第18話 お嬢様と不思議な魔法


 私と、ジェラ王女、ガトー王子の三人は、お城の外にある魔法の訓練場に来ている。


「ここなら結界があるから、おもいきり魔法を放っても大丈夫だよ」

「まぁ、あんた初心者だし心配する必要ないと思うんだけど、一応ね」


 訓練場は、すごく広い石畳の空間で、高い大きな壁に囲まれている。

 壁をよく見ると、円形の的が取り付けられている。

 上を見上げると、空に薄い光のようなものが見える。

 これが結界かな?


「壁にも上空にも結界がかかってて、魔力を吸収するからどんな魔法でも平気よ」


 ジェラ王女が、片手を前に付きだすと、手が光出す。


「アイスランス!」


 王女の手から氷の柱が飛び出し、的に向かって一直線に走る。

 パリンっ! 魔法は的にぶつかると氷の破片になって砕けた。


「どう! こんな感じ!」


 自慢げに胸を張る、ジェラ王女。

 カワイイ!


「次は僕の番だね。キミの前で素敵な魔法をみせるよ」


 ガトー王子は振り向くと、私にウィンクひとつ。

 わー、この人ちょっとすごいんですけど。

 ゲーム内の卑屈な王子様、どこいったんですかー。


 ジェラちゃんと同じように片手を前に付きだすと、上空に無数の光の剣があらわれた。


「行け!」


 光の剣は、的に向かって一斉に飛んでいく。

 大きな音がして、的が粉々に砕けた。


「まぁ、こんな感じだよ」

「……そうですか」


 なるほど、こんな感じね。

 そっかなるほど、なるほど。

 

 ……。

 

 ……なにがこんな感じなの!

 全然使える気がしないんですけど!


「今度は、魔法石持ってるから使えるかもしれないよ。石にお願いする感覚で使ってみなよ」

「まぁ、ちょびっとくらいは何かでるんじゃない?」

 

 よし。

 私も、ジェラ王女やガトー王子を真似て、片手を前に付きだす。今度こそ!!

 魔法石に願いする感じで。


「ファイヤーボール!」


 手から強い光が溢れて。

 的に……むかわないで、Uターン。

 なぜか肩にいたキナコに当たった。


「ご主人様ーまかせて!」

「え? ……キナコ?」

   

 キナコは魔法の力で輝いたまま、上空に飛び上がると、どんどん大きくなっていく。

 やがて、ゲームに出てくるような。

 成長したドラゴンのような容姿になった。

 ものすごく大きい、前世のビルで言うと、五~六階くらいの高さ。


 え、なにこれ?

 どうなったの?


 思わず後ろを振り向く。

 ガトー王子もとジェラ王女もおどろいてる。


 キナコは、こちらを振り向くと、にっと笑った気がした。

 一度大きな声で吠えると、大きな翼を羽ばたかせ上空に飛びあがる。

 魔法の結界を突き破ると、魔法の破片が飛び散るのが見えた。

 そのまま、壁の的に向かって巨大な炎のブレスを吹き付ける!


 ドカーンという大きな音ともに、的が砕け散った。

 ううん、的だけじゃなくて。

 ……城壁ごと……吹き飛ばしてしまった。


 キナコは、再び私にふり返ると、「どうや」って顔をして。

 いつもの子猫サイズになった。


「ご主人様の魔法すごいね。ビックリしちゃった」


 再び私の肩にとびのると、ゴロゴロ顔にすりすりしてきた。 

 

 ちょっとまって、キナコ。

 これ私の魔法のせいなの?


 私たち三人は、砕けた城壁の前で呆然としている。


「……すごいね、びっくりしたよ……」

「信じられない。なんなのよ、これ……」

「……なにっていわれても」


 そんなの、私が聞きたいんですけど!



**********


 

 い、いろいろあった二度目の王都だったけど。

 あの後、ガトー王子、ジェラ王女の帰国式典に参加して。

 私たちは、無事に我が家に帰ってきた。


 訓練場を壊したことは、何故か問題にならなかった。

 全額弁償みたいなことになるのかなって思ってたんだけど。

 むしろ王様からはすごく褒められた。

 強い魔法使いが王国に誕生したのは、良いことなんだって。

 

「ちょっと! この歳で借金背負うところだったんですけど!」

「えー。魔法をボクにかけたのは、ご主人様だよ?」

「……ねぇ、あれってホントに私の魔法なの?」

「もちろん! もっと上手になればボク以外にも使えると思うよ」

「キナコ以外も?」

「そう、例えば、あの鳥を大きくして騎乗するとか」


 キナコは、窓から見えた小鳥を指さした。


「そんなできるの?」

「もっと上手になればね」


 そうなんだ。

 ……なんかすごい。

 どんな動物でも味方にできるのかな?

 

 私が感動していると、今度は窓の外に魔法の小鳥が飛んできた。   

 あ。これ、例のメッセージの魔法だ。

 窓をすりぬけると、部屋の上をくるくるまわってメッセージを伝える。


「クレナさ~。お城で『竜使いの妖精姫』って呼ばれてるわよ。クスクス」


 ジェラ王女の笑い声が部屋に響く。

 あの時の魔法を受けたキナコ、すごい大きさだったし、一度上空に思いっきり飛んだから目撃者がすごく多かったんだって。


 でも、でもさぁ。 

 なにその呼ばれ方!?

 中二病っぽいし、かっこわるいんですけど!!


「この歳で二つ名持ちなんて、さすがご主人様~」

「……二つ名ってなに?」

「冒険者たちのカッコイイ異名みたいなものですよー」

「私、まだ冒険者じゃないし。……こんなのいらないよぉ」


 それに。

 どうせ呼ばれるなら『大賢者』とか『竜殺し』とか、カッコいいのが良かったんですけど!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る