第19話 お嬢様と秘密の倉庫

 あれから。

 メッセージの魔法を覚えた私は、ジェラ王女、ガトー王子とメッセージを飛ばしあっている。

 転生者同士、世界をモンスターから救おうっていうのが一応目的、かな。

 今ではすっかり仲良しになった。


 ほぼリアルタイムに会話ができるので、すごく楽しい。

 スマホで会話しているみたい。  


「あんたの両親、すごい冒険者だったらしいし。なりたいなら話聞いたらいいじゃん」 

「そうなんだけど、お父様は冒険の話をしてくれないし」


 普段優しいお父様は、冒険の時のお話をして欲しいとねだると、すごく困った顔をして別の話をしようとする。

 

 お母様は病弱で、療養で別宅にいて、ずっと会えていない。

 お手紙はずっと送り続けてるけど、返事がきたことはなくて。

 返事をする体力がないからって、お母様お付きのメイドさんには言われている。

 病気がうつるからって、お見舞いも禁止。

 会うこともできないのは、やっぱりすごく寂しい。


「とにかく! せっかく異世界に転生したんだし。絶対冒険者になりたい!」

「ふーん? せっかく貴族の令嬢に生まれたのに、なんでそんなものになりたいの?」

「だって、せっかくの異世界だよ? 冒険とかしたくない?」

「私はパス。自分ではやりたくないわ。まぁ、世界は滅んで欲しくないけどさ~」

 

 お父様が魔星鎧スターアーマーでワイバーンと戦ってた時のことを思い出す。

 うん、すごいカッコよかったな~。

 

 私も、あんなふうに戦って、剣と魔法の世界を満喫してみたい。


 あ、そういえば。


『ふたつ目、お屋敷の奥に隠してある鎧をさがしてくださいー』

 って、かみたちゃんから聞いてた気がする。


 鎧って、魔星鎧スターアーマーのことかな?



**********


 私は夜になって、家の倉庫に忍び込んだ。


 灯りは、メッセージ魔法の応用。

 手の平に光る小鳥をだして、私の目の前に飛ばす。

 魔法の小鳥は私の前をくるくる飛んで、灯になってくれる。


 カギは、あらかじめお父様の机から拝借している。

 あとでちゃんと返すから、ちょっとだけ貸してね、お父様。


 倉庫の中は、とても広くて静かだった。 


 鎧……鎧だよね……。


「ねぇ、ないしょで忍び込んでいいの? もぐもぐ」

「しーっ、しかたいないでしょ。お父様が許してくれないんだから」


 入口の近くに、お父様の鎧が保管されているのを見つけた。

 灯りを照らすと、透き通るような空色がキラキラ光る。

 

 やっぱりすごくキレイ。

 いつか私も。自分の鎧を手に入れたいなぁ。


 あれ? 

 でもかみたちゃん「奥に隠されている」って言ってたよね。

 この鎧じゃないの……かな? うーん。

 鎧の前で悩んでいると。


 カタン。

 突然、倉庫の奥から、物音がした気がした。


「え?」


 ネズミ? ううん、この世界でネズミなんて見たことないし。

 ひょっとして泥棒とか?


「……今のなに?」

「ご主人様以外の、生き物の気配がするよー。もぐもぐ」

「だ、大丈夫よ。い、いざとなったら、この間の魔法使うから……」

「もぐもぐ……そんなことしたら、倉庫壊れるよ?」


 キナコは、ずっと何か食べてるみたい。

 ……この食いしんぼうドラゴン。

 おなか壊してもしらないんだから!


 倉庫の奥は、物がたくさん保管されていて、先があまり見えないんだけど。

 よく見ると、なにかが光っている。

 (なんだろう? あれ)

 恐る恐る奥にむかっていくと。


 光の玉のようなものが空中に浮いていて。

 そのすぐ近くに、真っ赤な鎧と、その前に立っている女性を見つけた。


「……誰?」

 

 女性は私を見つけて、驚いた顔をしている。

 魔法の光だけで。周りが少し暗かったんだけど。

 薄桃色の長い髪、私にそっくりの顔立ち。

 たぶん……。

 だけど、間違いない……と思う。


「……お母様、ですか?」

「……え?」

「お母様ですよね? 私、クレナです」

「……クレナ? ……嘘」

 

 お母様は、大きく目を見開いて、私を見ている。

 私は、お母様に抱きついた。


「……クレナなのね。大きくなったわね」


 お母様が私を抱きしめる。

 私も、お母様に強くしがみつく。


「よかったね、ご主人様。もぐもぐ」


 二人の泣き声が、倉庫に響き渡った。

 

 ……しばらくして。


「お母様。病気は大丈夫ですか?」

「クレナ、病気は大丈夫なの?」


 少し落ち着いた私たちは、お互い同時に声をかけあった。


「え?」

「え?」 

 


**********  

  

 その後。

 こっそり別宅に行って、お母様のお庭でお茶を飲むのが私の日課になった。


「ねぇねぇ、ご主人様のお母さんって、ホントに病気だったの?」

「うん……ずっとそう聞いてたけど。元気そうだし、ちょっと安心」

「でもさ、ご主人様の病気ってなんだろう?」

「う~ん、それが謎なんだよね~」

「……クレナちゃん、どしたの?」

「なんでもありませんわ、お母様!」

 

 お母様が戻ってきたので、あわてて肩にのっていたキナコの口をふさぐ。

 

 お互い、あれから病気の話はしていない。

 話をすると、また別れ別れになりそうだったから。


 お母様は、お父様がお話してくれなかった、冒険の話をたくさんしてくれる。


 いろんな国を旅したり、街々で困っている人を助けたり、モンスターを倒したり。

 冒険の話の中には、お父様もでてきて。

 顔を赤くして興奮気味に話したかとおもうと、寂しそうな表情をする。

   

「そうえば。クレナは今九歳よね?」

「ハイ、九歳になりました」


「そうよね~。月日が経つのは早いわ~」


 お母様が紅茶を飲みながら、優しい瞳で私を見つめる。


「そうすると、来年にはお誕生日パーティーをしないといけないわね。まかせて!お母さんが可愛くコーデしてあげるから」

「お母様……?」

「どうしたの、クレナちゃん?」


「お誕生日パーティーでしたら、今年もうやりましたよ?」


 驚いた表情をしたお母様の顔色が、だんだん赤く変わっていくのがわかる。

 もっていたティーカップの持ち手にひびが入って、割れてしまった。

 コワイ……。


「ねぇ、クレナちゃん。ずっと聞こうと思ってたんだけど。最近、病気になったりした?」 

「いいえ、元気ですよ?」

「じゃあ、これまですごく大変な病気になったりは?」

「してないです」


 お母様は、どうしてこんなことを聞いてくるんだろう。

 病気なのは、お母様のほうなのに。


「私より……お母様のご病気は、大丈夫なのですか?」


 お母様は、少し考え込むしぐさをした。


「そういうことね……」


「……お母様?」

「あの人、さすがに許せないわ!」

 

 お母様は、私の両手を握る。


 

「クレナ、協力してくれる?」

 

 お母様の迫力に押された私は、こくりと頷いた。

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