第8話 緑の巫女姫の力

 村に入って直ぐに、沢山拾って来たさっきの種を地面にばら撒いた。


「よおし、じゃあ、まず種から実を生らせるよ」


「「うん」」


 エルフ兄妹は期待に満ちた目で地面に散らばる種に目をやる。



「ピンプルペンプル、ペンペンペン!」


 こんなけったいな呪文を唱える必要は、全くないけど、ノリだよねノリ。


 その辺で拾った枯れ木の枝を振り回して唱える。うん、これはなんか楽しい。


 子供二人は驚いた様に私を見ている。ふふふ凄いだろう↑↑↑テンションアゲアゲだ!


 振り回す枝の先から眩い光が放たれる。


 浄化作業ってけっこう疲れるし、昔は苦行でしかなかったのに、今はなんて楽しいんだろう。不思議だ。



 確かこんな呪文を唱える可愛い女の子のキャラクターがいたよね。←だいぶ勘違い


 あのキャラめっちゃ可愛くて好きだった。 


 種から高速撮影動画でも見ている様に、細い緑の蔓がきゅーんと四方八方に伸びて葉を茂らせ、お互いが絡みながら緑の壁を作っていく。それがぐんぐん伸びて広がっていく。


 白い花が咲きみだれ、甘い香りが漂うと、次には花が散り、小さな実が結実し、アッと言う間にこぶし大に膨らみ大きく育つ。それが熟してツヤツヤした真っ赤な実になった。


 今度は花の香りではなく、熟した果物の甘い良い香りが漂い始める。


「すごい~すごいね、かわいいお兄ちゃん!マルルメロロの実がこんなに!」


 妹は飛び跳ねて喜んでいる。長い耳先が揺れて可愛い。


「ココ兄ちゃんて呼んでね」


「うん、ココ兄ちゃんありがとう。わたしは、ルン。これ、たべていいの?」


「いいよ、一応毒見で先に食べて見るよ」


 私は大きな実を採り、薄い赤い皮にカプリと噛みついた。水分がそこから弾けるように口に広がった。


 熟したスモモに似ている。芳醇な香りが鼻から抜けて、じゅわーっと爽やかな甘みが口中に広がる。


「うっまーい!ほら、二人共食べてごらん」


 直ぐに二人はまねっこして、私と同じ様にする。


「ほんとーおいしい~。あま~い。おいしい~」


 妹エルフのルンは満面の笑顔だ。


「本当だ!ココ兄ちゃんありがとう。僕はソルトだよ」


 兄エルフのソルトも嬉しそうに中になって食べている。


 兄妹が食べているのを見ながら、私は畑の方に歩いて行き今度はこの村中に広域魔法をかける準備をする。


 村の中を緑の魔力で浄化して、多分、過去には緑で満ちていた筈の姿に戻そう。


 「ピ~ンプルペ~ンプル~ペ~ンペ~ンペ~ン!」


 棒を振り回し、ぐるぐる回って緑の魔力を大放出だ!キラキラ光が溢れて、楽しすぎる。


 ちょろちょろと、ド根性で生えていた草や野菜が、一気に地面に広がって行く。


 枯れ木は芽吹き、村はジャングルの様に緑に満ちていった。空気に金色の粒々が混ざってキラキラ輝いた。


 村の人が異変に気付き、騒ぎ始める。




「こっこれは!」


「噂に聞いた伝説の巫女姫の力みたいだ!どうして・・・」


「すごい、枯れた村が緑に変わった」


「おい、食べ物が実っているぞ」


「嘘みたいだ、野菜が沢山生えている」


 澱んでいた空気は緑の爽やかな風に変わり、美しい緑に満ちた村に村中が驚いていた。


「ココ兄ちゃんすごい。もしかして神様なの?」


「いやいや、緑の・・・魔術師とでも呼んでくれ~」


 かなり、適当な事を言いながら、いい仕事したなと自分で感心する。うん、ちょっと疲労感を感じるな。


 エルフ達が大喜びで、一体なにが起ったのかと話をしている。


 すると、目ざとく、人耳もちの私を見つけたお爺さんが早足でやってきた。


 一見、杖をついたよぼよぼに見えるのに、カサカサカサっと滑るように只者ではない動きでやってきた。


 怖い、動きがゴッキーみたい。←失礼な奴


「やあ、やあ、貴方様が、もしかして村の瘴気を浄化して下さったのですかな?何かお礼をしたいのですが、こんな所なので今はあまり大したおもてなしもできないのじゃが、何かお望みはありませんかな?」


「えーと。お礼は、寝床とご飯でいいです!」


 私は元気に答えた。なんか疲れたし、ご飯食べて早めに寝たい。腹へった。


「・・・なんて、欲の無い方なのじゃ。私は村の長老をしているクサハといいます。是非とも家にお泊り下さい」


「ありがとー長老さん。泊めてもらえるだけで、十分です」


「ほっほっほっ、自分に正直な方じゃの。どうぞこちらに来てくだされ」


 という流れで、その日は村の長老の家に泊めて貰う事になった。


 長老の家は他のエルフの家よりは少し大きい程度の粗末な高床式の家だった。


 それでも、心尽くしの接待をしてくれた。出されたお茶も漬物も、野菜のおひたしみたいなのもすごく美味しかった。マルルメロロも出してくれる。ああ、甘くておいしい~。


「あのね、長老さん。嘘だと思うかもしれないけど、この村の結界を解いてしまえば、村の中に溢れている浄化の力で、周りを取り囲む森や山も浄化が進んで、動物が多く住む山に戻ると思うよ。そしたら食料事情なんかも豊かになるとおもう」


「おお、嘘だなどと思いはしませぬぞ。貴方様は緑の・・・魔術師様でしたかの?。もう我らはこの地を捨てて何処かに移り住まなくてはならないかと諦めかけていたのですが、貴方様のお陰で助かりました」


「うん、良かったよ。ただし、私がこの地を離れて二日以上経過してから結界を解いてね。お願いだよ」


 それはもちろん、キチク三賢人に居場所がバレテしまうからだ。


「大丈夫です。貴方の仰るようにいたしましょう」


 それから、三日程エルフ村で過ごした。


 ソルトとルンの兄妹や他の村の子供達とも村の中の川で遊んだり、木登りしたりとゆったり楽しんだ。


「ねえ、この国には精霊っていないのかな?」


「精霊って、物語になら出て来るけど、本当にいるっていうのは聞いたことがないなあ」


「わたしも、きいたことない」


 やはり、二人の反応も、その後村の中で聞いて回った時も、だれも精霊を見た事がないとの話だった。


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