第6話 遁走(とんそう)
なんかさあ、どうもアレよ。
アレっていうのが、首の後ろ辺りがさ、な~んかチリチリするわけよ。
これって・・・これって・・・絶対マズいと思う!
夜中にガバリと起きだし、荷物を纏めた。
私は、この宿屋で一番小さい部屋を借りて寝起きしている。とても気に入っていた。←既に過去形。
うん、ヤッバーいいっ、間違いなく、私の妖怪アンテナがピリピリしている。
ババババババッと、少ない荷物をリュックにしまいこみ、皮の腰ベルトを巻く。
このベルトには小刀のホルダーが付いていて二本挿していた。また革で作られたポケットも取り外し出来る優れもので気に入っていた。全て村で手に入れた物だ。
しかし、あのまま朝まで寝ていたらマズイ所だった。
何か途轍もなく悪い予感がする。今すぐダッシュで逃げなくてはならない。
絶対会いたくないと思っている奴らが近づいているに違いない予感する。
そーっと窓を開け、靴のまま地面に降りる。
おじさん達にはお世話になったが、挨拶をしている場合じゃない。幸い宿賃として幾らか先払いしているので、良いだろう。どちらにしても、そろそろ潮時だったのだ。
月明りの中外を見回した。人差し指を舐めて風にさらす。
「・・・うーん、こっちだな」
ハイ、やってみたかっただけです。意味はナシ。
この山の麓の村からは、裏の山に向かう道の他には、三方に向かって道が伸びていた。
私の感では、右の道から危険が来ようとしている。真ん中の道ではなく左の道をチョイスして、脱兎のごとく走り出した。
月明りのお陰で先までよく見える。私の健脚くんがいい仕事してくれていた。道はデコボコで石が結構あり気を付けなくてはならないが、七年もこの国中を歩いたんだからそういうのも慣れっこだ。
足元を見れば日本で履いていたブーツで、履きやすく歩きやすい物を選んでいたので、とても具合が良い。
これは生活魔法の派生仕様で保護できるので、そうやって大切に履くつもりだ。
最初の異世界召喚の時はよく足を挫いたりしていた。こちらの靴は質も性能も良くないのだ。
「どんくっせーな」
ロドリゴの声を思い出し、ムムッとする。
「もう少し注意深くないとダメですよ。巫女姫」
あんたの方が姫みたいじゃないかと思うよな、ズルズルした神官服を着た美麗な男から姫、姫言われた日には
「カーッ、ぺっ。ほっといてくれっ!」
「下品ですよ、巫女姫」
「・・・」←アスランテ無言
アスランテの始終、辛気臭い視線と無言の攻撃にも耐えなければならなかった。
そういえば、今から思えば、アスランテの真っ白な髪は、精霊さんに似ていた。
なんか、この国の最北端にある島の部族だとかで、瞳はアイスブルーで神話から抜け出たような男だったなあと思う。うん、あの真っ白な髪は悪くなかった。だって真っ白な精霊さんとお揃いだ。
まあ、キチク三賢人のおじさん三人組は、神がいろんなものを与え過ぎたぶっちぎりの容姿をしていたのだ。
えっ?惚れなかったのかって?
いやー、もうそんな余裕なかったね。
城に召喚された時、まだ私のぶっちぎりの実力を知らないこの国の王様だとか重鎮達は(全部じじい)、死ぬか、生きるかの選択を強いたのだ。なんか槍みたいな棒で小突き回されて、牢に入れられた。
ええ、そりゃもう死にたくないから生きる方(巫女姫として働く方)を選びましたとも。
その後、三賢人に会わされ、直ぐに浄化の旅に出てからは、毎日修行ジゴクで、顔なんか二の次だ。
「死にたくなければ、実力をつけなさい」
とは、ムーランの言葉で、しごきまくられた。お陰で今の私があります。
ありがとう、ムーラン。なんて思うかっ!マジ、毎日、血反吐吐いたわ。
もう、周り全てが敵だと思ってたけど。そんな中、白い可愛い精霊が私の傍に現れたのだ。
はあ、もう天使。めっちゃ可愛い。大好き。
と、そんな事情で、おじさん達の顔には三日で慣れたのだった。
それにしても今の、『迫りくる何か』の状況は、先日の種魔法のせいだろう。生活魔法と違い、植物を操る巫女姫の魔力だ。
巫女姫の魔力を察知されるんじゃ使うのに困るなあ。どうしたらいいかな?
しかし、私を探しているということは、やはり、この国の都合で呼ばれたのだろうか。
「断固、拒否する!」
思わず拳を突き上げる。うおー!。あ、いっけね、ちょっとゴリっちゃった。テヘ。
そういえば、左の道を行けば、エルフの村があると宿屋のおじさんが言っていた。
だけど、エルフって保守的で村の周りには結界があるという話だった。人を嫌うので、行っても村には入れないだろうと言っていたなと思い出す。
まあ別に、入れないのは構わない。そのまま通り過ぎて、次の村に行けばいいのだ。
でも、エルフだったら、もしかしたら何か精霊に関する事を知っているかも知れない。そういう出会いがあるかどうかは進んでいかなければ分からない事だ。それもよし!
機嫌よく人気のない夜の道を歩く。夜盗等が出れば戦うだけだ。だけど多分そんなものには会わない気がする。
『ダイジョーブ ゼッタイ モトノ セカイニ カエシテ アゲルヨ イツモ ソバニイルヨ』
精霊さんは、あの厳しい日々の中、毎晩そう言って私を慰めてくれた。
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