第9話 再会
「――――― お会いしたかった」
そう言って、アスランテは私の前に跪いた。おもむろに私の左手を手に取り、口づけする。
「あばばばば、」
姫か、私は姫?ああ、巫女姫だった。いや、ないない、ていうか、この人こんなキャラだった?そして『あばば』しか言えず絶句。
思考停止。フリーズ中。
「巫女姫。巫女姫に、私はとてもお会いしたかったのです。こうして触れる事をお許しください」
白い頭が私の前にある。それは本当に、白い精霊さんと同じ純白の白だった。
「ア、アスランテ?、アスランテ?どした―?」
「はい、アスランテです」
見つめ合った。正面だ。うわっキレーなアイスブルー。宝石級だよ。透明度高っ。もう現実逃避してもいい?
この人の顔、こんな間近で見た事ないなあ。だって背が高いからいつも見上げてたし、それに、こんなに微笑むとか・・・びっくり。
「ふっ、ふええええ?」
しかも、この人、ぎゅーしたよ、ぎゅー!!!
「アスランテ、巫女姫が死にそうですよ」
「えっ?申し訳ございません。そっとしたつもりなのですが、痛かったですか?」
そういいつつも、囲いは無くならない。私は頭を、ブンブン振った。
痛いか痛くないか?って聞かれたら痛くないよ。覗き込んでくる。圧倒的な美貌にクラクラする。美しいって暴力!!!
「やっと、お会い出来たのです。これからはずっとお傍に居ます」
えっ?居ます?居るの?ずっと?拒否権なし?イミワカラン・・・。首を傾げたままアスランテを見た。
自分が誰かに抱きしめられるとか、初めてだ。
私が抱きしめるのは、シオウで、シオウは家族だから。じゃあ、アスランテもそんな風に私の事を考えてくれてるんだろうか。
ものすごい優しい青い瞳だ。愛情が溢れてる。アレ、何で私泣いてるんだろう。
「――――あったかい・・・精霊さんだ。ごめんね。私、ずうっと気付かなかった・・・それに、向こうに帰してくれて、ありがとう。身体、大丈夫?何ともない?」
その温かい波動は、いつも夜に傍にいてくれた、あの白い精霊のものだったのだ。間違えようもない。
気になっていた事を、聞いてみる。
七年間、どういうわけか彼は、精霊として私を支えてくれていたのだ。今、初めて分かった。
「大丈夫です。・・・あの頃は、私も、どう貴女をお守りしていけば良いのか分からず、あのような意思疎通のやり方しか思いつかなかったのです。10年間、とても反省しました。もし次に、お会いできる事があれば、二度と後悔しないつもりで生きて参りました」
ああ、この人、私と同じだ。そう思った。
「うん、私も後悔しない。どうしてこの世界にまた戻ったのか分からないけど。この世界に戻ったらやろうと思ってた事がたくさんある。それをやりたい」
「では、私がお傍におります。これからは二度とお傍を離れません」
「ありがとう」
私はそう言ってくれた、跪いたままのアスランテの首に手を回し抱きしめた。
「えー、申し訳ないのですが、私もここにおります。巫女姫様にも色々と伺いたいことも御座いますし・・・」
なんか、言いにくそうにムーランの声がした。
「では、村に来られますか?獣人の村ですが、巫女姫のお仲間ならば来ていただいても大丈夫です」
ムーランの言葉に、ヤトが反応して答えた。
「ああ、それでは、結界の中に入れていただけるのでしょうか?」
「はい、三賢人の方々がこの村に来られる事があろうとは、思ってもみませんでしたが、どうぞ」
招かれたヤトの家で、ヤトの淹れてくれたお茶を飲みながら、居間で三人で話をする。
ヤトと、シオウとハンターは、続き部屋の台所でお茶をしながら、こちらの話を聞いている状況だ。
私が姿を変えている事については、二人共気にならない様子だった。むしろ黒目黒髪であれば目立つだろうからそうしていた方が良いだろうと言われた。
私の魔力の気配で、間違いなく私だと分かるのだそうだ。なんだよ、もっとびっくりするかと思った。
「巫女姫がお姿を変えられていても、それ程の違和感はございません。アスランテもそうなのでしょう?」
「私は巫女姫がどんな姿になられても、直ぐに分かる」
アスランテはきっぱりと言い切った。
「ええ、そうでしょうとも・・・」
なんか、ムーランの視線がゆるい。
「ねえ、ロドリゴはどうしたの?」
「ああ、巫女姫はご存知ではないのでお伝えしておきます。―――まず、今から話す事は、獣人の方々を貶める話ではございませんので、ご了承下さい。・・・ロドリゴは子供の頃、獣人の暴動で母親を亡くしております。もちろん、獣人の暴動は貴族の圧政のせいですので、悪い悪くないのお話は今するつもりはありません。そして、ロドリゴはその経験から獣人を憎んでおります。ですので、連れてきませんでした」
このムーランの話の前置きは、隣の部屋で聞いている三人に配慮したものだろう。
「それは・・・、知らなかった。そうなんだ。じゃあ、ロドリゴは王都に帰ったの?」
「ええ、貴女には会いたがっていましたが、獣人の村には行かないと言いました。王都の屋敷に戻っているので、用事があれば連絡しろと言っていました」
「そうなんだ。まあ、別に会わなくてもいいけどね」
「そう仰るとは思っておりました。もう一つ、貴女を追いかけて参りましたが、『とり残された地』を回っていらっしゃいますね。そのような意図を持って回られているのですか?」
「うん、そう」
さて、これからが話の本題だなと私は思った。
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