第17話 お嬢様と魔法の力

 私と同じ転生者だった、ジェラ王女と、ガトー王子。

 同じ世界から来た人と会えたのは、やっぱり嬉しい。

 ジェラ様はまだ不満そうな顔をしてるけど、それもカワイイなぁなんて思ってしまう。


 

「それじゃあ、今度は僕たちの話をするよ」

「まぁ、そうね」

 

 二人は、これまでの話をしてくれた。 

 簡単にいうとこんな感じで。


 二人とも、共通していることがふたつ。

 ひとつめは、前世で若くして亡くなったこと。

 ふたつめは、前の世界ではゲームが大好きで、乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』もプレイしてたこと。

 ……やっぱり呪いのアイテムだよ、あの乙女ゲー。

 で。 

 こっちにきてから、お互いの会話の中で転生者同士であることに気づいて。

 それからは、ゲーム開始までにお互い世界を救う準備をしようとしていたんだって。


「でさ、今まではゲームとの違いは特になかったんだけどね」

「急に、お兄様が婚約者を変えたって聞いて。慌てて帰ってきたのよ」 

「そうそう。お互いに相談して、これは何かあったなと」

 

 そうだったんだ。

 あれ? でも。


「お二人って、別の国に留学してたって聞いてたんですけど。連絡って、そんなに簡単にとれるの?」


 二人が不思議そうな顔をした後、顔を見合わせる。

 なんだろう?

 

「これだよ」


 ガトー王子が、手を私の前に差し出すと、手の平がキラキラ光だす。

 それは一つに集まって、小鳥の形になった。


「……魔法?」

「そう、魔法。こいつにメッセージをのせて、相手に飛ばすんだ」

「すごい、スゴイスゴイ!」


 私は、興奮して、王子の手にちょこんと乗っている小鳥を見る。

 

「そうだなぁ、『キミ、妖精のように綺麗だね。僕と付き合わない?』」

 

 小鳥につぶやくと、手を光らせる。

 小鳥はぴーっと一声鳴くと、部屋の中を旋回した後、私の目の前にとまる。


『キミ、妖精のように綺麗だね。僕と付き合わない?』  


 さっき、王子の喋っていた声そのままで再生された。


「こんな感じでさ。どこにいても、ほぼリアルタイムで話せるのさ」

「……はぁ~」


 口を両手でおさえて、思わずため息をつく。

 魔法、魔法だよ!

 さすが異世界だよ!

 

「私も使ってみたい!」

「だれでも使えるわけじゃないけど、私もガトーも使えるんだから、転生者は使えるんじゃない?」

「え? 私、魔法使えないんですけど!」

「こら、ガトーお兄様だろ。まぁ、とりあえず。なんでもいいから、やってみて?」


 なんでもって。

 だから使えなかったんだってば!


 二人とも、まずはやってみての雰囲気。


 ……仕方ない。

 

 私は、手を伸ばして、空いている窓の方にむける。

 ゲ、ゲームと同じように。


「ファイヤーボール」


 ……。


 …………。


 ほらぁ、なんにもおこらないじゃん!


「ぷ」


 二人が笑いをこらえてるんですけど。

 恥ずかしい!


「へー。アンタ本当になにも知らないのね」

「ご主人様、顔真っ赤にしてカワイイ~」

「あはは、キミおもしろいね。お腹痛い!」


 こらえられなかったのか、ガトー王子が笑い出した。

 床では、キナコが笑い転げてる。

 おしゃべりドラゴンめ。ぜったいデザートあげないんだから!


 ジェラ王女がやっぱり笑いながら、説明してくれた。


「あのね。魔法は、魔法石を通して行うのよ」


 ジェラ王女が、胸元に光るアクセサリーを見せる。

 星の形をしたキレイな装飾のペンダント。中に水色の魔法石が光っている。


「魔法を使うにはね、まず自分で魔法石に力を集めて、自分用のアクセを作るの」

「まぁ、言うよりやった方が早いよな。じっとしてて」

 

 ガトー王子は、私の後ろに回ると、首にペンダントをかけてくれた。


「初心者用の練習用アクセ。まずこれで試してみなよ」


 金色のチェーンに、無色の小さな魔法石がついてる。


「ありがとうございます。……これ、どうすれば?」

「ん。そうだねぇ、魔法の力をイメージして、石にばばっと込める感じかなぁ」

「イメージ?」


 いきなりわからない。

 イメージして込める? えーと?


「アナタの説明じゃ、わからないわよ」

「アナタじゃなくて、お・に・い・さ・ま、だよ!」

 

 ジェラ王女は、王子様を無視して話しかけてくる。


「そうねぇ、じゃあ、まず目を閉じてみて」

「うん」


 言われた通り目を閉じる。


「次に、空間にただよっている魔法の力を感じるの」

「魔法の力?」

「ぼんやりとした『あかり』みたいな感じなんだけど、わかる?」


 空間に……意識してみる。

 ふわふわと浮かぶ光みたいなものを感じた。

 これのことかな。


「感じた魔法の力を、自分の前に集めるイメージをしてみて。上手く誘導出来れば、魔力が自分の前に集まるから」


 周囲に意識を集中する。すごくたくさん浮かんでるみたい。

 これを全部集めたらいいのかな。

 光を自分の前に操作する感じで、どんどん集めてみる。 

 

「目の前に集まった力を、今度は小さく集めていくようにイメージして、最後に石の中に誘導するの」

 

 最後に圧縮するのかな。

 なんだか集めすぎみたいで。ずいぶん大きいんだけど、圧縮できるのかなぁ。


「魔法の力を感じるのも、誘導するのも時間がかかるわ。まぁ、転生者ならそのうち出来るわよ」

「いきなり上手くはいかないからだろうから、じっくり試してみなよ。そのアクセは貸すからさ」

 

 圧縮。圧縮ね。

 大きすぎて、なかなか小さくならないけど、石に入る大きさにするんだよね。 


 真ん中に集まるように、強くイメージする。圧縮した光が、だんだん小さく赤くなっていく。

 

 ふぅ、これならなんとか石に入る気がする。

 後は、魔法石に入れるんだよね。


 光を魔法石に入れるイメージをした瞬間。

 胸のペンダントが急に熱くなった気がした。


「え? なにこの光」

「うわ! 大丈夫かな、これ?」

「ご主人様、集めすぎ!」


 二人(とおしゃべりドラゴン)の驚いた声で、目を開ける。

 眩しかった光が消えた感覚がした。


 自分の胸元を確認すると、王子から借りたペンダントの形状が大きく変わっている。


 ……なんの装飾も無い無色の小さな魔法石ペンダントだったのに。

 竜の形をした金色の綺麗な装飾、真ん中には大きな赤い魔法石がはまっている。

 魔法石は炎が宿っているように、赤く光っていた。

 

 すごい……これが、魔法なんだ。


「ねぇねぇ、これって、成功ってことかな?」


 笑顔で二人に尋ねてみる。


「成功……なのかな?」

「こんなの初めて見たわ」


 ガトー王子もジェラ王女も、驚いたような、微妙な顔をしている。

 なんでだろう?

 

「いや、普通は魔法石の色が変わるだけなんだ」

「アクセサリーの形が変わったり、魔法石が大きくなったりはしないわよ!」

「そうなの?」


「……なんなのよ、あんた」

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