第6話 王の使徒

 皆で連れ立って、神殿に向かった。


「瘴気きっつ、モヤってる」


 ハンターがパタパタ手を動かしている。


「これでは、神殿の内部がどうなっているのか分かりません。貴方たち三人は外で待っていて下さい」


「さすがに、三賢人と巫女姫ってトコだな。何ともないの?」


「大丈夫だよ。それより、おかしいね・・・急に瘴気が濃くなって来た。ハンター達はこれ以上きつくなるようだったら、逃げてね」


「分かった。急に周りが暗くなって来たぞ。俺達は足を引っ張るのも嫌だから引くぞ」


「うん」


 直ぐに三人の姿が消える。黒い影が三つ飛んで行くのが見えた。


 神殿に着いた途端、周りの明度がぐんと下がった。


 ギイィィィィ―――――――


 鉄の扉は開けずとも内側に勝手に開いていく・・・。


 


「来るぞ!」


 アスランテの声で三方に跳び退った。


 私達がいた場所に、青い雷(いかずち)が落ちる。


 ―――― バリバリバリバリッ


 床に青い魔法陣が浮かび上がる。


「何ッ!」


 ムーランが驚いて叫んだ。


 そこに、黒い騎士の一団が現れたのだ。皆馬上にいる。全てが黒だった。


 騎士も馬も、鎧も全てが黒ずくめ。これが王の使徒!?


「どういう事だ!」


 アスランテも叫ぶ。


 黒い騎士の先頭にいる男が腰の剣を抜き払い頭上に掲げた。


「巫女姫をもらい受けたい」


 地の底から響く様な男の声がした。


「「「断る!」」」


 思わずハモってしまった。えっなんで、巫女姫ってやっぱ私だよね。


 ムーランが右胸に手を当てたのが見えた。


 「うっ」


 胸から黄金の光が放出される。


 少し苦しそうに右胸から黄金の杖(じょう)をつかみ出すのが見える。


 ああ、えぐいわ。これ見るの久しぶり・・・。


 ズルリと神官の杖が取り出された。すごい魔力だ。



 今度はアスランテが左肩に右掌を当てた。急に空気が冷えて来る。


 そして、左肩から手の先へと右手を滑らせた。


 すると、右手には恐ろしい程の冷気を纏った銀色に冴えわたる大剣が握られていた。


 聖剣、クレイヴ・ソリッシュ。光の剣 と呼ばれる物らしい。


 さっ、寒い程の冷気だ。これも久しぶりに見た。




 黒い騎士達が馬ごと後ろに下がった。


 馬って後すだり出来るんだ。そんな事考えてる場合じゃない。


 私はポケットに手を入れた。


 別に植物は何でもいいんだけど、最近いつも魔力を与えている人喰い蔓はお気に入り・・・。


 私の掌に乗せた人喰い蔓の種から蔓が何本も天に向かい伸びる。


 そのまま急降下し黒騎士を狙い、槍になって落ちる。



「散れ!」


 黒騎士の統率者の一言で皆が蔓の鋭い矢を避けて逃げる。


 私はそのまま落ちて来た蔓の一本を手に持ち、鞭に変えた。


 身体強化を上げる。足らない。まだ足らない。


 鞭には棘を纏わせる。


 


 アスランテの剣が、銀の矢の様に一線する。


 そしてムーランの黄金の杖(じょう)が煌めきながら振られた。


 二人の動きは無駄がなく、舞のような流れで黒騎士達を倒して行く。


 馬の嘶きと金属の交わる重い音が鳴り響く。


 倒れて砂が崩れるように消える黒騎士達と馬。


「黒騎士とは、不死者なのか!?」


 ムーランの声がした。


 全ての黒騎士が崩れて消えたとたん、ガラスの割れるような音が鳴り響いた。


 パリ――――ン・・・・。


 いきなり周囲が明るくなった。作られた結界が破綻した。


「向こうにはかなり強力な魔術師がいるようだ・・・」


 アスランテの剣が薄くなり宙に溶ける様に消えた。


「怪我はないですか?」


 ムーランの杖(じょう)も同じように消える。


 私は種をポケットに戻した。何かチガウ。


「王の使徒が出て来たって事は、敵は王族?なんか私狙われてる?」


「・・・王族に関しては我々も良く分からない部分があるのです。慎重に、貴女を守りながら消された村人の事などを調べてみるしかないでしょう・・・。ただ、今回の事で間違いなく王族は敵だとわかりましたね」


「王族がココを召喚したのか、邪魔だから連れ去ろうとしたのか、何故彼女を連れて行こうとするのか分からないが、何方にしてもココは渡さない」


 アスランテにギューっと抱きしめられた。ぐ、ぐるじい。


「ああ、ココ申し訳ありません。お疲れですね。帰りましょう」


 くったりした私をアスランテは子供を抱っこするみたいに縦抱きにして歩き始めた。


 何か、チガウ。


 ほんと、でもなんか疲れた。寝てもいい?意外に広い腕の中は居心地が良かった。

 


 



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