第7話 信仰と至上の黒

 ―――――――― 至上の黒 民の黒信仰・・・



 国に危機が迫った時には


 至上の黒を纏いし者が国を救う



 

 黒信仰には形も決まりも無い。


 形無き口づての 信仰とすら呼べない信仰だった。


 隙間に偲ぶ様に。


 ラトゥー神に対抗する様に・・・。



 それにはひとつの縛りも無く、黒信仰とは信仰ではなく、隙間に偲ぶ想い。



 神は一つだけでいいと ラトゥー神を信じぬ者には死を与える。


 ラトゥー神は贄を多く捧げなければならない。


 ――――――――その神は暗闇から来た邪神である


 ある日、力を欲しがるはじまりの王に暗闇から声が囁かれた。


 力が欲しければ贄を捧げよと。


 殺戮の始まりに、人々は逃げ惑い、屈服させられる。


 けれども、救いを求める者達に、聖なる神は一筋の光を与えた。




 それが至上の黒の始まり


 黒と暗闇は似て非なるもの


 邪神はその違いには気付けなかった。気付いた時には染み込んでいた・・・





 後に王は黒信仰をどうすればよいのかと考えた。 


 ならば、それを取り込んでしまえば良いのだ。



 『黒信仰の至上の黒とは、王の事である』



 だから、黒は王の色だと決められた。


 黒を纏って良いのは王だけ。


 そうすれば、全ては王のものだ。


 

 だが、あの娘はその色を纏ってやって来た


 至上の黒 ――――――――


 あれは、殺さねばならないと思った。


 これは、我らを弑(しい)する危うき者だと。


 


 瘴気を呼ぶ邪神は矛盾だらけだ。


 ・・・瘴気は力であるが、瘴気は生き物を殺す。


 増えすぎると国は成り立たない。では、どうするのか良いのか?


 魔物が瘴気を呼ぶのではなく、瘴気が魔物を呼ぶのだ。


 その為の浄化者(巫女姫)を異世界から呼ぶ。


 何も分からず浄化をさせられ、用が済めば財を渡して黙らせる。


 元の世界に戻れないとあれば黙るしかない。


 或いは、殺してしまえば良い。


 この国の仕組みを上手く回す為の駒。


 影の仕組みを隠すための演目。


 そうやって創られた王の世界は歪(いびつ)だ。



 造られた周期では世界が持たなくなり始めている。


 それもこれも、全てがあの至上の黒を持つ巫女のせいだと分かった時には、元の世界に送り返された後だったのだ。


 忌々しきは聖なる力をもつ一族。


 北に押し込められてなお、そこで力を溜めていた。






 城内は静まり返っている。


 王の間には王と側近。


 そして灰色のローブを被った男のみがいた。

 


「送った王の使徒が全て消されるとは許しがたい。何故、巫女姫一人、連れて来る事が出来ないのだ!」


「所詮、死人を魔力(ちから)で操っただけのもの、大した力は持たないからだ」


「もっと強い者達を送り巫女姫を奪わせろ!」


「聖騎士と神官は、我らと対極にある存在(もの)うかつに手が出せるものではない。その上、巫女姫の力こそが諸刃の剣だ・・・焦って手を出せば、消えるのは此方側だ」


 灰色のローブの男はそう言い放った。


 


   ※      ※      ※




 シュラルの神殿で大立ち回りがあった後、疲れた私はアスランテの腕の中で眠ってしまった。


 翌日目覚めると宿屋のベッドの上だった。


「昨日は大変でしたし、今日は街の食べ物を色々食べ歩きましょうか?」


「うん、行こう!」


 宿屋の朝飯は具沢山の野菜スープと雑穀パンに目玉焼きと大きめの長いソーセージとマッシュポテトだった。


 ソーセージにかぶりつくと、パリッとした皮が弾けて、噛むと中からじゅわっとスモークの風味のする肉汁と脂が出て来る。テーブルに香草を刻んだ物と、粗めの岩塩が皿に盛ってあるので、好みでポテトにふって食べる。


 鼻からぬける香草の香りがいい。イモとソーセージが病みつきになりそうな程旨い~。


 丸い雑穀パンにナイフで切れ目を入れてポテトとソーセージを挟んだ。


「ココは面白い事するな」


 ハンターが私と同じ事をすると、シオウも真似した。


「おいちーね」


 ううっ可愛い。獣人は顎の力が強いからだろう、私は何度も咀嚼を繰り返して飲み込むけど、シオウやハンターはバクバク食べてしまうのだ。



「今それだけ食べたのに、直ぐに食べ物を食べに行く話がよく出来ますね」


 ムーランはあきれ顔だ。


「ギルドの報告には私が行って来ますから、貴方たちはどうぞ街歩きでもしてきて下さい。混乱が起こるのは困るので、『王の使徒』の事は伏せておきます」


 そりゃ、『王の使徒』が神殿に突然現れて、襲って来たなんて言ったら、大混乱になるだろう。


「わかったー。じゃあ他の皆で街に行こうか」


「ココ、俺とヤトもギルドに行って、他の仲間からの伝言がないか確認するつもりだ」


「あ、うん分かった。伝言板を使って連絡を取り合ってるの?」


「そうだ。大きい街のギルドでは獣人だけが使う印の入った伝言板を使うんだ。これは、いずれシオウにも関わって来る事だから、シオウも連れて行く」


「なるほどね。了解。シオウはいろんな事教えて貰うんだよ」


「はーい」


 シオウも獣人として生きて行く術を身に着けて行かなくちゃ。少し寂しい気持ちと、成長して嬉しい気持ちがないまぜになる。


 小さい頭を帽子の上から撫でてあげると、嬉しそうに目を細めた。


「それから、今後の予定を夜に集まって話をしたいと思います。それぞれ話たいことがあれば頭の中で纏めておいてください」


 ムーランからそう言われて、私のイマイチぱっとしない頭で色々考えたのだった。


 


 


 



 

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