第15話 お嬢様と二人の王族


「第二王子と第一王女が帰国したので、お祝いをするよ。遊びに来てね」


 お城から、我が家に招待状が届いた。

 第二王子と第一王女は、他の国に留学してたんだけど、急に帰ってきたんだって。

 なにかあったのかな?


 私は仮だけど、シュトレ王子の婚約者だから、強制参加。

 王様と約束したしね。十五歳までは頑張りますよ!

 で、できる範囲でだけど。


 それに。


「第二王子に会えるなら、ちょうどよかったねー」

「まぁ、そうなんだけど……」


 キナコがしっぽをピーンとあげて足にすりよってくる。 


『第二王子に会ってくださいー』


 かみたちゃんの言葉を思い出す。

 ……すごいタイミング。

 偶然とは思えないよね。


 えーと、第二王子って確か……。

 ベッドから、私の大事な生命線「ファルシアの星乙女」メモを取り出す。


『ガトー・グランドール』

 

『ファルシア王国、第二王子。現王妃に似た茶色い髪に茶色い目の王子』

『金髪・青い目でないことで第一王子にコンプレックスをもっている』

『成長するにつれて、容姿だけでなく剣の腕、勉学に差が付き、さらに卑屈になる。』

『星降りの乙女は、様々なイベントを通して彼の心に寄り添い、やがて恋におちる』 


 ……。

 

 うん、記憶にある。いたよね。こんな王子。


 常に自分に自信がなくて、最初のほうのクチグセが「どうせ僕なんか」だったと思う。

 自信とプライドの塊みたいな第一王子と正反対なキャラかな? 

 

 うーん。

 でも。

 

「ねぇ、キナコ。王子に会って、それからどうすればいいと思う?」

「え? いつもみたいに、たらしこめば?」

「……なにそれ?」

「ゲームみたいに、悩みをきいてあげるとかさー」

「それ、乙女ちゃんの役割じゃない?」

「えー? 今更それ言うかなぁー」


 どういう意味さ!


 よし!

 とりあえず。会ってから次のことを考えよう。

 会う以外のヒントもらってないしね。



「お嬢様、入りますよー」


 部屋の扉前から、メイド長のセーラの声がする。


「はい、どうぞ」  


 私は、慌ててメモをカバンに押し込む。


「今日も可愛くお着替えましょうね」

「さぁ、みんな。やるわよ!」

「お嬢様、失礼します!」


 気合の入ったメイド隊の皆様が部屋に入ってくる。


「今回も世界一可愛くしましょうね!」

「もう、ほどほどで大丈夫だから!」


 婚約者って言っても仮なんだし。そんなに気合いれてやらなくても平気だってばー。


「大変だね、ご主人様。ぷぷぷ」



********** 

 

 

 久しぶりの王都。

 私は絶対目立つ格好で、お父様の後ろを歩いていた。


 髪はサイドを編み込んで、後ろを小さなハートのアクセとリボンで結んでいる。

 頭には、小さな銀色のティアラ。


 上が白でスカートの部分がピンク色。

 薄い白のレースがかかってて、背中に大きなリボンが三つ。

 丈が少し長いので歩きづらい。

 

 ……こんなに気合入れなくてもいいのに。


 街は、星降りのお祭りの時のように、にぎわっていた。


 いたるところに「おかえりなさい、ガトー王子、ジェラ王女」の横断幕。

 色とりどりの花が飾り付けられている。


「すごいね。普段はこの通りなにもないのに。露店がこんなにたくさん……」

「ご主人様! 美味しそうなお店がいっぱい!」

「人が多いから、絶対肩からおりちゃダメだからね!」

「もう、わかってるよー。ご主人様こそ、はぐれちゃダメだからね」


 どこからか、楽しそうな音楽が流れてくる。とても賑やかだ。

 みんな笑顔で楽しんでる。


「……これって、平和だから楽しめるんだよね」

「まぁ、そうだよねー。まぁ、それもあるけど」

「あるけど?」

「ボクには、この街の人達がお祭り好きなだけに見えるよ」


 うーん。それもあるんだろうけど。


 だんだん荒廃していったゲームの世界を思い出す。

 こんなににぎやかで楽しそうな街なのに……。

 うん、やっぱり平和って大事!

 予言……外れればいいのに。



「クレナ、もうすぐ王宮だぞ」


 私は、お父様と一緒に王様に呼び出されている。

 うーん。

 そんなに頻繁に会ったりしないと思うんだけどなぁ。


 王宮内の豪華な扉の前。

 お父様と私そしてキナコは、呼び出しを待っている。


「ご主人様がいずれ住む場所なんでしょ? 緊張しなくても平気なのに」

「そんないずれは、ありませんから!」

「……クレナ?」

「な、なんでもありませんわ、お父様」


「リード・ハルセルト伯爵、ご息女クレナ様、参られました!」

 

 重そうな大きな扉が開いていく。


 これって何の意味があるのかなぁ。

 すごく緊張するんですけど!


 大きな謁見の間。

 赤い絨毯の奥の玉座の前に、にこにこした王様が立っていた。


「やぁ、よく来たね~。」


 赤い絨毯の上をお父様と一緒に歩く。


 王様の横には、シュトレ王子。

 そして、同い年くらいの茶色い髪の男の子と、ラベンダーのような紫色の髪をした女の子が立っている。

 ゲームよりだいぶ幼いけど。 

 第二王子のガトー様と、第一王女のジェラ様だよね。

 

 あれ?

 二人の目線が、私に向かってる気がする。

 ……特に、ジェラ王女の視線が痛いんですけど!?

 睨まれてる? なんで?

 

 お父様は王座の前に着くと、膝を折って頭を下げる。

 私もお父様に合わせて、頭を下げる。

 

「いいよいいよ、頭を上げて。相変わらず可愛いな~。ホントにリードの娘とは思えないな~」

「うるせーでございますよ、国王様」


 国王様とお父様は相変わらず楽しそう。


 頭をあげると、ガトー様、ジェラ様と目があう。


「お兄様に婚約者だなんて! だから留学なんてしたくなかったのよ!」

「うわぁ……。あんまり可愛くてビックリしたよ。ねぇ、僕に乗り換えない?」

「こら、少し黙りなさい」


 あれ?

 なんだろう、この違和感。

 私の知っているゲームの中の二人と印象が違うような?

 

 と、とりあえず挨拶だよね。

 ここは笑顔で乗り切ろう。


「はじめまして、ガトー様、ジェラ様。リード・ハルセルトの娘、クレナです」


 両手でスカートの裾をつまみ、持ち上げて頭を下げた。

 私が挨拶をすると。

 二人とも驚いた顔をして固まっていた。


 なに、この雰囲気。

 ……何か失敗した?

 

 ガトー王子が私を見ながら呆然とつぶやく。


「……クレナ・ハルセルト? 君が?」

「はい? クレナともうします」


『君が』って、なんだろう?


 よく見ると、ジェラ様がぷるぷる震えてる。

 

「なんでよ……」

「え?」

「なんで、クレナ・ハルセルトが女なのよ!」

  

 えーーーーー?

 なんでって言われても、生まれてからずっと女なんですけど。


 ……あれ?


 でもまって。

 ジェラ様のこの発言って。


 私はジェラ様に笑顔で話しかけた。


「ジェラ様、『ファルシアの星乙女』ってご存じですか?」

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