第24話 お嬢様と赤い竜

 一番南端の町、アーカトルから帰った私は。

 ベッドの上で静養していた。


 すごくひどいケガだったみたいで、身体は、回復魔法で傷も残らずに回復したんだけど。

 精神とか魔法力とか、内面はすぐには回復しないんだって。

 見た目はもう治ってるのに、体はあまり動かせない。

 

 前世とは違うんだなぁって、あらためて実感。



 リリーちゃんは、何度もお見舞いにきてくれた。

 最初に来た時には、目にいっぱい涙を浮かべて。

 私の顔を見ると抱きついてきて、ものすごく泣かれた。


「もう絶対に、絶対に! 無理なことしないでくださいね!」

「ごめんね、無理しようとしたわけじゃないんだけど」

「もう、絶対です! 絶対ダメですからね!」

 

 あんまり体はうごかなかったけど。

 リリーちゃんの話はいつもすごく優しくて楽しくて。


 ホントに大切な友達だよね。

 心配かけてごめんなさい。



 ジェラちゃんと、ガトーくんからは、魔法で連絡がきている。


「聞いたわよ、なにやってるのよ、……バカぁ!」

「大変だったね。僕がいれば守ってあげられたのに」


 まだ魔法が使えなくて、返事は手紙で返してる。

 リアルタイムじゃなくなったので、ちょっと不便。


「ねぇ、あのすごい竜の炎で倒せばよかったんじゃない? なんで使わなかったの?」

 

 ジェラちゃんから来たメッセージが、心に刺さる。

 ……あったよね、そんな魔法。


 ……忘れてました。


 でもほら。

 キナコの炎ブレスなんてつかったら、森も男の子も大変なことに!

 結果オーライだよ! うん。



 で。一番お見舞いにきてくれたのは、シュトレ王子。


 王家の飛空船じゃ目立つからって。

 白い帆船みたいな飛空船を使って、毎日お見舞いにきてくれた。

 王子様個人の飛空船なんだって。

 そんなのもってるなんて、王家やっぱりすごい。


「こ、婚約者だからな。心配するのは当然だろ!」

「ありがとうございます」 

「お前は何もしなくていいから、寝てろよな。……なにかしてほしい事あるか?」


 うーん、なんだかすごく優しい。

 こんなにきれいな顔立ちの男の子に、甘い顔でこんなこと言われたら、少しドキッとするよ。

 シュトレ王子って、ゲーム内のキャラと全然一致しないんだよね。

 オレ様キャラだったはずなのに。

 これなら、将来、星乙女ちゃんをお任せしても大丈夫な気がする。


「シュトレ王子には、いつか別の世界から運命の相手が現れるかも」


 って乙女ちゃんの話をしたら、変な顔をされた。

 

 ……これから徐々に、だよね。   



 あー、あと。


「まぁ、クレナちゃん、まだ寝てないとダメよ」

「そうだよ、ご主人様~。お見舞いのフルーツはボクにまかせて!」

「キナコは食べ過ぎだよ! 毎日王子が持ってくるからって!」

「おなかすいたの! ねぇ食べていいでしょ?」 

「うふふ、そうね。そろそろお茶にしましょう」


 キナコがしゃべれることは、お母様にばっちりバレた。

 まぁ、あれだよね。

 迎えにいってもらったんだから、当たり前なんだけど。


 昔しゃべれるドラゴンにあったことあるから、そんなに驚かなかったって。

 ただ。


「まるで、初代の星乙女と竜王様みたいね」


 ずっと昔、世界がまだ作られたばかりの頃。

 初代の星乙女が、魔物から世界を救った。

 そのとき一緒に乙女と世界を救ったのが、竜王とよばれた大きなドラゴン。

 

 竜王は、小さな頃から会話が出来たって伝説が残ってるんだって。

 

 ……なんだか、やっぱり目立ちそう。

 キナコがしゃべれることは、お母様と私たちだけの秘密にしてもらった。 



 そうそう。バスケットの男の子は無事だったよ。

 彼は、病気のお母さんの為に、どうしても薬草が欲しかったんだって。


 彼が集めた草花の中には、モンスターを引き寄せる効果のあるものが混ざってたみたいで。

 それで襲われたんじゃないかってお母様は言っていた。


 男の子からは、町長さん経由でたくさんお手紙をもらった。

 お母さんもすっかりよくなったって。今度遊びに来てくださいって書かれていた。


 元気になったら、行ってみたいな。

 

 

**********


 季節が何回か変わって。

 私は、十歳になっていた。

 

 もうすっかり元気になっていた、ある日。

 自分の部屋の扉を開けると。


 ……見たことのない少女が立っていた。


 水色の澄んだ瞳、赤い髪を両端で結んでツインテールにしている。

 同じ年くらいの美人な女の子。

 なんとなくだけど、顔立ちが私に似てる気がする。


「えーと、どなたですか?」

 

 女の子の横には、お母様がいた。

 え?

 まさか隠し子とか……じゃないよね。

 い、いとことかかな?


「うふふ、クレナちゃんわからないみたいね」 

「わからないみたいねー」


 二人が顔を合わせてイタズラな顔をしている。

 私の知ってる子ってこと?

 えーと……?

 

 女の子が満面の笑みで私に近づいてきた。


「ねぇねぇ、ご主人様。この髪型カワイイ?」

「うん、とてもカワイイ……って、ご主人様?!」


 部屋を見渡すと、いつものおしゃべりドラゴンがいない。

 それにこの声。

 まさか!


「クレナちゃん。ドラゴンって人化できる個体もいるのよ」

「いるのよー?」

「……キナコ?」

「うん、ご主人様ビックリした? 今日ねやっと人化できたのー!」

「ねーっ」

「ねーっ」


 ニコニコ顔の二人。


 そういえば。

 朝の訓練で、お母様となにかしてるなって思ってたけど。

 これだったんだ。


「みてみて。これカワイイ?」


 キナコが私の前でくるっと一回転する。

 フリルのバルーンワンピースがフワッとふくらんだ。

 なんか仕草が私に似てるんですけど。

 

「っていうか。キナコって女の子だったの?!」

「え? そうだよー?」

「だって、自分のことボクって……」

「え? ボクって変なの?」

「ヘンとかじゃないんだけど」


 まさかのボクっ子なんですけど。

 確かに、女の子みたいなカワイイ声だなっておもってたけど。

 子供だからかなって。


 お母様がキナコを抱きしめる。


「もう一人娘が出来たみたいで、嬉しいわ~!」

「ねぇ、やっぱり私に似てるよね?」

「ご主人様と似てる? 似てる?」


 なんでそんなに嬉しそうなのさ。


「うふふ、キナコちゃんのなりたい人の姿が、クレナちゃんだったのね」

「うん、ご主人様かわいくて大好き!」


 キラキラとした瞳で私をみてくる。

 髪とか瞳の色とか表情とか、秒妙なところは違ってるけど。

 でも、姉妹って言われたら納得しそうなくらい似てるんですけど。 


「竜王様もね、人化できたんですって。伝説にそっくりね~」


 初代星乙女と大きなドラゴンの話は、乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』でも登場する。

 主人公は、初代の再来みたいに言われるんだけど。


 そういえば。

 ゲームのアイコンが赤いドラゴンだった気がする。


 ……まさか、ねぇ。



**********


 人化が出来るようになったキナコは、かなり嬉しいみたいで。

 よく人化した姿で遊んでいる。


 お母様が「よく遊びに来る親戚の子」って説明したみたいで、お屋敷のみんなはすぐ納得していた。

 まぁ、私に似てるってことは、お母様に似てるってことだもんね。

 

「ご主人様~、はやくはやくー」

「しーっ! その姿でご主人様は禁止でしょ!」

「えーと、ご……クレナちゃん、はやくー!」


 今日はお母様に、お庭のお茶会兼ランチによばれている。

 キナコはデザートのフルーツが我慢できないみたい。


「キナコ、口よだれついてるよ」

「えー?」


 持っていたハンカチでキナコの口をふく。

 人化しても食いしん坊なのは変わらないらしい。

 

 まぁ。人でもドラゴンでも。

 キナコは、キナコだもんね。


「もう我慢できない! えい!」

「キナコまって! ダメ!」


 次の瞬間。

 キナコは小さな赤いドラゴンになって、二階の窓から外に飛び出した。


 廊下には、キナコの着ていた服や靴が散らばっている。


 もう!

 これ、どうするのさ!

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