第5話 ミルク粥の味

 神殿の上空には黒い鳥が回っていた。


「すごい不気味」


「いやあ、なんかホント、嫌な出来上がり具合だな」


 ハンターも目の上に手を当てて遠く見ながらそう言った。


 ヤトもそちらをじーっっと見る。すると瞳孔が横に伸びた。確かにヤギ系だなと思った。


 でも、獣と獣人は全く違う存在なので、ヤギ獣人でもヤギの乳や肉は関係なく食べるそうだ。



「そうですね、早めに神殿に行って確認をしないといけません。このままだと街にも悪影響が出そうです」


 ムーランがそう言った。


「見たい、見せて~のぼりゅよ。ハンターに」


 ハンターの身体を子ザルの様に登り、勝手に肩車している。首を跨いで、頭をがしっと掴んでいたが、もっと高くしたかったみたいで、両肩に足を乗せて立ち上がった。


「こら、シオウ。あぶねえよ」


「ちょっとだけ、ごめんにょ」


 ごめんにょだって、かわいい~。


「あざとい」


「ん?アスランテ何かいった?」


「いいえ、何もいっていません。それよりも、ココ、この街には美味しい物が色々あります。宿屋を決めたら食べにいきませんか?」


「うん、いくよ!」


 なんだろう、美味しい物って。


『美味しい物』という言葉の強烈な吸引力には抗えない。


「あ、とりあえず、宿を決めたら後でギルドに行って換金しなきゃだ」


「ええ、そうしましょう」


 アスランテのニッコリにニッコリを返し、ムーランの選んでくれた宿屋に入った。


 私とシオウの部屋の左右がハンターとヤト。廊下の向かい側の二部屋が、ムーランとアスランテという並びで一人部屋の階をとってくれた。


「もうそろそろ、シオウとは部屋を分けますよ。そんなに淋しいなら、柔らかい動物の人形でも抱いて寝なさい」


「えーっ」


「こちらでは、子供のうちから早めに親と部屋を分けますから。貴女の様にいつまでも男女関係なくという訳にはいきません」


「ええーっ」


 今まではお金の心配もあったし、理由があったが、そう言われると困る。しかもムーランの言い方だと、私が困った子供のように聞こえるし。


「いつまでも子供ではいられないのですよ。次の街からは宿はそれぞれの部屋か、男女別という事にさせてもらいましょう」


「むーん」


 明らかに不服そうな私の声は無視された。



「ココ、ギルドに行くのでしょう?換金をすませて一度宿に戻ったら、皆で神殿を確認しに参りましょう」


 そうアスランテに言われて、そうだ、神殿を見に行かなくてはいけなかったと思った。


「じゃあ、早くギルドに行こ!」


「皆、帰ってから神殿に行くから用意しておいてね」


 そう言って、アスランテとギルドに向かう。


 もちろん、ギルドの帰りに美味しい物を手に入れる予定だ。


 前回と言っても最低でも10年以上前なので、私の記憶には神殿の事位しか残ってない。


「ねえ、アスランテ。こんなに早くに瘴気って集まるものかな?」


 というのは、以前に瘴気を浄化してからという事だけど。


「そう言われると、確かにおかしく感じます。今回は神殿の周りもよく調べてみましょう」


「うん」


 

 ギルドで換金を済ませ、依頼達成のお金を貰った。


 ギルドでは、アスランテに視線が集まり、すぐにギルドの事務所から偉い人が出て来て挨拶された。


 挨拶されたと言っても、私にじゃなくて、アスランテにだ。


 アスランテの純白の髪や、美しい容姿はとても目立つ。ギルドマスターは彼の事をよく覚えていた。


「これは、聖騎士様。何故此方に?何か気になる事でもありましたか?」


「ああ、たまたま立ち寄ったのだが・・・。神殿の瘴気の様子が気になった」


「やはり・・・そうですか、最近街にも病や怪我人が増え、どうも様子がおかしいと思っていたのです」


 一般の市民には瘴気等が見えないので、実被害が起こり始めないと、把握が難しいのだ。


「そうか、今日、仲間達と様子を見て来る。また何か分かれば連絡を入れる」


「ありがとうございます。では宜しくお願い致します」


 という会話があったのだ。


「ココ、美味しい物なのですが、まだ店も残っている様なのでその店に入りましょう」


「ん、どゆこと?」


 ギルドを出て歩いていると、アスランテは路地にある小さな店を指差した。


 カラカラと引き戸を引いて中に入ると、おばさんがいた。


「あれまあ、あんた、あの時の」


 どうやら、アスランテに覚えがある様だ。


「ご無沙汰しております。あの時の甘味が忘れられずまた来ました」


「はいはい、コン・レチェだね」


 狭い店の中で二人で小さいテーブルを挟んで待っていると、おばさんが木の器に入った甘い匂いのする物を運んで来た。


「ん?米・・・ん!」


 この味、知ってる。食べた事ある。


「覚えてますか?貴女は昔、これを食べて美味しいと仰った」


「んー!覚えてる。あの時はアスランテが買って来てくれたの?そう、美味しかったんだよ―」


 こっちには、米文化があるんだよね。前の浄化の時に疲れてへばっていた時、横から差し出されてずずーっとスプーンで口の中に掻き込んで食べた甘味がコレ。美味しかったあ。


 生米をミルクと黒糖で煮て、シナモンとレモンの皮が入ってる。多分、向こうの世界でも同じような食べ物があるんだと思う。おにぎりと一緒で。


 甘いけど、あっさりと食べられて優しい味だ。米文化の私にはなんとも堪えられない美味しさだ。


 ミルク粥と言ったら分かり易いかもしれない。


 スプーンですするように食べた。ミルク粥は飲み物です・・・。


「もう一杯!」


「美味しいですか?」


「うん!」


 至福の一時をアスランテと過ごしました。まる。


 


 

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