第26話 お嬢様と勲章

 次の日。


「さぁ、王都へしゅっぱつしますぞ!」

 

 ベンじいの大きな声が飛行場に響きわたる。

 私たちは、貰ったばかりの白い飛空船で王都へ向かうことになった。

  

 船内の鏡の前でくるりと一回転。

 紫に白いふわふわのレースが付いたドレス姿。背中に大きなリボンが付いている。

 

「ねぇねぇ、ボク似合ってる?」


 同じようにドレス姿で一回転するキナコ。

 私とお揃いの赤い色違いドレス。

 うん、カワイイし似合ってるとおもうんだけど……。

 似た顔にお揃いドレスとか……絶対目立つやつじゃん、コレ!


「うふふ、違う色バージョンも作ってもらってたのよ。良かったわ~。二人ともすごく可愛いわ~!」


 お母様が、嬉しそうに私達二人を抱きしめる。


「みんな、そろそろ席につきなさい」

「「「ハーイ」」」


 優し気なお父様の声で、みんな席に着いた。


 今回王都に向かうのは、お父様とお母様、あと人化してるキナコ。

 お父様は、勲章をもらう私を、映像クリスタルで撮影するんだって。


 映像クリスタルっていうのは、この間王子様が送ってきたものと一緒で。

 大きさは、記録できる長さによって違うんだけど、大体、私の親ゆびと同じくらいの長さ。

 クリスタルを通して記録した映像を、好きな時に再生することができる。

 前世のスマホ動画保存みたいな感じ?


 私とキナコは、お父様、お母様と向かい合わせのソファーに座る。

 ふわっと船が浮いた感覚がした。

 

 しばらく、お父様お母様と、外の景色を見ながらお話していた。

 気になって叙勲式の話を聞くと、お母様は優しく微笑む。


「国王から勲章をうけっとたら、振り向いて可愛くお辞儀をすればいいだけよ」


 ゲームだと、勲章って国王様に話しかけてもらうだけなんだけどな。

 お手紙でもついでにみたいな書き方だったし、そんな感じなのかな。

 

 そうえば。

 気が付いたらキナコがいないんだけど、何処に行ったんだろう?

 気になって船内を探してみると、操縦室からベンじいとキナコの声が聞こえる。


「そうじゃない、もっと右じゃ」

「右? えーと。こ、こう?」

「ちがう、そのレバーをあげるんじゃ」


 え? キナコ!?

 あわてて操縦室に入ると、キナコが、ベンじいの指導で操縦している。

 大丈夫なの……これ?


「ベンじい! キナコに操縦させて大丈夫なの?」

「キナコお嬢様が、どうしてもといわれましてなぁ」

「キナコ! なにやってるのよ!」


 操縦席に座っているキナコは、目を輝かせて振り返る。


「だって、面白そうだったんだもん」

「わ。と、とりあえず前見て!」 

「ハーイ」


 前世なら間違いなく無免許運転なんですけど!

 あれ? 飛空船って免許とかあるの?


「まぁまぁ、ワシがついとりますから。いやぁ、リード様の子供の頃を思い出しますな~」

「お父様も、操縦できるの?」

「今のお嬢様方の歳くらいから操縦してましたな~」

「……そうなんだ」

「それに、キナコ様はなかなか筋がいいですぞ」

「ホント! わーい!」


 しばらくそのまま、見学してたんだけど。

 ……キナコもベンじいもすごく楽しそう。

 操縦している二人の横に、ぴたっとくっつく。


「どうしたの、ごしゅ……クレナちゃん?」

「お嬢様?」 

 

 前後左右を見渡す。

 うん、お父様もお母様もいない。


 思い切ってお願いしてみよう。


「私も操縦してみたい!」

「えー!」

「ははは、お嬢様もやってみますかな!?」


 冒険者になったら、自分たちの飛空船に乗って冒険に行く。

 その前に操縦覚えられるとか、考えてみたらすごいチャンスだよね!

 って……あれ?

 もう自分の船もってるよ、私。

 普通、冒険者の船ってもっと小型のみたいなんだけど。


 私の冒険者への道って……。

 なにげに順調なのかもしれない。

 これって、転生特典なのかなぁ。



**********


「まもなく王都ですじゃー」

 

 着陸は大変だからっていうことで、ベンじいが担当している。

 私達は、ソファーに座って外の景色を見ていた。


 王都上空は、たくさんの飛空船で埋め尽くされていた。


 あれ?

 なんでこんなに船が多いの?


「……ほかにも勲章を受けるひとがいるの?」

 

 目の前で微笑んでいるお母様に聞いてみる。


「うふふ、クレナちゃん人気者ねー」


 お母様?!



 誘導船の先導で、無事飛行場に着陸した。

 タラップを降りると、可愛らしい声が聞こえる。

  

「クレナちゃんー!」


 金髪に大きな赤いリボンを付けた可愛らしいドレス姿の女の子が、笑顔でこっちに走ってくる。

 公爵令嬢、リリアナ・セントワーグ。リリーちゃんだ。


 リリーちゃんは、私に近づくと、抱きついてきた。


「クレナちゃん、お久しぶりです!」

「リリーちゃん、久しぶり!」

「やりましたわ。王子より先回りできましたわ」

「先回り?」

「ううん、なんでもありませんわ。さっそく船を使っていただけたんですね。嬉しい」


 嬉しそうに頬を寄せてくる。カワイー。


「そちらの方は?」  


 となりにいたキナコに視線をむける。


「あー、リリーちゃんだー!」

「おバカ! その姿では初めましてでしょ!」

「あっ、そっか」

「この子ね、お母様の親戚の子? みたいな感じで。ほら、似てるでしょ?」


 キナコと手をつなぐと、顔を近づけてニコッと笑う。


「可愛らしい方ですけど、全然似てませんわ。雰囲気がちがいますもの」

「初めまして。ボク、キナコです。よろしくー!」

「お会いしたことありましたかしら。私は、セントワーグ公爵家のリリアナですわ」 


 リリーちゃんが、低い声でキナコに声をかける。

 いつもニコニコしてる印象なんだけど。どうしたんだろ。

 よく見ると、キナコのことを睨んでる。

 はっ、もしかして……人化してるのがバレたとか? 


「あのね、心配しなくても大丈夫なの」


 キナコがリリーちゃんに近づくと、耳元でゴニョゴニョとささやいた。

 途端に、リリーちゃんの顔が真っ赤になる。


「な、な。なんでご存じなんですか!?」

「だから、仲良くしよう?」

「し、し、しかたありませんわ。今の、他の人にはナイショですわよ!」

「えー? なんで?」

「なんででも! ですわ!」

「すぐにわかると思うのに……」

「いつかわたくしから言いますから! それまではナイショです!」


 リリーちゃん、真っ赤な顔で泣きそうなんだけど。

 

「キナコ! リリーちゃんになにしたの!」

「別になにもしてないよ?」

「そ、それより! クレナちゃん。叙勲式の会場はあちらみたいですわ。一緒にまいりましょう」

 

 リリーちゃんは、私の手をとると会場のほうにひっぱっていく。

 私は後ろを振り向き、こそっとキナコに問いかけた。

  

「ねぇ、なに話したのよ?」

「はぁ。ごしゅ……クレナちゃんって、ホントに気づいてないんだね」



**********


 叙勲式は、すごく豪華な式典だった。

 

 左右にはたくさんの貴族達がいて。通路には騎士団の人達がずらっと並んでいた。

 私は、赤い絨毯の上を一人で歩いていく。

 なにこれ。

 想像してたのと違うんですけど!

 今日勲章受け取るのって、本当に私しかいないの?



 お父様とお母様、あとキナコは招待席にいる。

 クリスタルを構えているお父様が目に入った。

 

 ダメ。足が止まりそう。次の足どっちだっけ。手と足は同時に動かしちゃだめで……。

 えーと……。あたまが真っ白でふわふわする。


 なんとかステージの上まで歩ききると、国王様と目があう。

 今日の国王様は、いつもの子供のような笑顔はなくて、別人みたいに威厳があった。


「ハルセルト伯爵家令嬢クレナ。この度のモンスター退治、誠に見事であった」


 横に控えていた執事が、豪華な箱に入った勲章を私の前に差し出そうとする。

 国王様は、彼の動きをとめると、自ら箱を手に取る。

 

「また、自らの命を顧みず、領民を守る姿勢。これこそ真の貴族なり! その武勇を称え勲章を授与するものである!」

 

 勲章を高く上に掲げると、私の首にかけた。


 えーと。この後は。

 私は、飛空船のなかでお母様から聞いていた話を思い出す。

 参列者の方にふり返ると、両手でスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げお辞儀して。そのあと頑張って笑顔。

 

 周囲から一斉に歓声が沸き上がる。


 ……すごい。


 なんだか、前世の映画のワンシーンみたいで、現実感がない。

 ……王様からの手紙だと、もっと簡単なお祭りみたいなイメージだったのに!


「さすが、竜使いの妖精姫だな……」

「あれが例の妖精姫か」

 

 歓声に交じって、声が聞こえてくる。 

 ……そういえば、そんな二つ名ありましたね。 (遠い目)

  


**********


「まぁ、実際すごいんだけどね。オーガなんてベテランの冒険者が数人がかりで倒すんだよ」

「そうねー。アンタ転生特典もらいすぎよ」


 式典が終わった後。


 次の晩餐会まで時間があった私は、ジェラちゃんの部屋に遊びに来ていた。

 部屋には、ガトーさんもいる。

 普段から魔法でお話している『転生者で世界を救おう』のメンバーだ。

 

「で、そのあんたにそっくりな子は誰よ?」

「そうそう、僕も気になっていたんだ。また転生した子なのかな?」


 私の横には、きょとんとした顔をしたキナコがいる。


「ジェラちゃん、ガトーくん久しぶりー!」

「キナコは、少し黙ってて!」


 まだなにか喋ろうとするキナコ口を押させる。


「むごむご」

「前にいた赤い小さなドラゴン覚えてる?」

「ああ、あの喋るドラゴンのことだよね」

「アンタの魔法で大きくなったドラゴンよね。忘れるわけないでしょ」


 そうだよね。

 ドラゴンのときから普通じゃなかったし。

 私はキナコの口から手を離すと、彼女を指さした。


「で。これがそのキナコなんだけど」

「はぁ?」

「アンタなにいってるのよ!」

 

 まぁ、信じるわけないよね。

 私も同じ立場ならそう思うもん。

 あんまりやりたくなかったんだけど、仕方ないよね。


「ねぇ、キナコ。ドラゴンに戻れる?」

「うん、いいよー」


 次の瞬間。

 キナコは小さな赤いドラゴンにもどって、ドレスや靴がカーペットに散らばった。


「ふふん! どう? すごい?」

「まあ、こんなわけで。この子、人化の魔法を覚えたのよ」

「「えーーーー!」」


 

「いっとくけど、人化するドラゴンなんて伝説レベルだからね!」

「でも、お母様は知ってるみたいだったんだけど」

「どうなってるのよ、アンタの母親!」


 ガトー王子には、一度退室してもらって。

 キナコにもう一度人化して、私とジェラちゃんの二人がかりでドレスを着せた。


 この子の人化って、髪型だけは元のままなんだよね。今回もキレイにセットされたまま。

 やっぱり魔法って不思議。


「なんだか……初代星乙女の話みたいよね」


 ジェラちゃんが考え込むようなしぐさを見せる。


 はるか昔。


 初代星乙女と竜王と呼ばれた大きなドラゴンが世界を救った。

 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』でもでてくるし、この世界でも伝説として語られている。


「考えすぎだよ。だってそれだと、この子が伝説の竜王ってことになるじゃん」

「そうね。それにアンタが星乙女ってことになるしね」

「竜王ってなに? 美味しいもの?」

「……ね? ありえないでしょ?」


 再び考え込むジェラちゃん。

 すると、扉をノックする音が聞こえる。

 

「もう入っても平気かな?」


 ジェラちゃんと二人で顔を見合わせる。

 ガトーくんのこと、忘れてた!

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