンを崇拝してるんだ」


 ずっと昔、世界がまだ作られたばかりの頃。

 初代星乙女が、魔物から世界を救った。

 そのとき乙女と一緒に世界を救ったのが、竜王とよばれた大きなドラゴン。


 竜王はまだ生きていて、姿を隠して世界を見守っていると言われれている。

 新しい宗教は、この二人を信仰していて。

 信じて祈っていると、ネックレスを通してさまざまな奇跡をくれるらしい。


「ふーん、でも奇跡をくれるなら、信者になるのもうなずけるよね」


 魔法がある世界だし。祈ったら奇跡が起こる、とかもありそうな気がする。


「まぁ、そうなんだけどね。少し怪しいんだよ。教えに疑問を投げかけた人が行方不明になったとか、魔物と一緒にいたとかね」

「それって、普通に危険じゃん!」

「まぁ、あくまで噂だからね、噂じゃ国も動けないんだよ」

「町で見かける信者はね、真っ黒なローブを着てるの。凄く怪しいのよ!」 

「まぁ、恰好は別にいいんだけどね。奇跡っていうのもなんだか怪しくて。人が生き返ったとか言われてるんだけど、信者以外誰も会ったことはないんだ」

「……ねぇ、ゲームの中で、こんな宗教の話なかったわよね?」

 

 私はベッドの裏から、『ファルシオンの乙女メモ』を取り出す。


「なかったと思うんだけどなぁ……」

「ねぇ、アンタが言ってた、かみたちゃんとやらに聞けないの?」

「僕も、かみたちゃんとやらに、この話を聞いてみたいな」


 この世界を元にゲームを作ったと言ってた、自称かみさまみたいなもの。愛称かみたちゃん。

 会ったのは二回だけで、最後は魔法の力を貰った時。


「私も会って色々聞きたいんだけど。こっちから会いに行けないし……」

「なによ、使えないわね。かみたちゃん」

「まぁまぁ、ジェラ落ち着いて。でも、僕たちはゲームと違うことに関しては、注意を払っておかないとね」

「ゲームの世界の出来事は予言だから、50%の確率だっていってたけど……」


 なんだろう、すごく嫌な予感がする。


「ねぇ、キナコ。何か知ってる?」


 ベッドの上で丸まって寝ているドラゴンに声をかける。

 しっぽをピーンと立てて伸びをすると、ぴょんと飛び降りてクリスタルに近づいてきた。


「知ってるよ」

「そっか、やっぱりキナコも知らない……」

「「「え?」」」


 ぽんと音がして。

 キナコが人の姿に変わった。

 慌てて、近くにあったフリルワンピを渡す。


「最初の大きなドラゴンは、黒い影に飲まれたの。だから近づいたらダメ」 

「黒い影?」

「とっても怖いものなの! 星も人も壊してしまうの!」


 キナコがふるえている。

 よくわからないけど。危険みたいだ。


「ねぇ、キナコちゃん。それって流れ星が減ることは関係あるかい?」


 ガトー王子が優しくたずねる、


「あるよ。すごく危険!」

「やっぱり……」


 しばらくの間があって。


「これは、ゲームの展開通りの話なんだけど」

「うん?」

「……流れ星の数が減ってきてる」

「え?」

「星降りの夜はさ、やっぱり流れ星の数は多いんだけど」

「普段の日の流れ星は、だんだん減ってきるんだってお父様が言ってたわ」


 すごく平和に見えるのに。

 ゲームの通りに進んでるんだ。


「ねぇ……その宗教って。ほっとくと危険……だよね?」

「ダメ! 近づいたら影にのまれちゃう!」


 キナコが後ろから抱きついてくる。


「とりあえずさ、今の話を父にしてみるよ。僕らだけじゃどうにもならないしさ」

「あれで国王してるし、頼りになるのよ!」

「二人とも、ありがとう」


 怯えるキナコの頭をなでる。


「せっかく生まれ変わったのに。こんなに素敵な世界が滅びちゃうのはイヤだな……」

 

 ぽつりととぶやく。

 すると、二人からも返事が返ってきた。

 

「まぁ、そうよね、私もこの世界わりと好きだし」

「僕も、そう思うよ」


 そうだよね。うん。

 みんなこの世界が大好きなんだ。


 50%の予言……外れればいいのに……。

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