第11話 王子様とお誕生日会 前編

<<シュトレ王子視点のお話>>



 ファルシア王国は、大陸の南に位置する緑豊かな王国だ。

 魔法石を利用した魔法技術が非常に発展しており、別名「魔法王国」と言われている。

 魔道具の恩恵を受けて、人々の暮らしも豊かで平和な国だ。


 オレは、この国の第一王子として生まれた。



「さぁ、動いてくれよ!」


 たくさんの人に囲まれた金髪の男の声を合図に、荷車の端にクワを何本も並べたような乗り物が、キラキラ輝きだす。

 やがてゆっくり動きだし、同時にクワが上下に動作する。


 荷車が通った後の畑は、キレイに耕されていく。

 荷台には肥料が積まれており、同時に肥料も撒いていく。


「成功だ!」

「おおおおー!」

 

 さっきから、子供のように目を輝かせて新しい魔道具を見ている金髪の男は、この国の国王クリール・グランドール。

 俺の親父だ。


 魔道具は、最初こそ見事に畑を耕していたが、突然、魔道具の光が強くなり……煙を吐いて停止した。


 …………。

 

「……なんでだよ~」


 魔道具を見ながら、肩を落とす、親父。

 

「いや、今回のは惜しかった」

「元気出せよ、国王さん」

「まぁなんだ。いつも俺らの為に魔道具を考えてくれてありがとうな」 


 親父の周りには、人が沢山集まって、失敗した魔道具について話している。

 みんな笑顔だ。

 

 国王らしくないと、陰口をいうヤツもいるけど。

 オレはそんな親父を心から尊敬していた。


 親父は、身分に関係なく人の輪に入っていって、皆を笑顔にする。

 一緒にいると、色んな人の幸せそうな笑顔がみれて。

 いつもワクワクする。

 

 いつか、自分もこんな国王になりたい!

 ……そう思っていたんだ。



**********


「いやいや、さすがはシュトレ王子」

「勉強も剣術も完璧ですぞ、将来がたのしみですなー」


 小さいころから、家庭教師の先生方はオレをとにかくほめる。

 気持ち悪いくらいだ。 


「お世辞はいらん、……オレなんて未熟な子供じゃないか」

「めっそうもございません」


 みんなお決まりのように、張り付いた笑顔。

 成長するにつれて、周囲の笑顔に、なんだか違和感が強くなっていく。

 

   

「シュトレ王子、リリアナ様がいらっしゃいました」

「わかった、すぐ行く」


 城の中庭に行くと、お茶会の準備がすっかり整っていた。

 ガーデンチェアに座っていた金髪の少女が立ち上がり、お辞儀をする。


「……おひさしぶりです…王子さま…」


 この少女はリリアナ・セントワーグ。

 王国にふたつしかない公爵家のひとつ、セントワーグ公爵家の一人娘。

 そしてオレの婚約者だ。

 

「……元気だったか?」

「……ハイ」

「なぁ、…………お茶冷めるぞ」

「………そうですわね」


 まるでキレイな人形のようだ。反応があまりかえってこない。


 考えてみれば、こいつも好きでオレの婚約者やってるわけじゃないよな。

 じっと下を見つめて俯くリリアナ。


 ………。


 まるで、籠の中の鳥のようだ。

 いつか助けてやりたいな。

 でも、オレも……きっとリリアナも……親や家が決めたことに。

 血筋や運命には逆らえない。


 

 親父と会う機会はどんどん減っていった。

 代わりに。

 オレの周りには、お決まりのように愛想笑いをする家庭教師や側近が増えた。

 何をしても、どんなことを言っても。張り付いた笑顔で話しかけてくる。


 そういえば、成長すると女の子達の反応だけは少し変化があった。

 

「王子様、私とお話していただけませんか~」

「王子様、私と一緒におどってくだいませんか~」

「王子様、素敵です~」


 顔を赤くして、興奮気味に話かけてくる。 


 でも。これも側近や家庭教師と同じことなんだろう。

 オレじゃなくて、オレの後ろにいる国王や王国をみているだけだ。 

 別にオレじゃなくてもいい。その地位にいる人間なら。

  

 いつからか。


 オレの大好きな笑顔は、周囲から消えてしまった。

 

 …………オレの中の……ワクワクがなくなった。



**********


 お誕生日パーティーは、リリアナと一緒に出掛けることが多い。


 今日はどこかの伯爵令嬢の九歳のお誕生日パーティーだ。

 オレは、リリアナのエスコートをするように、親父に言われている。

 主役の子への挨拶は……しなくてもいいだろう。

 また……あの張り付いたような笑顔を見るのはつらいから……。


 パーティー会場には、かなりの人数が招かれていた。

 そういえば、飛空船でリリアナに招待状を見せてもらった。

 本人の手書きだった。めずらしい子だな。 

 

 名前は、確か……クレナ・ハルセルト。

 

 ハルセルト……聞いたことある気がする。

 誰からだろう……親父からだったような……。


 うーん。


 悩んでいると、突然、にぎやかだった会場が静かになった。

 子供のオレたちでも。周囲の空気が変わったのが分かった。

 今日のパーティーの主役が登場したのだろう。


 けど。なんだろう、この不思議な雰囲気は。

 少しだけ興味を持ったオレは、リリアナを連れて、ステージに近づいてみた。


 そこには。


 ピンク色のやわらかそうな髪に小さなティアラ。 

 大きな赤紫の瞳。 

 髪の色と同じピンクのグラデーションがかかったドレス。


 ……妖精のような女の子がいた。



「はじめまして、みなさま。リード・ハルセルトの娘、クレナです」


 彼女は、優しく微笑む。


「本日はわたくしのお誕生日パーティーにお集まりいただきまして、ありがとうございます。どうか楽しんでいってください」


 両手で軽くスカートを持ち上げ優雅にお辞儀をした後、かわいらしい笑顔を見せた。


 会場が静まり返る。


 オレだけじゃない。


 たった九歳の女の子に。

 

 たった九歳の女の子の。

 あまりの清楚さに、優雅さに、可愛さに。息をのむ。

  

 目が離せない。

 誰も動けなかった。


 ……王族のオレにはわかる。

 理屈じゃない。

 生まれながらに、圧倒的に人を引き付けるもの。

   

 親父と同じだ……。


 それを、九歳の女の子から感じることが……どれほどすごいことなのか。


 ――オレには、よくわかった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る