助けてヒーロー

@rairahura

みんなが言うしあたしもそう思う


リオン・ネヴィオンは英雄だ


あたしよりずっと小さいけど

耳は横から生えてるし尻尾もないけど

本人はそんなことないって否定するけど


いつでもどんなに苦しくても立ち上がって向かって行くリオンの姿に

あたしはどうしようもなく憧れた

あたしに見えるのは外見だけじゃない

その魂

人の気持ちだか思いだかが炎となって燃え上がるのが見える

その中でもあいつの魂は強く強く燃え上がっていた

初めてそれを見たとき

あたしはその火の輝きにどうしようもなく憧れてしまった


リオンの魂が放つ輝きはそのままあたしの希望の光になって

そして

いつからだったか

あたしはその光を失うことに怯えるようになった


もしリオンの心が折れたら

そんなことはないってわかってるけど

もしリオンが諦めたら

リオンの火が消えてしまったら


考えただけで怖くて怖くて毛が逆立つ

リオンが死にかけたことなんて何度もある

その度にあたしの世界は暗くて寒くてまるで海の底に突然放り込まれたみたいな感覚になった

今はなんだかんだで生きてるけど

もしリオンの火が完全に消えたらきっとこの世界は真っ暗だ

そんな世界見たくない

まあそうなれば見たくても見たくなくてもこの世界は終わりなんだろうけど

今やリオンはそれだけの存在だ


世界が終わるなら

全く怖くないってわけではないけど

それならだいぶましだと思う


あたしが一番恐れているのはそうじゃなくて

もしリオンの火が消えて

それでも世界が続いてしまったら


もし世界が平和になったら

リオンが英雄らしいことをしなくてもよくなったら


リオンが平穏な生活を求めてることは知ってる

だからもし世界が平和とまではいかなくてもリオンがなんでも頑張らなくちゃいけないような今みたいな状況じゃなくなったら

きっとホヘとかと幸せにのんびり過ごすようになって

それでも誰かのために走り回るんだろうけど


そうなればいいって

今までたくさん頑張ってきたリオンがそうやって幸せに生きていけるようになって欲しいって

あたしのまともなとこはそう思ってる


でもリオンが強い強い決意を抱くことはなくなったら

あの輝きを見ることが二度となくなってしまったら

世界が真っ暗になってそれでも続いてしまったら

そしたらあたしは

どうしたら


嫌だな

どうすればいいかなんて本当はわかってる

あたしはあたし自身の幸せを求めることを止めることなんてできない


何をすればいいかなんて考える必要すらない

わかりきってる

だって仲間だから

リオンのことを近くで見てきたから

リオンが苦しめばいいんだ

リオンの仲間であるあたしが

前と同じような

前よりもっと酷いことをすれば

きっとリオンはすごくすごく悲しんで苦しんで

それでも絶対にリオンは折れないで

きっとどれだけ苦しくてもそれでも決意して

その時最高にその魂を燃え上がらせて

あたしに相対してくれる

それであたしはリオンの魂の火を真正面から見るんだ

それであたしはおしまい

あたしはリオンの魂の輝きを目に焼き付けてそれを最期の光景にして舞台から降りる

馬鹿で愚かで絶対に間違ったこと

でもそれがあたしにとって唯一の救いになるんだ

だから助けてよあたしの英雄


チャンスはきっと1回だけ

しくじれば二度とチャンスはない

まあしくじったっていい

そっちの方が迷惑をかけないで済む

どっちにしたって

あたしがそこで終われるなら

それで


あたしに越える力がなければって何度思ったことか

魂の火なんて見えなければ

リオンに会わなければ

蛮神を呼ぶ方法なんて知らなければ

もしそうだったら

無知で無力なあたしはそれでも火を求めて

その辺で放火でもして捕まって

それでおしまいだったはずだ

森から出ることもなくのたれ死んでたかも

それならリオンがあたしのせいで苦しい思いをすることはないんだからよっぽどましだったんだろう

残念ながらそうはならなかったけど


もしその時が来たらどうなるんだろう

あたしはたいして強くはないからどれだけ準備したところであたしの知るみんなが傷ついたり死んだりってことはないだろうな

他は多少犠牲が出るかも

それは仕方ない

あたしの願いのための礎になってもらおう


そういえばテンパードって「焼かれた者」っていう意味を持ってるらしい

まさに今のあたしにぴったりだと思う

越える力を持ってるあたしはテンパードにならないって言うけど

きっとあたしの魂はリオンの魂の火に焼かれてしまったんだ

あたしはもうあたし自身を止められない

だから英雄に止めてもらわないといけない

ついでにあたしの願いも叶えてもらおうってこと

大丈夫

リオンはきっとそれでも前に進んでくれる



世界が平和になる時に

ちょっとした悪役が現れて

英雄がそれを倒してめでたしめでたし

あたしの筋書きとしてはそんな感じ

まあ悪くはないんじゃねーかな


早くリオン達が幸せになれる世界が来ればいいってのは本当

そんな時が来なければいいのにって思うのも本当

矛盾を抱えながらせいぜい準備でもしておこう


それでやっとあたしは幸せになれるんだ

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