第9話 お嬢様と王子様の誕生日

 お城から、招待状が届いた。

 王子様のお誕生日パーティーをするそうだ。

 私は一応婚約者なので、断れないらしい。

 

「かぜをひいたので、ごめんなさい」って手紙だけ送るって言ったら、お父様に怒られた。

 

 ……で。


 当日。何故か、本当に風邪ひいてしまった。

 これって、願いがかなったってことなの?

 思った通り物語が進むなんて、さすが異世界転生者ね、私。


 ……なんて。

 普通に風邪でだるくてつらいんですけど。


 少ししてから、お城から沢山の美味しい果物が到着した。

 

 王子の直筆の手紙もついていて。

 そこにはお見舞いの言葉が、子供の文字で書いてあった。

 私は、少しだけあの生意気な王子様を見直した。

 まぁ、ちょっとだけだけど。

 ついでに婚約破棄してくれれば、いきなり最高評価だったのに、残念。


「ねぇねぇご主人様。この王子いいやつなんじゃない? もぐもぐ。このまま結婚しちゃえば?」

「あのね、相手は王子様なんだからね! 私は冒険者になって世界を救うんだから無理!」

「冒険者ねぇ、そんなヒラヒラな服を着てるのに」

「これ、私が選んでるわけじゃないから!」


 ベッドから起きて両手を広げる。

 胸元にリボンのある、水色のフリルワンピパジャマだ。


「はいはい、お似合いですよ。ご主人様は可愛いですからね。もぐもぐ」

「……あと。私今病人だからね、一応。少し気とか使わない? 普通?」

「仮病なんて使おうとしたから、バチがあったんですよ」


 私のベッドの横で、お見舞いの果物をもぐもぐ食べている。

 この生意気な小さなドラゴンには、キナコっていう名前を付けた。

 前世で飼っていた猫の名前なんだけど。


「ねぇ、キナコ。私の分残ってるよね?」

「ご主人様がおねだりすれば、喜んで沢山贈ってくれると思いますよ」  

「……だれが?」

「え? 王子様にきまってるじゃないですか!」

「なんでさ!」

「ふぅ、にぶいなぁ、ご主人様は」



**********

  

 ―――数日後。


 風邪がすっかり良くなったころに、お城からまた招待状が届いた。

 星降りの夜に、王子様の誕生日もかねて、盛大なパーティーを開くらしい。


 あれ?

 ついこの間も、お誕生日パーティーのお誘いってきたよね?

 行かなかった、いや、行けなかったけど。


 そういえば、あの時のお誕生日会はどうなったのかな?

 気になってお父様に聞いてみたら、目を逸らされた。

 

 パーティーでなにかあったのかなぁ。

 ……できれば、巻き込まないでほしいんですけど。



「うわぁ~、やっぱりすごいー!」

「お嬢様は、本当に飛空船が好きじゃなぁ~」

「うん、空の旅楽しみ!」

 

 私と父親、操縦士のベンじい(あとキナコ)は、パーティー出席の為に飛行場に来ている。

 

 今回の移動も、我が家の飛空船。

 婚約者の私は強制参加らしいので、せめて空の旅は楽しむことにした。

 

 大きな飛空船を見上げる。

 飛空船は陽の光を浴びて、まぶしく輝いている。

 

 やっぱり、空を自由に飛べるってスゴイ!


 冒険者は、通常六人くらいの仲間で行動する。

 自分達の飛空船に魔星鎧を載せて、世界中を自由に旅するのが、この世界の冒険者なんだそうだ。


 私も、いつか冒険者になって自分の飛空船が欲しいなぁ。


 で! 最終的に乙女ゲーのラストに出てきた魔物のボスをたおせば無事クリア!

 晴れて元に世界に戻れると……。

 なんて完璧な人生プラン! 

 やっぱり異世界転生モノの王道っていったらこれだよね!

 憧れる!

 


 あれ? お父様が私を見て、少し困った顔をしている。

 

「クレナ、その恰好はどうしたんだい?」

「だって、パーティーは明日でしょ? 今日は船の旅を楽しみたいの!」

「クレナ。わかってると思うけど、今は王子の婚約者な、一応」

「この服装だとダメなの?」


 船内を動きやすいように、レーストップスとちょっとフリルのついたショートパンツ。

 子供らしくていいと思うんだけど。 


「ダメに決まってますよ!」


 何故か、メイド長のセーラが飛行場までやってきて、私は屋敷に連れ戻された。


 再び飛行場に戻った時には、すっかり伯爵令嬢にドレスアップ。

 薄桃色の髪を編み込み、小さな花柄の髪飾りで留めている。

 白と薄い紫のグラデーションがかかった妖精みたいなドレス。


 飛空船に乗りこむと、大人しく船内のソファーに座る。

 膝の上に、キナコが飛び乗ってきた。 


「だからボク言いましたよねー。あの恰好だとまずいって」

「ドレスだと、船内探索できないでしょ? 汚したりしたらまずいし」

「いいじゃないですか。その恰好、妖精っぽくてすごくカワイイですよ」

「ありがと。でも、それより飛空船の中を……」

 

 言いかけたところで、お父様も乗り込んできた。


「……クレナ、今誰かと話してた?」

「いいえ。気のせいです、お父様」


 私は、キナコの口を押させつけた。

 あーあ、飛空船の中を色々探検しようと思ったのになぁ。残念。



**********


 船の中の探検はできなかったけど、飛空船から雲海の景色はキラキラ光ってキレイだった。

 やっぱり、飛空船って好きだなぁ。異世界ぽくて。


「見えてきたぞ、王都ファランだ」


 飛空船の窓から、大きな城壁と街並みが見えてきた。

 私は、お父様と一緒に甲板まで上がる。

 目の前に、城壁に囲まれた、中世ヨーロッパのようなオシャレな街並みが広がっている。

 街の中央には、高い塔のある大きな城が見える。

 ファンタジーゲームやアニメの世界の中にいるような光景。


「すごい大きいー。それに飛空船があんなに沢山ー!」

「ご主人様。そうやってると、深窓の令嬢みたいだよね」

「みたいってなにさ!」

「……クレナなにか言ったかい?」

「なんでもありませんわ、お父様!」

 

 慌てて、キナコの口をふさぐ。

 このおしゃべりドラゴンめ!



 既に王都上空は、沢山の飛空船であふれていた。

 私たちを乗せた飛空船は、お迎えの誘導船の指示で、無事に王都の飛行場に到着した。

 

 

 扉が開いた瞬間に、勇壮なラッパの音が鳴り響く。

 え? なに?


 飛空船を降りると、赤いカーペットが敷かれている。

 その横には、ずらりと魔星鎧姿の騎士たちが並んで剣を掲げている。

 

「未来の王妃様に、敬礼!」


 うわぁー。

 なんだろう、これ。すごく恥ずかしいんですけど。

  

 カーペットの奥では、金髪に青い目の男の子が立っていた。

 うん、見覚えある。王子様だよね、あれ。

 

「久しぶりだな。いや、お、お前を迎えにきたわけじゃないからな!」


 顔を赤くして、横を向いている。ちょっとカワイイ。 

 あー、そっか。

 こうやって、パーティー客を一人一人出迎えしてるのかな?

 飛空船すごい数飛んでるのに。王族のお仕事って大変。


 えらいぞ、少年!


「お出迎えありがとうございます」


 両手で軽くスカートを持ち上げて、王子様と騎士団の皆様に笑顔でご挨拶。

  

「お、おう」


 なんでそこで静かになるのさ!

 王子なんて、完全に固まってるし。

 おかしいなぁ。またなにか間違えたのかな? だとしたら、恥ずかしすぎるんですけど! 


「い……行きましょう、お父様」

「そ、そうだな」


 お父様の後ろについて、お城に向かう。

 私は少し遅れて歩くと、肩にのっていたキナコにこっそり話しかけた。

  

「ねぇ、なんで微妙な空気だったのかなぁ?」

「え? 本当にわからなかったんですか?」

「はっ、もしかして、スカート持ち上げすぎたとか!」

「ちがいますよ……。無自覚って怖いですね」


 無自覚?

 なんのことだろう。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る