第8話 お嬢様と友達のおうち

 お父様がワイバーンと戦った後。

 空の旅は順調で、飛空船は無事にセントワーグ領のリリアナちゃんのお屋敷に到着した。


 甲板にワイバーンの死体を積んでいたので、少し驚かれたけど。

 セントワーグ領で引き取ってもらうんだって。


 飛空挺から降りた後、案内役とお父様の後について屋敷へ向かう。


「すごい屋敷だな。ウチより広くて大きい!」

「そうだね、ご主人様。ねぇねぇそれより、あのワイバーンの肉ってもらえないのかなぁ」

「しー。みんなにバレないように静かにしててね」

「まかせてよ。かわりにあとであの肉もらってきてね」

「うーん。あとでお願いしてみる」


 上空から見た時も思ったんだけど。

 リリアナちゃんの家は、うちのお屋敷よりはるかに大きかった。

 この世界の金持ちって、本当にスゴイ……。

 

 正面の階段に到着すると、屋敷の扉がバンッと開き、女の子が飛び出してきた。


「クレナ様!」


 リリアナちゃんだ。

 金色の髪をなびかせながら、嬉しそうに私に向かってくる。

 なにこの天使。

 惚れそうなくらいカワイイんですけど。


「リリアナちゃん、久しぶり!」


 そういえば。

 飛行場について気づいたことがあった。


「飛行場にウチの飛行船しかなかったんだけど。早く来すぎちゃった?」

「ううん」

 

「……今日はクレナ様しかお呼びしてませんわ」

「え? なんで? 今日はお誕生パーティーじゃ……」


 やっぱり、シュトレ王子とのことで呼ばれたのかな?

 そして、いずれはクーデターを……。

 ようし!

 こうなったら前世での知識を生かして……えーと、どうしよう。土下座かな?

 うーんでも、それにしては。

 彼女はずっと私の近くでニコニコしている。


「まぁまぁ、ようこそ、セントワーグへ!」


 金髪を縦ロールにした、ゴージャスな女性が話しかけてくた。

 今のリリアナちゃんより、この人のほうが、ゲームの中のリリアナに似てる気がする。


「お母様」


 リリアナちゃんが振り向き、女性に抱きつく。

 なるほど、リリアナちゃんの母親か。どうりでゲームのリリアナと似てるわけだよね。

 あ、大変。ご挨拶しないとな。


「はじめまして、リード・ハルセルトの娘、クレナです」


 軽くスカートを持ち上げてお辞儀し、ニコリとスマイルを作る。


「おほほ、素敵なご挨拶ね。良くできました」


 リリアナちゃんの母親はすごく笑顔だ。


「クレナの父、リードです。今日はお招きいただきましてありがとうございます」

「おほほほ、なによ別に畏まらなくていいのよ、リード。昔からの仲じゃない」

「ご無沙汰しております、セントワーグ公爵夫人」

「立ち話もなんですわ、どうぞ中にお入りになって」


 ウィンクして、私たちを屋敷の中に案内する。

 凄く綺麗な人だなぁ。



 お屋敷の中では、ふくよかな紳士が笑顔でお出迎えしてくれた。

 リリアナちゃんのお父様、セントワーグ公爵だ。


「娘が、どうしても今回のお誕生日パーティーは、クレナさんだけをお誘いしたいと言い出しましてな」

「そうなのよ、普段はあまり自分の意思を言わないこの子が。嬉しくて貴方だけをお誘いしたのよ」

「お父さまお母さま! それ言わないでっていったじゃないですか!」


 お二人ともすごく優しい目でリリアナちゃんを見てるな。

 素敵な夫婦だなぁ。すごく仲の良さそうな家族に見える。

 ……どうしてこれが未来のクーデターにつながるんだろう。謎だ。

  


 セントワーグ邸の大広間では、会場の準備が既に出来あがっていた。

 リリアナちゃんが少し高くなったステージにあがる。


「クレナ様! 今日はわたくしのお誕生パーティーにお越しいただき、ありがとうございます」


 優雅な姿勢でお辞儀をする。


 パチパチパチパチー!

 かわいいー!

 挨拶も、私の時より絶対上手。

 これが、大人数のパーティーだったら、会場中、拍手喝采だったよ。

 私の時はびみょーだったからなぁ……。

 忘れよう。あれでも頑張ったんだ、うん。 


 それから。

 音楽に合わせて一緒に踊ったり、美味しいものを食べたり、楽しく会話をしたり、楽しい時間を過ごした。

 リリアナちゃんの話す冒険の本の内容は、臨場感があってすごく楽しかった。

 いきいきと話す彼女がすごく可愛くて。

 なにこの天使。

 前に白い空間で見た神様みたいな子より断然天使なんですけど!


 お父様たちは、来るときに倒したワイバーンや冒険の話に夢中だったみたい。


 パーティーは終了の時間になったんだけど、話したりないからって。

 帰る時間を少しだけ伸ばして、リリアナちゃんのお部屋にお邪魔することになった。


「ちょっとはずかしいけど、どうぞ」


 彼女は笑顔で部屋に招待してれた。

 そういえば。

 彼女の家に来てから、ずっと歓迎ムードだったから言い出せなかったんだけど。

 私には、どうしても言わなければならないことがあった。


「ねぇ、リリアナちゃん」

「なんでしょう?」

「シュトレ王子の事。……ゴメンナサイ!」


 深く頭をさげる。

 何故か誰も責めなかったけど。今の私は、婚約者を奪った略奪者だ。


 顔をあげると。リリアナちゃんがきょとんとした顔をしていた。


「そんなの全然気にしてませんわ」

「え? だって」

「そんことより! 今読んでいる『龍使いのお姫様』の続きをお話しませんか?」


 本を片手に。身振り手振りで物語のお話をしてくれる。

 そんなことって。

 王子様、その『龍使いのお姫様』に負けちゃってるよ?

 カワイソウに。


 

「でね、物語にでてくるお姫様って、みんなふわふわの髪型なんですの!」

「そうなんだー」

「クレナ様の髪型もふんわりとしていて……すごくカワイイ……なぁって」

「え? ありがとう」

「私も、お母様みたいに、ふわふわロールにしようかなぁって……」


 リリアナちゃんは、金色ストレートの髪をくるくる巻く仕草をする。


 え。ここでまさかの金髪縦ロール展開?

 このままゲームと同じ悪役令嬢になっていくのか?

 そして最後にはクーデター……。

 

「リリアナちゃん!」

 

 彼女の両肩をがしっと掴む。


「は、はい」


「私は、リリアナちゃんの髪、サラサラですごくキレイだと思う」

「え?」

「赤いリボンもすごく似合ってるし、無理に変えなくてもカワイイと思う」


 ビックリした目をしていたリリアナちゃんは、だんだん顔が赤くなっていく。


「クレナ様……ありがとうございます……」


「ねぇ、リリアナちゃん。「様」はいらないよー。クレナって呼んで?」

「そ、そうは参りませんわ!」

「お願い!」


 顔を真っ赤にいたリリアナちゃんは、こくりとうなずいた。


「わ、わかりました。クレナ…ちゃん。あの、もしよければ、私のことは、リリーと呼んでください……」

「ありがとー! リリーちゃん!」


 思わず抱きついた。

 嬉しさと可愛さでおもわずやっちゃった。

 ……嫌がられてないかな?

 そっと彼女を見ると、嬉しそうな顔で見つめていた。


「ク、クレナ……ちゃん……」

「もし困ったことがあったら、いつでも私に言ってね! ね!」

「えーと……ありがとう……ですわ」


 リリーちゃんは、少し驚いてたけど、真っ赤な顔でうなずいていた。

 

 こんなにおとなしくてカワイイ子が、クーデターなんて……ホントに起こすの?

 ゲーム通りの確率は50%か。うーん……。



 帰り道。

 飛空船のなかで、ドラゴンくんが満足げにワイバーンの肉をほおばりながら、ぽつりとつぶやいた。


「ご主人様は、たらしなんですかねぇ」

「え? なんのこと?」

「気づいてないんですか? あれはどうみても……」


 えーと、なんのことだろう? 


「まぁ、別にいいんですけどね。もぐもぐ」

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