第25話 お嬢様と嬉しいこと

「ご主人様ー! もう朝だよ! おきてよー!」


 耳元で大きな声が聞こえる。

 うーん、まだ眠いし……。

 よし! 寝よう。

  

「いいから、おきてっ!」

 

 ベッドの布団が剥がされた。

 ……すごく寒いんですけど!

 毛布をもって仁王立ちをしているツインテールの少女が見える。キナコだ。 


「もー。何で今日はそんなに早起きなのよ?」

「今日はボクも一緒に朝食なんだよ! はやく食堂に行こうよ!」


 キナコは、早く起きたみたいで。もうバッチリかわいいワンピ姿だ。


「ねぇねぇ、ご主人様。すごくいい匂いがするの。今日の朝食なにかな~」

「はいはい、なんでしょうねぇ。じゃあおやすみなさい……」

「ご主人様!」

「……わかったわよ」 



 食堂は、美味しそうな匂いがしていて、ダイニングチェアーにはお父様とお母様が座っていた。


「おはようございます、お父様、お母様」

「おはようございまーす!」

「おはよう、クレナ、キナコちゃん」

「うふふ、おはよう、クレナちゃん、キナコちゃん」


 今日の朝食は、白いパンと、マッシュルーム、焼きトマト。それとベーコンエッグ!

 美味しい匂いは、このベーコンエッグだったんだね。

 もぐもぐ、美味しい!


「そういえば、ドラゴンのキナコはどうしたんだい?」


 お父様が不思議そうな顔で、問いかけてきた。

 三人でびくっとする。


「ま、まだ眠いからって、お部屋でまるまって寝てるよ」

「あ、あらあら。それじゃあ、あとでご飯をもっていこうかしら」

「やったー!」


 このおバカ!

 じーっとキナコをにらむ。

 きょとんとしたあと、にやーっと幸せそうにわらった。

 あー、わかりやすいわ、この子。あとで部屋でも食べられるとおもってる顔だ。

 このくいしんぼうドラゴンめ!

 代わりに今日のデザート、絶対抜きなんだから!


  

 朝食が食べ終わったタイミングで、お父様が胸の前に手を組みながら、話しかけてきた。


「クレナ、嬉しいニュースがふたつあるんだ」

「ふたつも?」

 

 お母様に目線をむけると、すごくニコニコしている。

 なんだろう?


「ひとつ目は、これだ」


 執事さんが、お父様に手紙を渡す。お父様はそれを、私に渡した。

 なんだろう。

 見覚えのあるマーク。王家の紋章だよね?


「見ていいの?」

「ああ、クレナ宛だからな」

 

 王家からの手紙。 

 前よりは文字が読めるようになったし、うん、読めるはず。



*********


クレナ・ハルセルト 様


 やあ、クレナちゃん。


 ケガは大丈夫?

 たいへんだったね。


 ところで。

 このあいだクレナちゃんがたおしたモンスターなんだけど。

 あれはとてもつよいやつなんだ。

  

 それでね。

 おしろのみんなでそうだんして、くんしょうをあげることしたよ。

 男の子をまもって、えらかったしね。


 まぁ、それはオマケでいいからさ、おしろにあそびにおいでよ。

 おいしいもの、たくさんよういしておくからさ。 


 ――きみの国王 クリール・グランドールより



**********


 確かに、私宛の手紙だった。

 えーと。開催日を確認する。

 ……これ、明日なんですけど!


「お父様、お母様! 私、お城に呼ばれてます! しかも明日です!」

「ああ。最近、魔物の出現が多くなっているみたいで、郵便がよく遅れるらしいな」

 

 慌ててお父様に手紙を手渡すと、冷静にお母様に手紙を渡す。


「勲章の話は、以前から聞いていたんだよ。準備はしてあるから大丈夫」

「うふふ。クレナちゃんの体調が治ってからって、クリール…こほん、国王様がいってたのよ」


 そういえば、ゲームの中でも、ステージボスをたおすと国王から勲章をもらえた。

 勲章をたくさんあつめると、強力な武器や便利アイテムに交換できたはず。


「お父様、勲章って、いただいた後、どうすればいいの?」

「式典やパーティーなんかに付けていくことになるよ。クレナがすごいっていう目印になるんだよ」  

 

 そっか。

 アイテムには交換できないのかー。残念。


「ごしゅ……クレナちゃん、パーティーにいくの? ボクもいきたい!」

「キナコ、遊びに行くんじゃないんだよ?」

「でも、パーティーなら美味しい食べ物たくさんでるよね?」

「うふふ、大丈夫よ。キナコちゃんも参加したらいいわ。私からお城に言っておきますから」

「お母様?!」

「ホント! やったー!」


 キナコ、その姿で行く気らしい。

 私と同じ姿でパーティーとか、いろいろやりそうなんで怖いんですけど。

 大丈夫じゃないとおもうんですけど!



「お、お父様、ふたつ目は?」


 お父様とお母様が目を合わせる。なんだろう?

 

「ああ、それはね。ついておいで」

「クレナちゃん、絶対喜ぶわよ!」


 二人についていった先は、飛行場の格納庫だった。


 あれ? いつもの大きな飛空船の奥に、もう一隻分の影があるような。


 飛空船をまわりこむと、そこには、別の飛空船があった。

 ウチの船の半分くらいの大きさの、真っ白な中型飛空船。

 

 この船どこかで見たことあるような……。


「シュトレ王子から、伝言をあずかっているわ」

 

 そうだ、そうだよ。

 お見舞いの時にシュトレ王子がよく乗ってきた船だ。   

 お母様が手に持っていたクリスタルを光らせると、空間に映像が現れた。


「や、やぁ、クレナ。最近会いに行けなくてゴメンな。元気にしているだろうか」


 映像に流れる、甘い顔の王子様。

 おもわずドキッとする。

 ……ホント、ゲームとは別人みたい。


「た、誕生日は、とても楽しかった。プレゼントあげられなくて、ゴメンな」


 十歳のお誕生日は、身内だけの小さなパーティーにしたんだけど。

 シュトレ王子や、リリーちゃん、ジェラちゃん、ガトーさんも来てくれて。

 王子は、なんだか王家の高そうな宝石をくれるっていったんだけど。

 そんなにすごいもの貰えないからって断ったんだった。


「それでな。少し遅くなったが。クレナにプレゼントを贈っておいた」


 え? プレゼントって……もしかして。


「本当は新品をおくりたかったんだけど、今のオレには力がなくて……大人になったらもっと大きなのをプレゼントするから!」


 映像に、王子と白い飛空船が映っている。


「オ、オレも手伝って、すごくキレイにしてある。……クレナが空の旅を楽しそうに話してたからな……受け取ってくれ!」


 映像はそこで消えた。

 

 あらためて、格納庫の飛空船に視線を移す。

 真っ白な船体は、キラキラ輝いていて、船体の横には小さな羽根とプロペラがついてる。

 上を見上げると、魔法の風を受けるための2本の大きなマストが見える。

     

 ……これがプレゼントなの?

 

「うふふ、そういうことなのよ。気に入ったかしら?」

 

 お母様は笑顔で見つめる。

 仮とはいえ婚約者にこんなに高そうなもの贈るなんて。

 ……こんな無駄遣いしてたら、王国滅びるよ、うん。


「こんなにすごいもの、貰えないよ!」

 

 動揺して、両親に訴えるけど。

 二人はニコニコと笑顔を崩さない。 

  

「まぁ、そういうと思ったよ。実はね、お誕生日会の後、王子に相談されたんだ」

「これは、王子さまだけじゃなくてね、みんなからのプレゼントなのよ」 


 ……みんな?


「みんなって?」

「王子様と、王様と、私たち。あと、セントワーグ公爵家と、アーカトルの町の人達よ」


 お母様は優しく微笑んだ。

   

「……みんなの気持ちなのよ。ありがたく受け取りなさい」


 二人は笑顔で私の手を握る。

 ……みんなの……気持ち。


「……ありがとう……ございます」


 温かい気持ちがこみあげてきて、涙が頬を伝っていた。

 こんなに素敵な……プレゼント……。

 お母様が、私の頭を優しく撫でる。


「領内なら、自由にお出かけしていいわよ。ただし私かお父様が一緒の時にね。あと、今度こそ絶対、ナイショで結界を出ないこと!」


 私は、涙を拭きながら、大きく頷いた。



「はぁ、こんなにすごいものを貢がせるなんて……さすがごしゅ……クレナちゃんね!」


 そこの、くいしんぼうドラゴンさん?

 ちゃんと今の感動的な話、聞いてました?

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