第9話 お兄さんと一緒
獣人だというそのお兄さんと一緒に次の村まで歩いている。
シオウは、このお兄さんは一応安全だと分かった様子で、後ろから付いて来る。
「ねえ、お兄さん。実は獣人の事を良く知らないんだけど教えてくれる?」
「もしかして、連れてるチビが獣人だと知らなかったのか?」
「うん、まあ、獣人だとかそうじゃないとかっていうのは、そんな重要な案件じゃないけどね。シオウとは数日前に知り合ったの。でも凄く大切なんだ。だから一応獣人の事を知っておかないといけないでしょ」
「そうなのか・・・。変な奴だな。それであのチビとはどこで知り合ったんだ?」
「向こうの大きい街に着く前にね。木の上にいて、怪我をしていた」
「それで拾ったのか?」
「拾ったっていうか、お腹を空かせてたし、ものすごく可愛かったから直ぐにずっと一緒にいたいと思ったよ。ねえシオウは猫にしか見えないんだけど、他の人間もシオウを見たら獣人だって分かるの?」
「いや、わからないだろ。俺は獣人だから分かるけどな。でも、猫に見えてもあんなヒョウ柄の猫はいないからな。逆に珍しがられて捕まえられて売られるかもしれないな」
「じゃあ、やっぱり街中とかでは懐の中に入れて隠しておいた方がいいね」
「そうだな。小さいうちはその方がいいだろうが、もう人間の手には捕まらない位には元気そうだ」
「シオウはとても小さいけど、人にもなれるの?」
「獣人がヒト化するのは、だいたい五歳位からだな。個体の差があるから絶対とは言えないが」
ハンターは振り返ってシオウを見ている。
「じゃあ、シオウはまだ小さいんだね」
「そうだな。しかし、ずいぶんお前に慣れてるな」
「シオウは家族だからね。すごく大事だもん」
「そうか、あんなに小さいのに親から離されたら死んでしまう所だったな。多分、村を襲われて逃がしたんだろうが・・・それもあれ程小さい個体だから出来たのだろうな」
「あのね、ハンターさん」
「ん?『さん』はいらないぞ」
「じゃあ、ハンター。ハンターはシオウの村を襲った奴の事を知っている?」
「お前、それを知ってどうするつもりだ?」
「そんなの、決まってる。捕まえて二度と同じことが出来なくしてやるんだ」
「ははは、それが出来ればな・・・」
「ギルドで聞いたんだけど、30年おき位に、他種族の村が襲われてるって」
「なんだ、そこまで知ってるのか。・・・そうだ、俺達には見えない敵がいる」
「見えない敵?」
「何処からともなく現れて、村人を全て何処かに連れて行くらしい。逆らう者は皆殺しにするそうだ」
「目的も、何処から送り込まれているかもわからないの?」
「生き残りがいないのさ。あのチビは小さくて何も分からないだろうな」
「私は・・・30年前に滅ぼされたドワーフの村に行って、土地の記憶を視たよ」
「は?そんな事できるのか!?」
「うん。黒い騎馬の一団が、村を襲っていた。ドワーフの戦士は殺されて、村の人達は魔法陣の中に放り込まれていた」
「黒い騎士だとっ!!!・・・」
ハンターは絶句してしまった。
「何か知ってるの?」
「・・・ああ、噂だがな」
「教えてよ。何者なの?」
「王の・・・『王の使徒』だ」
「王のって、どゆこと?」
「王を守るのが黒い騎士団だ。そう呼ばれている。その騎士達は全身黒の甲冑に身を包んでいて、王のみが動かせるという話だ」
「王・・・」
ここに来てクソな話が出てきた。今度は私が黙り込む番だった。
「おい、大丈夫か?」
「うん、ちょっとクソな話を聞いて、気分が悪くなっただけ」
「そうか。だが王族が相手では、助けを期待する事すら難しい・・・」
王族・・・あいつらは、何のためにそんな事をするのだろう?ただ殺したいだけならば、30年おきに起るという事の意味が分からない。
「ねえハンター。ハンターが冒険者をしているのはそれを調べる為?」
「・・・ああ、そうだ。国の中の事も知らべたいしな。他の種族の者達も同じようにそうやって調べている」
「そりゃそうだよね。次は自分達の村かもしれないのに、何もしないでいられないよ。じゃあ、仲間集めしないと」
「は?」
「だって、敵が誰だか分かったんだよ。仲間を集めて、戦う準備をしなけりゃ、同じ事の繰り返しだよ。次の30年後はハンターの村かも知れない」
「お前・・・小さいのに妙な子供だな。だが、その通りだ。分かってる。だから、冒険者をしながらあちこちの村と繋ぎを付けているんだ」
「じゃあ、今から仲間だね。『消された獣人の村』に行くつもりだったんでしょ?」
「ふう、お見通しってワケだな。で、お前は一体何者なんだ?普通じゃないのは分かった」
そこから、道々、長い話をしながら歩いた。
ハンターは驚きながらも、口を挟まずに黙って最後まで聞いてくれた。
「そうか・・・お前があの『緑の巫女姫』だったとはな・・・」
「そう、本当は黒目黒髪の、目付きの悪いオバサンなんだよ」
「でも、黒目黒髪だなんて、この国ではそれだけで王族よりも尊ばれる。どんな美女よりも綺麗だと言われるはずだ」
「あ”?どゆこと???」
何?それ初耳。
「世界を救う為に現れると言われている民間伝承さ。『黒』は一番美しい色だ。特別な色だ。この国には黒を持つ者は居ない。それを持つ事はとても美しい存在だという事だ」
「でも、三賢人にはブズとかババアって言われてたんだけどな」
そうだ、初めて召喚された時、王と呼ばれるおっさんは、ものすごく嫌な目で私を見ていた筈だ。ゴミでも見るみたいに。あれって、私の黒髪が気に入らなかった?
「三賢人とは三大公爵家の者だろう?彼らの考えはわからない。それより庶民はどうだった?」
「うーん・・・」
庶民と直接触れ合うような事はほとんど無かった。いつも三賢人が張り付いていたし。
皆、遠くから頭を下げてひれ伏して拝み倒してくるから、めっちゃ引いたよな・・・。
「いまの見た目にしているのは、とてもいい事だと思うよ。黒目黒髪でいたら目立ってしょうがないからな」
「そうだね。ずっとこのままでいるよ」
「にゃーん」
シオウが私の肩に飛び乗り、顔にスリスリして甘えて来る。
「シオウ疲れた?よしよし」
ローブの前を開くと、シオウは上手に身体を伝って前にある寝床の袋に潜り込んだ。
「何だ、あはは、ココは親代わりだな」
「シオウが居てくれるから、私は独りぼっちじゃない。それがすごく幸せ」
「そうか」
ハンターが柔らかく笑った。
シオウと一緒で、半々のグラデーションになっている彼の瞳は宝石のように美しかった。
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