第10話 お嬢様と幻想的なこの世界

 お城に到着した私たちは、なぜかすぐに王様との謁見になった。 


 ……なんでさ!

 パーティーは明日なんですけど。

 王様って、こんなにすぐに会えたりするものなの?

 

 お父様と私は、謁見の間の豪華な扉の前で待機している。

 そういえば、ゲームの主人公って、よく王城とか平気で入ってるよね。

 普通に考えたら、ありえないんですけど。

 これ、すごく緊張するんですけど! 


「リード・ハルセルト伯爵、そのご息女クレナ様、参られました!」


 合図とともに、重そうな扉が開く。


 大きな謁見の間。

 王様の座っている玉座に続く赤い絨毯の上を、父親の後ろについて歩く。まずい、手と足が一緒に動きそう。

 

「ぷぷぷっ、ご主人様歩き方ヘン」

「しーっ」


 玉座の前につくと、お父様は膝を折って頭を下げる。

 私も、お父様にならって頭を下げた。

 肩に乗っていたキナコは、ぴょんと飛び降りると、横でネコのようにおとなしく丸まった。



「あはは。よくきたね、リード。堅苦しいのはいいよ、二人とも頭をあげて」


 人懐っこい声が響く。

 

 おそるおそる顔をあげると、金髪碧眼の整った顔立ちの男がいた。

 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』に出てくる、シュトレ王子をもっと大人にしたような姿。

 頭には王冠をかぶり、赤いマントを羽織っている。

 この人が、国王……様?


「君が、クレナだね。初めまして。僕が、国王のクリール・グランドールだよ」


 目が合うと、優しい微笑みを返してくれた。


「あ、あの……」

「ああ、緊張しなくていいよ。今日はプライベートで来てもらってるしね」  

 

 少しおどけた感じの、砕けた口調で話しかけてくる。


「すこしは、威厳があったほうがいいじゃないのか?」

「公の場ではちゃんとするさ。まぁ、疲れるけどな」


 国王様とお父様は、すごく親しそうな雰囲気。

 そっか、ホントに友達なんだ。

 別に疑ってたわけじゃないんだけど。 


 国王様は、王座から立ち上がると、私の目線に合わせしゃがんで中腰になった。

 正面から私を見つめると、ニコリと笑う。

 

「今日はね、クレナちゃんに会ってみたかったんだ」

「あ、あの、初めまして。リードの娘、クレナと申します」

 

 慌てて、スカートの裾をつまみお辞儀をする。

 びっくりしちゃって、ちゃんとご挨拶してなかった。

 

「あはは、本当に可愛いね~。ウワサでは聞いてたんだけどさ。リードの娘がこんなに可愛いなんてビックリしたよ。よかったね、お母さんに似て」

 

 お父様の方を見てにやりと笑う。


「うるせぇよ、国王様」


 お父様の口がすごく悪い、珍しいな。

 でもとても楽しそう。


「お母様をご存じなのですか?」 

「もちろん、知ってるよ」

「……ホントですか?」

「ああ。僕が即位する前、君の両親とは冒険者仲間だったんだ。いろんな所に旅をしたなぁ」


 いたずらっぽく笑う。

 え? 冒険者?

 王族なのに冒険者? あと、お父様、……お母様も?


「おいこら、クリール! その話はしない約束だろ」

「ははは、子供に隠し事は良くないなぁ~、リード」

     

 混乱する私をよそに、国王様が私に問いかける。


「ねえ、クレナちゃん。シュトレとの婚約の話は、聞いてるよね?」

 

 こくりと頷く。


「君の意見を聞かずに勝手に決めてしまったんだけどさ。どう思ってる?」


 国王様は、目線を部屋の壁側に移す。

 そこには、真っ赤な顔をして直立したシュトレ王子がいた。

 王子も謁見の間にきてたんだ。


「私……。私は、冒険者になりたいので、お姫様は無理です、申し訳ありません」


 怒られるかな?

 でもお姫様なんて、ホントに無理だし。

 冒険者になって世界を救って、元の世界に戻りたいし。


「え? お姫様でもなれるよ、冒険者」

「え?」


 きょとんとした表情の国王様。

 きょとんとした表情の私。


「僕なんて、未だに冒険者だし」

「おい、それはダメだろ、お前」

「そうそう今度の休み、久しぶりにダンジョン行こうかと思ってるんだ。リードも付き合ってよ」

「……とめても行くんだろう、どうせ。……時間が空いたらな」

「あはは、ありがとう。クライスとセルフィスにも声かけとくよ」


 クライスとセルフィスって、今の宰相と騎士団長の名前ですよね!

 大丈夫なの、この国!


 私がビックリしてると、なんだか暗い顔でうつむいて立っていた王子に、国王様が近づく。

 耳元でなにかささやいた。


 王子が私を見て、真剣な顔でうなずく。

 え? なんだろう。


 国王様は、再び私の前に来て、目線を合わせてくる。


「ねぇ、クレナちゃん。婚約解消は十五歳まで待っててくれないかな。それでイヤならちゃんと解消するから」

 

 十五歳……。

 ゲームだとプレイヤーが王立学校の高等部に入学する、スタートの時の年齢だ。

 あれ?

 もしかして、私が星乙女のライバル悪女役になるの?

 

「私が、王子の婚約者よ、付き合いたければ私を倒してからになさい。おほほほ」的な感じで。

 ……似合わなそう。

 でも、十五歳で解消するなら、ギリギリセーフなのかなぁ……。

 リリアナちゃんも王子の婚約者じゃないなら、悪役令嬢ルートに入らない気もするし……。

 あー、そこは重要だよね。クーデター怖いし!


 うーん……。 

 

「ごめんね、王家にもさプライドみたいがあって。またすぐ婚約解消だとちょっとね。クレナちゃんお願いできないかな!」


 国王様ってなんだか子供みたいな人だなぁ。私が思うのも変だけど。


「ボクはいいと思うよ。おてんばなご主人様にお似合いだと思うし」

「ちょっと、キナコ!」

 

 慌てて、横で伸びをしていたキナコの口をふさぐ。


「……クレナちゃん?」


 国王様が不思議そうな目で私とキナコを見ている。 

 まずい。

 

「わ、わかりました! 十五歳で解消いただけるのであれば!」

「そうか、ありがとう!」


 ぱぁと嬉しそうな笑顔になる王様。

 思わずいっちゃったじゃない、キナコのおバカ!


「クレナ……断るのはいいんだが、冒険者になりたいなんて初めて聞いたぞ!」


  

**********



 次の日。


 お誕生日パーティーは、忙しかった。

 私は、シュトレ王子の婚約者として沢山の人に囲まれて、挨拶を交わす。

 なにこれ。権力怖い。 


 途中で、王子様が人の囲みから私をひっぱって、お城の空中庭園に連れて行った。

 手を引く王子の顔は真っ赤だった。自分以外が注目されて怒ったのかな?

 まぁ、誕生日だもんね。

 気持ちはわかるから、素直についていくけど。


 そういえば。

 連れ出された時、周囲の目がとても温かな感じだったのは、なんでさ!

 


「すごーい!」

「どうだ、キレイだろー?」


 空中庭園からは、お城と街の様子が一望できた。

 みんな外に、魔星鎧や調理器具、ランプ等、魔道具を並べている。


 魔道具に使われている魔法石の魔法の力を、流れ星からチャージする為だ。


 

 外はすっかり夕日が眩しくて、気の早い星が少しずつ流れ始めていた。


「ん」


 王子様が真っ赤な顔をして、マントを私に差し出してくる。

 そういえば、ドレスでは少し寒くなってきた。


「ありがとう」 


 素直に借りて、マントを羽織る。マントはとても温かかった。

 あれ? でもまって。そしたら、王子がマントなくて寒くない?

 王子様なのに、風邪をひいたら大変だよ! 私は慌てて返そうとする。


「オレは大丈夫だから、クレナ使えよ」


 差し出しても受け取ってくれない。 

 もう。仕方ないな。

 私は、シュトレ王子のすぐ隣に並んで、一緒にマントを羽織ってベンチに座る。

 

 弟がいたら、こんな感じなのかなぁ。


 

「ねぇ、会場に戻らなくて平気なの?」

「……ここでいい」


 まぁ、王子が良いならいいけどね。

 ここのが、星が沢山見れそうだし。


 やがて暗くなり、空に大量の流れ星が流れ始めた。

 星に反応するように、地上の魔道具もキラキラ光出す。


 空も、地上も。

 魔法の光でキラキラ溢れている。

 

 それは見たこともないような幻想的な景色。


「綺麗…………」

「……クレナ?」


 え? あれ?

 気がつくと涙が流れていた。

 人って、綺麗な景色を見て泣くことがあるんだね。初めて経験した。


「大丈夫? どこか痛いのか?」


 王子が心配そうな優しい瞳で、私を見ていた。

 なんだ、こんな表情もできるんだ。

 前世の私から見たら小さな男の子だけど。

 すごく美形だから、すこしドキッとする。


「大丈夫、すごく綺麗でびっくりしちゃっただけ」


 指で涙を拭きながら笑顔で答える。

 ひざに乗っていたキナコが、肩に移動して小さな声でつぶやいた。


「ねぇ、さっきからホントに無自覚なの?」

「しーっ、だめだよ喋ったら」

「はぁ、怖いわ。このご主人様」

「なにが怖いのさ!」


 はっ。これまずいよね。

 あやしまれるかと思って、王子様をみたら。

 赤い顔で固まっていた。

 あぶない。

 王子様も、流れ星に感動してて気づかなかったみたい。ふぅ、よかった。



「クレナー、どこだー。パーティー終わったから帰るぞ」


 お父様の声だ。

 空中庭園まで迎えに来たみたい。


「今日はありがとう、シュトレ王子! 楽しかったです」


 大きく手を振る。

 

「あ、ああ……」

 

 私はそのままお父様に連れられて、飛空船に向かった。


 

 帰りの飛空船で、私はぼーっと、あの幻想的な景色を思い出していた。


 ……ゲームと同じ世界。

 ……50%で当たってしまう予言。


 この世界が無くなってしまうのは……嫌だな……。

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