第14話 お嬢様と今後の目標

「やっぱり、今後のことを考えないとだよね」


 かみたちゃんに再び会った私は、ベッドの上でごろごろ悩んだ後。

 自分の生命線「ファルシアの星乙女メモ」を取り出して、じーっとみつめる。

 なんだか色々あるけど。とりあえず、今後の目標を整理しよう!

 乙女メモにかきかき。



『そのいちっ! クーデター阻止』


 これすごく重要! ほっとくと死ぬし私。

 今のリリーちゃんを見てると、クーデターと全然つながらないんだけど。

 かみたちゃんの言い方だと、まだ可能性があるってことだよね。

 とりあえず、リリーちゃんともっと仲良くなろう! 一緒にいて楽しいし、クーデターも防げるし!



『そのにっ! 世界を救おう』


 えーと、どうすればいいのかなぁ。

 流れ星が減ってるっていったけど。モンスターを倒せば解決なのかなぁ。

 うーん。

 やっぱり、50%の確率を信じて、星乙女と攻略対象をくっつけちゃいえばいい気がする。

 ゲーム通りにすすめば、世界救われるんじゃない?

 攻略者って星乙女ラブになるほど、強くなるし。星乙女も強くなる。


 うん、そうだ!

 それが一番良い気がする!


 とりあえず、シュトレ王子に星乙女を推しまくろう!

 ……っていっても。今この世界にいない人ってどうやって推せばいいのかなぁ。

 いずれ、アナタにとって大事な人が現れますよ、みたいな感じ?


 で。星乙女がこっちの世界にきたら、全力応援!

 これね!


 ふふふ、目指せ、恋愛マスター!(自称)



『そのさんっ! すごい魔法を使えるようになる』


 世界を救うのにも、冒険者になるのにもやっぱり力は必要だよね。

 恋愛マスター(自称)として、私も星乙女と一緒に魔法使って世界救ってもいいわけだし。

 最初の目標どおり、冒険者として、ラスボス倒しちゃってもいい気もするし。


 

 そうだ!

 かみたちゃんが、魔法つかえるようにしたとか言ってたけど。


 ……うーん。


 よし! 試してみよう!


「ご主人様、どこに行くの?」

「裏庭だよ~」


 私は、ノートのメモを書き終えると、屋敷の裏庭に向かった。

 なぜ裏庭なのかっていうと。

 ラノベの主人公みたいに、いきなりスゴイ魔法がでて屋敷が吹き飛んじゃったら怖いから。


 さて。


 いよいよ私の魔法デビューの瞬間ね!

 緊張するー! すごく異世界っぽいよ、これ。

 心臓がドキドキしてる。


 いったん落ち着こう。

「ふぅ~」冷静に深呼吸して。


 えーと。

 そうだ! ゲームで星乙女が使ってた魔法があったよね!

 ……戦闘シーンを思い出して。


「ファイヤーボール!」


 右手を大きく前にかざして、大声で叫んでみる。


 ……。


 …………。


 ねぇ、なにもおこらないんですけど!


「……お嬢様?」


 な!?


 なんで、近くにセーラがいるのさ!

 なんかすごく温かい目でみてるんですけど。


 よこでは、キナコが笑いころげてる。


 かみたちゃん、なんでー!?

 


********** 

 

 

 数日後の朝食。

 今日も、お父様と二人きり。


「クレナ、魔法を覚えたいのか?」


 お父様が突然、こんな話をしてきた。


「え、なんでですか? お父様」

「いや、誰からだったかな、話をきいてな」


 少しあせって目を逸らすお父様。

 絶対あの時のことだ。

 セーラ、おしゃべりー!

 

 それか。

 おしゃべりドラゴンが話したとか?

 テーブルの下でもぐもぐ食事中のキナコを見る。

 キナコは、食事をやめて私の肩に飛び乗ると、ヒソヒソ声で話してきた。

 

「ボクは話してないよ。すっごく話したかったけど。ぷぷぷ」

「……今度、絶対デザートあげないからね」

「なんでー」

「なんでも!」

「そうだ! 魔法お父さんに教えてもらったら?」


 私たちがぼそぼそしゃべっているのを、お父様が不思議そうな目でみている。


「……クレナ?」 


 ……確かに。

 お父様も冒険者だったんだし、魔法使えるかも。

 これを機に、教えてもらうのもありだよね。


「お父様。私、魔法を覚えたいです! 冒険者になるには必要だと思うんです!」


 真剣にお父様にお願いしてみる。

 かみたちゃんが使えるようにしたって言ってたし。

 ちゃんと教えてもらえば、私にも使えるはず!

 

「……ダメだ!」


 お父様は、厳しい顔をして、腕を組む。

 え? まさかの魔法NG?


「冒険者なんて目指すんじゃない」


 あー。そっちかぁ。

 お城でもダメって言ってたよね、お父様。

 でもそれって、なんだかおかしい気がするんですけど。


「なぜですか、お父様! お父様もお母さまも、昔、冒険者だったって、王様が」

「昔の話だ! そんな危ない仕事をする必要はない!」

「私、絶対、冒険者になるから!」

「許さん、冒険者も魔法も禁止だ!」


 結局。

 いろいろ話してみたけど、お父様を説得できなかった。魔法も覚えちゃダメだって。

 なんでさ!


 お父様の頑固者!

 


**********


<<いもうと目線>>


 私は、真っ白な空間を歩いてた。


 体中が、警告を発してる。

 これ以上は進んだらダメだって。


 でも。


 お姉ちゃんはこの先にいる。


 なんでだかわからないけど、確信があった。

 勇気を振り絞って、前に進む。


 上下も空間の奥行きもまったくわからない、不思議な空間。

 今自分が、登っているのか下っているのか、それとも平面なのか、まったくわからない。


 ふと気づく。


 私、なんで制服着てるんだろ。

 お姉ちゃんが死んでから、一回だって学校に行ってないのに。


 夢? なのかな?


 よくわからない。

 でも立ち止まらず進んでいく。

 

 目を凝らして空間の奥を見つめると、金色の光が小さく光ってるのが見えた。

 

 出口?


 真っ白な空間で、進む方向が、目標ができた。

 光に向かって進んでいく。


 光に近づくにつれて、それが出口ではなく、なにかが光ってるのがわかってきた。


 翼と角の生えた人のようなものが金色の光を放っている。

 光が……なんだか禍々しいものに感じた。

 直観でわかる、この生き物は……危険だ。


「おや。自分でこんなところにくる人間は初めてだね」

 

 艶やかな女性の声でつぶやく。

 頭に角、背中に大きな羽根。腰まで伸びた長い髪に、妖艶な顔立ち。肉付きのいいグラマーな姿。

 私の頭の中に、一つだけ当てはまる単語があった。


「……ねぇ、あなたは悪魔?」

「あはは、なるほど悪魔ね。まぁ、悪魔なんてものは、受け取る人がどう感じるかだけどね」


 何をいってるのか、よくわからないけど。

 今大事なのは、お姉ちゃんに会えるか、会えないかだ。


 もし会えるなら、悪魔でも何でもいい。 


「ふーん……」


 金色に光る女性は、興味深げに私をのぞき込む。


「なるほどねぇ、ふーん……」

 

 にやにやと私を見つめている。嫌な感じだ。

 

「お姉ちゃんのいる世界に、転生させてあげようか?」

「……え?」

「あんたのお姉ちゃんは、別の世界で生きてるわよ」

「ホントに!」

 

 え。生きてる? お姉ちゃんが?

 良かった、良かったよぉ。


 ……会いたい! すごくすごく会いたい!!


 涙が溢れ出てくる。なにこれ、止まらないよ……。


「ホントに、お姉ちゃんに会えるの?」

「ああ、本当だとも」

「お願いします! 私をそこに連れて行って!」


 涙で視界がぼやけてるけど。そんなことは今は関係ない。

 金色の女性に頭をさげる。


「いいとも、それが私の仕事だからね」


 女性は何かを小声で何かを唱えた……と思う。


 その瞬間。

 私の体の周りが金色に光っていった。


 手が足が、どんどん光の中に消えていく。

 きっと、新しい世界に向かってるんだ。

 

「ありがとう! ねぇ、アナタってもしかして、神様だったの?」


 視界が全部金色になって、何も見えなくなっていく。


 意識が消える瞬間。笑いながら答える、女性の声が聞こえたような気がした。


「あはは、神様みたいなもの、よ」

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