第16話 お嬢様と転生者

「もしよろしければ、わたくしの部屋に参りませんか?」


 ちょっとバタバタした国王様との謁見が終わったあと。

 私はジェラ王女に誘われて、彼女の部屋に招かれていた。

 部屋にいるのは、私と、ジェラ王女様。それと何故かガトー王子。 

 (あとキナコ)


 

「で! あんた何者なのよ!」


 ジェラ王女は、腰に両手を当てて、私をにらんでいる。

 わー。言葉遣いと態度が謁見の間の時と、全然違うんですけど。


「ですから、ハルセルト伯爵リードの娘、クレナですけど」 

「違うわ! クレナっていったら、黒髪に紫の瞳。クールな男キャラなハズよ!」


 やっぱり。

 ジェラ王女様は、かみたちゃんが作った乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』を知っている。


「ねぇ、君。さっき、ファルシアの星乙女っていったよね」


 窓の隅に寄りかかっていたガトー王子が近づいてくる。

 もしかして王子様も?


「君さ、……転生者なの?」


 ここでごまかしても仕方ないし。

 私は、こくりと頷いた。


「なぁんだ、やっぱりそうなのか!」

「え……ガトー様も?」

「まぁね。気づいてるみたいだけど、ジェラもそうだよ。同じ転生者同士、仲良くしよう!」

 

 人懐っこい笑顔で私の両手を握って、上下にぶんぶん振ってくる。

 なんだか、国王様に似てるなぁ。この人。

 まぁ、親子なんで似てても当然なんだけど。

 でも、明るくて楽しそうな感じ、ゲームのガトー王子とは全然違う気がする。


 確かに転生者はランダムっていってたけど……。

 攻略対象が転生者ってこともあるんだ。


「で。なんで女の子なのよ、あなた」


 ジェラ王女は、すごく不機嫌そうに私を見ている。

 えーと。

 なぜって言われても。


「かみたちゃんが、転生者は性別も含めてランダムに生まれ変わるっていってましたよね?」

「……かみたちゃん?」

「あ、ゴメンなさい。金色で角と羽が生えてる女の子。神様みたいなものっていってたから、私は、かみたちゃんってあだ名で呼んでて……」

「……誰よ。それ」


 あれ?


「転生するときに……会ってません?」


 ジェラ様は、不審そうな顔をした後、ガトー王子を見る。


「ねぇ、ガトー。アナタ何か知ってる?」

「いや、僕も知らない」


 え? どういうこと。

 私は強制的に転生させられたけど。

 普段は、転生希望の人をこの世界に送りこんでるっていってたよね?


 私は、これまでのことや、自称神様みたいなもの「かみたちゃん」の話をした。


 真っ白な空間で、自称神様みたいな金色の少女に出会ったこと。

 この世界が、前世の乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』と同じであること。

 その乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』は、自称神様のような女の子、かみたちゃんが転生者の為に作ったこと。


 まずい。

 自分でも思うんだけど。怪しい話だよね、これ。


「ご主人様の言ってることは本当だよー」


 キナコが、私の肩からぴょんととびおりて、しっぽをぴんと立てる。


「え? こんなに小さなドラゴンがしゃべった!?」

「この子は、キナコっていって。かみたちゃんにもらったドラゴンの子供なの」

「ふふん! あ、そうだ。ご主人様、ボクしゃべって平気?」

「平気も何も……。もうしゃべってるじゃない」


 このおしゃべりドラゴンめ!

 まぁ、二人とも転生者だし、いいよね。


「なるほどね……どうやら本当みたいだ」


 ガトー王子は、興味深げにキナコを見つめている。


「ねぇ。そうするとさ。ここから先、こっちの世界でおこることは、ゲームのイベント通りってことかな?」

「ううん、予言を聞いて作ったから、50%くらいの確率って言ってたけど」

「ふーん。50%か、微妙だなぁ~。うーん、ジェラは信じるかい?」

「信じないわよ」

 

 ジェラ王女は、不機嫌そう顔でじーっと私を見ている。

  

「どうせ、ゲームの知識で攻略対象との逆ハーレムを目指してるのよ、許せない!」

「そうかなぁ、僕は信じるよ! こんなに可愛い子が嘘をつくわけないしね!」

  

 さわやかな笑顔を向けた後、ウィンクする。

 

「だって、まだゲームの開始前なのに、お兄様と婚約してるのよ! おかしいじゃない」

「それは、私も知りたいです……」


 うん、ゲームを知っている人なら、絶対おかしいって思うよね。

 なんでこうなったのか私もわからないんですけど。


「あーそれは、ご主人様がたらしだからですよ?」

「……キナコは少し黙っててくれる?」


 ジェラ王女は、頬を膨らませて、むすっとしている。

 よくみたら、なんだかカワイイ。

 そいえば、ゲームのジェラ王女って、お兄ちゃんのシュトレ王子ラブなキャラだった気がする。

 いつもお兄ちゃんの後ろを大人しくついてくる、とてもおとなしい子。


 お兄ちゃんに別の婚約者が出来たことで、妬いてる感じなのかな。

 

 あれ? ……おとなしい子?

 やっぱり……印象違うよね、転生者だからかな。


「……推しキャラだったのに」

「え?」


 ジェラ王女が、ボソッとつぶやく。


「私、クレナが推しキャラだったのよ!」

  

 私を指さして、真っ赤な顔をして叫ぶ。


「会えるのずっと楽しみにしてたのに、なんであんたなのよ!!」


 ええええええ!?

 

 ……お兄ちゃんをとられた嫉妬、じゃなかったみたい。

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