第8話 一匹たりない
ヤトの家でお茶を飲んだ後、直ぐに毒消しの傷薬を作った。
「よし出来た。早く持って行ってあげて。えっと飲み薬は食後に。傷薬は朝昼晩の三回塗布してね」
「分かった。直ぐに持って行く。ありがとう」
ヤトは薬を持って直ぐに怪我をした子供の家に走って出かけて行った。
薬づくりの道具を片付けて、足元に纏わりつくシオウを撫でてやる。
「どうしたのシオウ?甘えんぼになってるね」
「にゃーん。にゃおーん」
「んん?眠いの?」
何だか眠そうだ。大あくびをしている。
「にゃーん」
「疲れたのかもしれないよね。だってシオウにとったら、大変な事が色々あったんだから。ここでは安心して寝たらいい」
ベッドに連れて行き、いつも私がシオウを抱っこしている布をベッドの布団の中に入れてその上に乗せる。
布団をかけて撫でてやった。
「いい子、いい子。ねんねだよ。おやすみ」
優しく、優しく撫でてやる。そうして一緒にベッドにいるうちに私も寝てしまった。
獣人の村には静かで温かい空気が流れていた。
傷薬は、驚く程良く効いたそうだ。
翌日、その獣人の子供の両親がお礼を言いに、ヤトの家にやって来たのだ。
薬代をと言われたが断った。
もともと領主の息子に負わされた傷なのだ、薬代は領主の息子に貰うと言っておいた。
獣人は強靭な肉体を持って居るので、毒等の傷でなければ早く治っていた筈だ。ほんっと腹立たしいわ。
しかも、その日、またやって来たのだ。そのバカ息子達が。
見張り櫓(やぐら)から鐘を叩く音がする。
「ヤトさん。また領主の息子が馬に乗って来ています。仲間を連れて10人ほどです」
見張りをしていた村の者が、走って家にやって来た。
ハンターとシオウといっしょに見に行く。
向こうからは見えないけど、こちらからは相手が何をしているのかよく見える。
「オイ、あいつら火矢を射るつもりだな」
ハンターがそいつらのやっている事を見ながらそう言った。
確かに、矢の先に布を巻き付け、瓶から油を染み込ませているようだ。
「山火事にならないの?」
私は驚いて聞いた。
「結界が張ってあるから中には中には入って来ないが、周囲に火が付けば山火事が起る。自然が破壊されたら俺達だけでなく、街の人間だって困る。風向きによっては街に熱風が吹き込めばただじゃすまない」
「もう、私、ちょっと黙って見ている訳には行かないよ。出る!」
「オイオイ、ちょっと待て、俺達も行く」
「大丈夫。種投げるし」
「10人も居るんだ。あんなでも魔力持ちの貴族だから注意する必要があるぞ」
「わかった。結界はこっちからなら出るのは大丈夫なんだよね」
「大丈夫だ。ココ、気をつけてくれよ」
「うん」
ああ、あいつら矢の先の布に火を魔法で点け始めた。
ポケットから、種を出して投げる。
「「「「「「「「「「うわあああああああ」」」」」」」」」」
突然あいつらのすぐ傍に人喰い蔓の巨木が生えて、蔓が伸び、巻き付いて皆を吊り下げた。馬たちは驚いて立ち上がり、いなないて走り去って行く。
投げ出された弓と矢が散らばっている。
ヤトとハンターが火が点いた矢の先を足で踏んで消していく。
「何だ、領主の息子っていうから、もっと子供かと思ったけど、みんなオジサンじゃん。しかも頭悪すぎてびっくり」
男達は蔓に胴を巻かれ、振り回されて大声をあげて叫んでいる。どいつもいい年をしていた。
「どうすんだコレ?」
ハンターが呆れて見上げている。
「わーオシッコ漏らしてるのもいるわ。やっぱ子供だったのかな」
「お、降ろせ、ヒイッ。私を、誰だ、と、思って・・・ヒイイイイ」
「バカ領主の、バカ息子でしょ」
「おおお、お前達、こんな事をして、タダで済むと思ってるの・・・うぎゃあああ」
「なんだって?もう一回いってみな」
暫く、声も出なくなる位シェイクさせておいた。
「ゆ、許してくれ」
「ごめんなさい」
「許して下さい」
「私が悪かった」
「助けてくれ」
少しは反省?したようだが、こんなもんじゃどうせ直ぐに元通りだ。
ポケットから種を出すと勝手に跳ねて飛んで行き、前の男達と同じように、口や鼻から種が身体の中に入って行った。そしてまた大騒ぎになった。
身体中に生えて来た蔓にヒイヒイ言いながら地面に倒れて芋虫みたいにくねってる。
そいつらに、一応種についての説明をしてあげたけど、どの程度分かっているかは分からない。
身を持って体験しないとわからないタイプだろうから、今後の彼らの学習能力に期待しようと思う。
泣きながら帰っていったけど、歩いて帰るとだいぶ時間がかかるだろう。自業自得なのでしょうがない。
「やれやれだ。どうして揃いも揃ってあんなオバカばっかりなんだろね」
「ああいう貴族は多い。人の街の近くで暮らすのも危険が多いんだ」
そして、この最中、私は気が付いてた。
「こんにちは、獣人の方々と、巫女姫様」
歌うような声が聞こえた。ぞぞぞ。
首の後ろがチリチリしていたのだ。
振り返ると、金の長い髪でズルズルした長い衣裳の人物と。目にも鮮やかな純白の、ある意味懐かしい人達が立っていた。
赤いのが一匹足りなかった。
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